元フロントスタッフ兼仲居頭のお宿備忘録

お宿の従業員とお客様両方の視点を得た自分の備忘として実際にうかがった【お宿の魅力】を書き残していきます。

【千葉県鴨川市・小湊温泉】魚彩和みの宿 三水

2023-03-05 17:55:26 | 旅館

最初のご挨拶から時間が経ってしまいましたが、

本題の第一弾は、

「関東で美味しい魚料理が食べたいね~」

という話しから利用させていただいた

 

千葉県鴨川市の小湊温泉「魚彩和みの宿 三水」さん

(以下、「三水さん」と呼ばせていただきます。)

 

を紹介させていただきます。

 

みなさんのご記憶にもまだ新しいかと思いますが、

千葉県の特に沿岸部は2019年(令和元年)9月に台風15号が猛威を振るい、

甚大な被害を受けた地域です。

残念ながら、その損害により廃業を決断したお宿もあったことと思いますが、

その苦難を乗り越え、

改修・改装を経て新しく生まれ変わった良いお宿が増えている地域でもある、

という話しを聞いていました。

 

三水さんは、2017年から少しずつリニューアルを進めていたそうなので、

台風の影響による改装の話しとは無関係かもしれませんが、

リニューアルによりグレードアップを果たされた(現在も進行中なのかも?)

お宿の一つだと思います。

 

国の天然記念物「鯛の浦」遊覧船の船着き場に隣接し、

「誕生寺」さん総門の本当に目の前なのですが、

派手な看板などは出されていないので、

のどかな漁港の風景にすっかり馴染んでいて、

一見、どこにお宿があるのかわからないくらいでした。

 

ところが、入り口の暖簾をくぐると、

洗練された落ち着く和モダンの家に帰ってきたかのような、

安心感にも似た居心地の良さに一瞬で包まれました。

 

三水さんがHPで謳っていらっしゃる

 

「田舎の我が家へ、おかえりなさい」

 

が入り口から既に始まっていました。

 

そして、敷地が潤沢とは言えない場所でありながら、

あえて設けられている入り口からフロントまでの和の通路を進むうち、

お宿に到着した実感とともに、

日常から非日常の世界へ向かっているような高揚感も生まれ、

良く考えられた空間使いだなぁ…と

通ったばかりの通路を思わず振り返り、まじまじと眺めてしまいました。

(※あくまでも個人の感想であり、建築には疎いので、

デザイナーさんの意図は全然違うかもしれませんが。笑)

 

フロントデスクもコンパクトながら古民家のような落ち着いた設えで、

その脇にはまさに美術館のように商品をディスプレイした

おしゃれなギャラリーショップが広がっています。

 

そして、なんといってもおススメなのが、

そのショップの奥に構えられた

 

フリードリンクを備えたスタイリッシュなラウンジ

「三水茶房 ippuku」

 

です!

 

大きな窓から遊覧船の船着き場越しに見る海の景色、

お天気の良い日は

その海に沈んでいく夕陽(夕日百選に選ばれたそうです。)を見ながら、

フリードリンクのビールをきゅーっといけば、

贅沢な至福の休日気分を味わえます。

 

海もただ広々としているのではなく、

手前に小湊漁港や遊覧船の船着き場、

両脇に小高い崖が見えて湾岸の景色になっているのが

なんだか旅情を誘うのだと思います。

 

その景色を眼前にできるカウンター席、

幅広のソファー、大人数で談笑できるテーブル席など、

それぞれの楽しみ方で

ゆったりと時間を過ごせるスペースとなっていました。

 

フリードリンクのビールは、

隅田川沿いに本社を構えるビール会社さんのクラフトビールでしたが、

クラフトビールなのに癖がなく、柔らかいけど味がある。

ビールは乾杯の一口だけが美味しいと感じる私ですが、

なんとも美味しく、飲みやすくて、

ついつい二口、三口とちょっと飲み過ぎてしまうほどでした。

ただし、ビールのフリードリンクは15:00~17:00限定なので、

ビール好きの方は是非チェックイン開始の15:00に

到着されることをお勧めします!

 

もちろん、アルコールが苦手な方もご安心ください。

ビール以外にも、コーヒー各種、

季節替わりのオリジナルブレンドのお茶やハーブティー、

アイスキャンディがフリーで提供されています。

しかもこれらは15:00~23:00及び翌朝6:00~9:30まで利用可能だそうです。

オリジナルブレンドのお茶関係は

一つ間違えると癖が強くなってしまったりしますが、

こちらもとても飲みやすく、ホッとする味わいのものばかり。

私も癖の強いものは苦手ですが、美味しくて何杯もいただいてしまいました。

 

フリードリンクの提供は、維持・管理のオペレーションやコスト、

ドリンクの検討・選択決定など悩ましい点も多く、

「無料であれば、多少のことはお客様も許してくださるはず」

という甘えから、少々雑な内容になってしまうことも少なくありません。

でも、三水さんはお宿の売りとなるロケーションに、

おしゃれなサーバーやカップ類を備え、

オリジナル、かつ、なんと言っても「美味しい!」ドリンクを

バランス良く揃えられていて、

かなり力の入った質の高いフリードリンクでした。

お客様の満足度もさぞ高いことと思います。

どちらかというと観光をするよりも、

お宿でゆったりとする旅が好きな私としては、

このラウンジ目的で三水さんにまたうかがいたいとさえ思いました。

 

そして、お部屋も快適な滞在のための気配りが行き届いていました。

恐らく建物のベースは年季の入ったものだと思うので、

館内通路やエレベータが少し狭く感じたり、

館内階段もレトロな印象はありましたが、

客室内は旅館のぬくもりとホテルの快適な居住性の両方を兼ね備えた

新しい造りです。

 

今回はお料理目的で、温泉には重きを置いていなかったので、

別邸の温泉付き客室ではなく、

本館海側のシャワーブース付き和洋室を利用させていただきました。

幅広でゆったりと休めるベッドが2台あり、

鯛ノ浦を臨む窓側のスペースは6畳程の畳敷きですが、

そこにソファーや椅子が置かれています。

ソファーもあえてシンプルだからこそ、

ゴロンと横になってもしっくりときて、

いつまでもゴロゴロしていられました。

デザイン性と機能性の両方を併せ持った椅子も座り心地が良く、

一度腰を据えてしまうともう立ちたくありません。

 

でも何より、ソファーや椅子に座っても、

素足の足下に感じる畳が心地いい!

若い時は畳の良さがわからず、自宅にも和室はいらないと思っていましたが、

40歳を超えてたまたま和室のある家に住んでみて、畳の良さを痛感しました。

フローリングに直接ゴロンとなろうとは思わないですが、

畳はなんだかゴロンとなりたくなり、

そして寝転んだ時の安堵感と解放感。

夏は涼しく、冬は温かい感触。

やっぱり私、日本人だなぁ~と思うとともに、

畳という知恵・文化を生み出した先人に畏敬の念すら覚えます。

 

ベッドやソファーという現代に合わせた機能性・居住性を取り入れつつ、

旅館や日本の伝統文化である畳は残している設計がとても気に入りました。

 

また、照明も心地よい空間づくりに貢献していました。

メインは程よい間接照明で、暗すぎず、明るすぎず、

ストレスなく、ゆったりとした気分で過ごすことができました。

もちろん、ベッドサイドには手元用の照明もあり、

椅子の傍には読書用と思われる背の高いスタンドも備えられていたので、

必要に応じて明るさをプラスできます。

デザイン性と快適性、実用性を兼ね備えた照明づくりは、

簡単なようで意外と難しいのですが、

ここでもまた三水さんの「お客様満足の追求」が見えた気がしました。

 

そして、特に女性の方は、

何気なくチェックしてしまうお部屋のアメニティですが、

今回のお部屋にはMARKS&WEBさんの化粧水等が置かれていました!

個人的にMARKS&WEBさんの商品が好きなのと、

お宿側の立場に立つと、

どうしても業務用アメニティのほうがコスト・手間的に都合が良いので、

MARKS&WEBさん(恐らく業務用商品はないと思うのですが…)を

置いているとは!!と驚きと喜びで、

それだけでもテンションが上がってしまいました。

 

その他にも、

  大浴場・貸切風呂等に持って行ける荷物用カゴバックもおしゃれ。

  浴衣と作務衣の両方がお部屋にあり、好きな方を利用できる。

  大浴場もお部屋もドライヤーは

  パナソニックさんの大風量のナノイーを採用。

  お客様の視界に入らないよう、

  テレビ等の配線や恐らくWifiのモデム等も棚の中に格納されている。

などなど、あげ始めると切りがないですが、

一つ一つ丁寧に張り巡らされた気遣い。

そうありたいとは思っても、それを実現するのは容易でないことも多いです。

三水さんの努力に頭が下がる思いでした。

 

お料理目的でうかがったのに、特筆したいことが多すぎて、

既にだいぶ長くなってしまいました。(苦笑)

 

お夕食では、千葉県の名産・アワビや伊勢エビを含むお造りの盛り合わせ、

金目鯛の煮付けなど、お魚の甘さや脂など素材の味わいも

もちろん堪能させていただきましたが、

印象的だったのは「ブリしゃぶ」でした。

しゃぶしゃぶするお鍋のつゆにオリーブオイルが加えられていて、

「ん?これはどんな感じになるの??」と思いながらいただいてみると、

和のだしと洋のオリーブオイルの見事なマリアージュ。

そして、それらとブリやお野菜とのさらに見事なマリアージュ。

 

温かいのだけれど、お魚やお野菜がオリーブオイルをまとって

カルパッチョ的な…。

でも、鍋つゆのだしのちょっと香ばしいような風味も加わって…。

結論は…美味しい!!

お鍋にオイルは初めての体験で、

「へぇ~…こんなふうになるんだ!?」と

ちょっと目を見開いてしまいました。

 

お魚は種類が多いので、素材が良ければ、

生・焼く・蒸す・煮るなどシンプルなお料理で

十分様々な味を楽しむことができますが、

それに甘んじることなく、さらにお客様の記憶に残るよう、

工夫・研究されている料理長さん、厨房のみなさんの思いが

垣間見える一品でした。

 

そして最近は、デザートは口直し程度に力作の一品を!、

というお宿も多いですが、

三水さんのデザートは、力作の三品を!と言わんばかりに、

スイーツ好きな方には嬉し楽しいボリュームで

お食事を締めくくってくれました。

私もご飯は、満腹で少しだけギブアップさせていただいたにもかかわらず、

俗に言う、「甘い物は別腹」でデザートはしっかり完食いたしました!(笑)

ごちそうさまでした。

 

前述のとおり、今回、温泉に重きを置いていなかったので、

ご参考になることはあまりお伝えできないかもしれませんが、

温泉・お風呂は気になる方も多いと思うので、

最後にわかる範囲で触れさせていただきます。

 

別邸は全室温泉付き、本館には貸切風呂が2ヶ所あるので、

大浴場はそれほど広くはないですが、

私が夜と朝各1回利用した際は貸切り状態でした。

(平日だったこともあるかもしれませんが。)

 

最近はみなさん、旅行に行ったら、多少高額でも、

プライベート空間で贅沢にお風呂もゆっくり楽しみたい、

という方が多いようで、

温泉や露天風呂付き客室とそうでない客室があるお宿では、

むしろ前者から予約が埋まっていく傾向にあるようです。

私が以前働いていた旅館もまさにその状態で、

特にコロナの影響が大きかった時期は、

露天風呂付き客室「しか」予約が入らないという日々が続きました。

(その旅館は温泉ではなかったにもかかわらず、です。)

 

三水さんもほとんどの方が別邸を利用されているようでしたので、

その傾向があるのかもしれません。

もしかして、本館に宿泊しているのは私達だけ?と思うほどでしたので、

おかげで大浴場を貸切ることができました。

 

大浴場は2ヶ所あり、朝夕で男女交代制でしたが、

いずれも脱衣所や半露天風呂はリニューアルされているようで、

コンパクトながらモダンで落ち着くデザインでした。

ただ、配置上、海を眺めたりはできませんので、

海を見ながらお風呂を楽しみたい方は、

別邸に宿泊されるか、貸切風呂を利用されることをお勧めします。

 

私もマニアの間では名湯と囁かれる温泉旅館での仕事が長かったので、

温泉の難しさ、大変さはそれなりにわかっているつもりですが、

湯量が豊富とは言えない千葉で温泉を提供されるのは

大変なご苦労があることと思います。

それでもお客様に喜んでもらえるようにと、

温泉を提供されている心意気に感謝しながら、

ぐだ~っと手足を伸ばし、のんびり浸からせていただきました。

 

泉質は日本の中でも希少で良質な温泉なので、

湯量が増える奇跡が起きるといいのですが…。

こればっかりは、自然のものなので祈るほかないのが悔しいですね…。

 

 

翌朝、また一つ、再訪したいと思えるお宿に出会えた喜びとともに、

離れがたい気持ちでお部屋を後にしました。

 

最後に玄関の暖簾を上げて見送ってくださった

若い女性スタッフさんの笑顔が、

お寺の門前にふさわしく穏やかな温かさに溢れていて、

後光がさしているかのように素敵でした。



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