あいおらいと

主に、お友達への連絡用でたまに、日々を綴ったり…していたはずが、いつのまにやら作品置き場になりつつあります。

おたんじょうびおめでとう、なもうそう。

2016-04-04 00:00:00 | もうそうはきだし中
今年もそんな時期なので。
おたんじょうび、おめでとうございます^^



家でくつろいでいると電話が鳴った。
かけてきたのは小学校以来の旧友。たわいない世間話の最後に彼女は言った。
「今度の日曜日は、みんなでお花見するから。一緒に行きましょう?」
彼女の口振りから察するに、私が参加するのは決定事項なのだろう。
少々遠方にいる私に配慮して、準備は彼女たちがやってくれるというし、時期的にそういうことなのだろうと予想できたから、遠慮なく参加させてもらうことにする。
準備をし、そろそろ家をでる頃になって、玄関のベルが鳴った。
電車の時間もあるし、大した用事でなければいいと思いつつ、覗き窓から相手を確認すれば、馴染みのある彼の姿。
慌ててドアを開ければ、よっ!と軽く手を挙げる。彼も今日の花見のメンバーに入っていたはずだけど、どうしてこんなところにいるのかしら?
「何してるの?」
「それが俺の役目って言われたんだよ。」
私の質問に、彼はそっけなく答える。誰の差し金かもおおよその見当はつくから、心の中でそっと悪態をついてみる。私と彼は、彼女たちが考えているような間柄じゃない。こういうのはやめて、と何度お願いすればわかってもらえるのだろう?
「荷物持ち、って言われたんだが、どこだ?」
何もしなくていい、と言われても手ぶらで行くわけがないことはお見通しだったらしい。
「それじゃあ行きましょうか、お嬢サマ。」
用意しておいたバスケットを渡せば、空いた方の手をわざとらしく差し出してくるから、思いっきりはたき落としてみる。
天気も良くて、この時期にしては空気もそこそこに暖かくて、まさにお花見日和。
それすらもなんだか仕組まれている気がして、なんとなく面白くない。
そんな私に彼はどうでもいい話を降ってくるから、こちらもどうとでもとれる言葉を返す。そんな感じで電車に乗り、降りて呑気に歩いてたどり着いたのは、花見の定番である公園…の前にある喫茶店。
店休日は日曜、と書かれている札の上に、「本日貸し切り」のプレートが下がっている。
含みのある彼の笑顔を一瞥して扉を開ければ、ぱん、とクラッカーが弾けた。
「お誕生日、おめでとう!」
「はい、どうもありがとう。」
最初に誘われた時から、この展開はなんとなく予想できたから、用意しておいた台詞を棒読みすれば、あちこちから苦笑混じりの笑い声がこぼれる。
案内されるまま席につけば、持たせていたバスケットは彼が首謀者と思しき友人に渡しているのが見えたから、きっとあとでいい具合に分配してもらえるだろう。
「それで、お花見は?」
頃合いを見計らって聞いてみれば、何を言っているの、と言わんばかりに首を傾げられた。
「私はお花見、って言われて来たんだから。花を見ずして帰るわけにはいかないの。」
みんなの心遣いは嬉しい。でも、こんなだまし討ちみたいなやり方は面白くないから、あえて駄々をこねてみれば、裏庭を案内された。
そこには一本だけ満開の桜と、手入れの行き届いた花壇。
庭が楽しめるように置かれた小さなベンチに腰掛ければ、道路の反対側からかすかに喧騒が聞こえてきた。公園の中では相当数の人が桜を楽しんでいるらしい。
「こういうのも乙なもんだよな。」
いつの間にかやってきていた彼に差し出された、暖かい飲み物の入ったカップを受け取って口を付ける。
「そうね。」
それ以上何も言ってこないから、私も何も言わない。でも、その空気が心地よくて、ただ遠くを眺めていると、ぱたぱたと軽やかな足音が近づいてきた。
「こんなところにいた!主役がいないと場が盛り下がるから、早く戻ってきて!」
年度替わりでばたばたしている時期だから、こんなゆったりできる時間を用意してもらえるのはありがたい。…こんな忙しい時期に、わざわざ集まって誕生日を祝ってくれる友人がいることも。
「ありがとね。」
心の中だけで言ったつもりだったのに、うっかり声にでていてしまったらしい。
「「どういたしまして。」」
聞こえたらしい彼と、彼女が一瞬怪訝そうな表情を見せたのち、彼ららしい笑顔を浮かべて答えてくれた。
コメント
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