タイトルは、梶山恵司著『日本林業はよみがえる』にあった言葉だ。
『悪魔』とは、穏やかでない怖そうな表現だが、次のような意味で使われていた。
政治家の方は、大本(おおもと)を決めると、後は実務に任せて「良し」としてしまう。
しかし、どんな仕事、経営戦略も、PDSサイクルが基本と言われる。
つまり、Plan(計画)→Do(実行)→See(統制=評価)の繰り返しだ。
実務のあらゆる段階・細部にこそ追跡・確認・検証が必要で、
「ああ、あれどうなってる?」「あれ、どこまで進んでる?」「現場の反応はどう?」とか。
それをしないで任せきりにすれば、官僚の思い通りに運ばれることもある。
「つけいる隙」が生じることもある。
最悪の場合、「大本」で論議されていたものとは、
まったく意味の異なる政策内容に変わってしまうこともありうる、という。
「最後の詰めまで、目を離さず、関わっていることが必要」ということだ。
同じようなことを、古賀茂明氏の『侃々諤々』(週刊現代12月1日号)に見た。
原子力規制委員会についてふれた記事だ。
氏は、大きく2つの指摘をしている。
その一つが、自分もTVで見ていた、田中規制委員長の所信表明。
本来、規制する立場であれば、
「
活断層がないことがはっきり分からない限り止める」と言うべきだったのを、
「
活断層があれば止める。」という発言になったこと。
「ある」のであればもちろん
、「あるかもしれないと言う可能性が残る」限りは止めるというのと、
「ある」と証明されない場合は、動かして良いとは意味が違う。
田中委員長は、官僚の用意した「止める」に誘導されて、
意図したこととは逆の表明をしてしまったというのだ。
実際、あの表明を聞いた側は、誰もが
「止める=動かさない」と、あの時受け止めた。
しかし、改めてよく聞けば、
「活断層があれば、止める」だ。
「ある」と証明されない限りは、「止めない=動かして良い」に、なってしまった。
こんな、言葉の微妙な使い方で、意味は異なるものになってしまった。
まさしく、「細部に悪魔が宿る」ではないか。
往々にして普通の人は、大本を決め、人に任せたら、
「後は細々したことに干渉しない」ことを、「良し」としないか?
小さなことにまで口出しするのは、「関係をギクシャクさせる」と思ってしまうもの。
任せた相手との信頼関係が失われるじゃないかと。
そこに、悪魔が宿る隙が生じた、ということだ。
二つ目は、スケジュール調整。
霞ヶ関には、「スケジュールを制するものが勝者」と言う鉄則がある、そうだ。
ニュースで見ていた自分も、規制委員会の「調査」は、「あれで良いのか?」と感じた。
予め関西電力が掘った溝を、コリコリ、あちこち削ったりつついていた様子は、
何かの「やらせ」にしか見えなかった。
この調査、実は時間にして1~2時間の調査だったという。
それで何か分かるものなのだろうか。
調査を「日帰り」にした上で、東京と大飯原発では遠いので、
短時間での調査になった、という。
委員の誰も疑問に思わなかったのであろうか。
なぜ、日帰りなのだろうか。日帰りで済むことなのか。
これもまた、手順の細部にわたって検討していないことのあらわれ、といえる。
調査の段取りは、事務方の原子力規制庁が仕切るのだそうだ。
おまけに、この鉄則はまた、「安全基準の抜本的見直し」にも当てはまる、という。
委員会は、
来年3月までに骨格を示し、夏までには最終案をまとめると、
言わされてしまった。 日本の安全基準は世界水準からほど遠く、何十年も遅れているのだそうだ。
「抜本的見直し」というと、「新たに作る」ことになる。
0(ゼロ)から作るとなると、どのぐらい時間がかかるか分からない。
なのに、期限を委員自らが、区切ってしまった。
当然、「間に合わせる」ことになる。
どう間に合わせるかというと、”今の事務方には能力がないので”、
電力会社に教えてもらって作るしかない。
事務方からは、「時間がありません」と脅されて、
委員は、
微修正程度のもので了解するしかなくなる、という。
21日のNHK『クローズアップ現代』は、まさにこのことを特集していた。
専門家会議の1人、東北大の教授も嘆いていた。
「時間がないのに、急いで判断を求められる。考える時間もない。」と。
古賀氏は最後に、これの打開策も書いていた。
新たに規制委員の人選をやり直す。
10名以上の候補を、第三者委員会で選び、
国会で十分に議論したうえで、5人の委員を決定する手続きにするべき。
新任委員は、今までの委員会の決定には縛られずに活動を始めればよい。
委員はまた、外国人を含めた自前のスタッフを持てるようにする。
さらに、規制庁の人事権を”実質的に完全に”委員会が持てるようにする。
併せて、規制庁職員のノーリターンルールに例外を認めないこと。
これで、職員は規制庁の方を見て仕事をするようになる、という。
だが、これも選挙で原発推進の自民党が政権についたら・・・
八方ふさがりの、暗澹たる気分になる、そうだ。
自分も、同じ気分だ。