http://news.goo.ne.jp/article/newsengf/world/newsengf-20090724-01.html
↑元記事
ちょっと肩の力を抜いたゆるい「暇だね」ニュースの英語をご紹介するこの金曜コラム、今週は実は笑い話では済まないのかもしれませんが、その舌戦はちょっと苦笑できる…という様相になった、「ヒラリー・クリントンvs北朝鮮」の皮肉合戦についてです。何よりも苦笑するのが、北朝鮮が「国際社会でのエチケット」を云々しているあたりかもしれません。(gooニュース 加藤祐子)
○皮肉合戦というよりは小学生のケンカか
ワシントン・ポストなど複数メディアは「war of words(直訳すれば「言葉の戦争」、つまりは口喧嘩)」と呼んでいますが、表面上の言葉だけをとれば、皮肉を飛ばし合うブラックなコメディのようです。あるいは小学生のケンカか。クリントン米国務長官が北朝鮮のことを我がままな子供のようだと皮肉ったかと思うと、北朝鮮がクリントン長官のことを「おかしな女性だ」「小学校の女の子みたいだ」などと皮肉返しするという。
舌戦の口火を切ったのはクリントン長官です。インド訪問中の20日、ABCニュースの単独インタビューで、米政府は北朝鮮の挑発を相手にしないことにしたと語るくだりで。「常に注目されたいというのが見え見えです。私の中の母親の部分が反応しているのかもしれませんが。小さい子供や、手に負えないティーンエージャーや、常に注目されていたい人とかに接してきた経験がありますから。相手にしたらダメです。そこまでしてやるべきではありません。北朝鮮は言いたいことがあって暴れているのですが、彼らの言い分に私たちは何の関心もありません(What we've seen, constant demand for attention. Maybe it's the mother in me or the experience that I've had with small children and unruly teenagers and people who are demanding attention. Don't give it to them. They don't deserve it. They are acting out to send a message that we're not interested in receiving)」と発言。これが今回のことの始まりです。
昨年の大統領選の予備選中、私はヒラリー・クリントンという政治家の表情をかなりじっくり観ていたのですが、北朝鮮をしつけのなっていない我がままなガキ扱いしている際の表情には見覚えがあります。相手を馬鹿にしきっている、相手を真上から見下している時の冷笑です。
ここまで言われて北朝鮮は3日間、どう反応すべきか文言を練り上げていたのでしょうか。23日になって外務省がコメントを発表。ここでは敢えて、ニューヨーク・タイムズなど英語メディアが使っている英語訳を、日本語にしてみます。
「(クリントン長官は)就任してからというものあちこちで、立場にふさわしくない下品な発言を繰り返してきた。その言葉から、知性のない人だというのが分かる。我々はクリントン夫人を、おかしな女性だと思わざるを得ない。国際社会の基本的なエチケットも知らずに、このような物言いを好んでし続けるのだから」「彼女は時には、小学校の女の子のようだし、時には買い物にでかける年寄りの年金生活者のようだ」
ああ言えばこう言う。売り言葉に買い言葉。英語でこういうのを「tit for tat」と言います。交わされた言葉のエッセンスのみを取り出すならば(言葉遣いをお許しください)、「ガキ!」「ババア!」という、小学生レベルの口喧嘩です。
○北朝鮮に「エチケット」を云々され
おまけに、北朝鮮が外国や外国指導者について(小学生レベルで)言いたい放題するのは何も珍しくありませんが、その北朝鮮がクリントン長官について「国際社会における基本的なエチケットを知らないようだ」と。よりによって北朝鮮が、外交エチケットを云々するわけです。「お前が言うな」というフレーズを使うとしたら、こういう時ですよという応用例みたいな現実の出来事に、あちこちのコメント欄では「爆笑した」「ありえない」などの書き込みが見えます。
英タイムズはこのやりとりを「『無礼』vs『幼稚』な悪口の応酬」と報道。CNNもこれを、「the petty diplomatic spat of the year (今年一番くだらない外交悪口合戦)」と呼んで、かなり苦笑気味。 「北朝鮮は西側指導者を侮辱するのが大好き」と題して、過去の北朝鮮「外交迷言集」までまとめる始末です。
それによると北朝鮮という国はこの、「お前は外交のエチケットを知らない無礼者だ」と相手を罵倒するのがどうも好きなようで。2001年10月にはブッシュ前大統領について、「無能で無礼な大統領だ。基本的な外交エチケットも知らず、外交能力をもたない、何もわかっていない無知な大統領だ」と罵倒。2001年10月という就任間もない時点で、北朝鮮はもうそこまではっきり評価を下していたのですね。まあ、そう言われたブッシュ氏も2002年、(共和党議員との会合という非公式の場だったとは言え)金正日総書記を「ピグミー」だの「甘やかされた我がままな子供」だの呼ばわりしているので、ここもまたお互い様というか「tit for tat」なのですが。
ちなみにクリントン長官の前任者、コンドリーザ・ライス長官との「war of words」というか「tit for tat」は、2005年にありました。ライス長官が北朝鮮を「専制の前線基地(outpost of tyranny)」と呼んだお礼に、北朝鮮がライス長官を「世界で最たる専制独裁国家の役人に過ぎない。いっさいの政治的なロジックを全く持ち合わせていない女は、我々が相手にする価値もない」と罵倒しています。
○友達のいない人に一番言ってはいけない言葉を
一を言えば十を言い返すのも小学生のケンカの常道です。なので「下品な」「小学生女子もしくは買い物中の年寄り」呼ばわりされたクリントン長官は、23日にはタイ・プーケットで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)後の記者会見でまず、用意されたスピーチ原稿から「私たちは北朝鮮と対話する用意はありますが、中途半端な措置には興味がありません。ただ交渉のテーブルに戻ったからといって、それだけで北朝鮮に報いるつもりはありません。すでにかつて合意済みの行動を北朝鮮が改めて実施したからといって、何も新しい見返りを与えるつもりもありません。それにもとの場所にぐるりと戻るだけの冗長な交渉を追求する意欲も、私たちにはありません」と、強い調子ではありますが、「国務長官らしい」落ち着いた口ぶり。
けれども、これはかなり怒っているらしいとうかがわせる言葉が、このあとの記者会見で。ARFに参加した6者協議関係国はロシアも中国も、北朝鮮の核廃棄推進の重要性を確認したので、「北朝鮮が頼れるところはどこにもない。核廃棄に向けた国際社会の努力から自分たちを守ってくれるような、友人はもうどこにもいない」と。「お前、友達いないじゃん」と言ってしまったわけです。友達のいない小学生に向かって。
「北朝鮮に挑発にのるつもりはない」と言いながら、もしかして一番キツい一撃を見舞ったのかもしれないクリントン長官。さすがというべきか、やっぱりと言うべきか。 去年の予備選中から、あるいはもっとずっと前から「ヒラリーを怒らせたら怖い」という世間イメージがあるだけに、アメと鞭をうまく使い分けて状況を打破してくれるだろうかと、この対決の今後に期待したいところです。
北朝鮮の核問題というまったくどこも肩の力の緩まない、暇ダネでもなんでもない話題でしたが、こういうので敢えて笑ってみるのをブラックユーモア、あるいは「gallows humour(処刑台を前にしたユーモア)」と言います。独裁者が最も嫌がるのは、笑われることだとも言いますし。
↑元記事
ちょっと肩の力を抜いたゆるい「暇だね」ニュースの英語をご紹介するこの金曜コラム、今週は実は笑い話では済まないのかもしれませんが、その舌戦はちょっと苦笑できる…という様相になった、「ヒラリー・クリントンvs北朝鮮」の皮肉合戦についてです。何よりも苦笑するのが、北朝鮮が「国際社会でのエチケット」を云々しているあたりかもしれません。(gooニュース 加藤祐子)
○皮肉合戦というよりは小学生のケンカか
ワシントン・ポストなど複数メディアは「war of words(直訳すれば「言葉の戦争」、つまりは口喧嘩)」と呼んでいますが、表面上の言葉だけをとれば、皮肉を飛ばし合うブラックなコメディのようです。あるいは小学生のケンカか。クリントン米国務長官が北朝鮮のことを我がままな子供のようだと皮肉ったかと思うと、北朝鮮がクリントン長官のことを「おかしな女性だ」「小学校の女の子みたいだ」などと皮肉返しするという。
舌戦の口火を切ったのはクリントン長官です。インド訪問中の20日、ABCニュースの単独インタビューで、米政府は北朝鮮の挑発を相手にしないことにしたと語るくだりで。「常に注目されたいというのが見え見えです。私の中の母親の部分が反応しているのかもしれませんが。小さい子供や、手に負えないティーンエージャーや、常に注目されていたい人とかに接してきた経験がありますから。相手にしたらダメです。そこまでしてやるべきではありません。北朝鮮は言いたいことがあって暴れているのですが、彼らの言い分に私たちは何の関心もありません(What we've seen, constant demand for attention. Maybe it's the mother in me or the experience that I've had with small children and unruly teenagers and people who are demanding attention. Don't give it to them. They don't deserve it. They are acting out to send a message that we're not interested in receiving)」と発言。これが今回のことの始まりです。
昨年の大統領選の予備選中、私はヒラリー・クリントンという政治家の表情をかなりじっくり観ていたのですが、北朝鮮をしつけのなっていない我がままなガキ扱いしている際の表情には見覚えがあります。相手を馬鹿にしきっている、相手を真上から見下している時の冷笑です。
ここまで言われて北朝鮮は3日間、どう反応すべきか文言を練り上げていたのでしょうか。23日になって外務省がコメントを発表。ここでは敢えて、ニューヨーク・タイムズなど英語メディアが使っている英語訳を、日本語にしてみます。
「(クリントン長官は)就任してからというものあちこちで、立場にふさわしくない下品な発言を繰り返してきた。その言葉から、知性のない人だというのが分かる。我々はクリントン夫人を、おかしな女性だと思わざるを得ない。国際社会の基本的なエチケットも知らずに、このような物言いを好んでし続けるのだから」「彼女は時には、小学校の女の子のようだし、時には買い物にでかける年寄りの年金生活者のようだ」
ああ言えばこう言う。売り言葉に買い言葉。英語でこういうのを「tit for tat」と言います。交わされた言葉のエッセンスのみを取り出すならば(言葉遣いをお許しください)、「ガキ!」「ババア!」という、小学生レベルの口喧嘩です。
○北朝鮮に「エチケット」を云々され
おまけに、北朝鮮が外国や外国指導者について(小学生レベルで)言いたい放題するのは何も珍しくありませんが、その北朝鮮がクリントン長官について「国際社会における基本的なエチケットを知らないようだ」と。よりによって北朝鮮が、外交エチケットを云々するわけです。「お前が言うな」というフレーズを使うとしたら、こういう時ですよという応用例みたいな現実の出来事に、あちこちのコメント欄では「爆笑した」「ありえない」などの書き込みが見えます。
英タイムズはこのやりとりを「『無礼』vs『幼稚』な悪口の応酬」と報道。CNNもこれを、「the petty diplomatic spat of the year (今年一番くだらない外交悪口合戦)」と呼んで、かなり苦笑気味。 「北朝鮮は西側指導者を侮辱するのが大好き」と題して、過去の北朝鮮「外交迷言集」までまとめる始末です。
それによると北朝鮮という国はこの、「お前は外交のエチケットを知らない無礼者だ」と相手を罵倒するのがどうも好きなようで。2001年10月にはブッシュ前大統領について、「無能で無礼な大統領だ。基本的な外交エチケットも知らず、外交能力をもたない、何もわかっていない無知な大統領だ」と罵倒。2001年10月という就任間もない時点で、北朝鮮はもうそこまではっきり評価を下していたのですね。まあ、そう言われたブッシュ氏も2002年、(共和党議員との会合という非公式の場だったとは言え)金正日総書記を「ピグミー」だの「甘やかされた我がままな子供」だの呼ばわりしているので、ここもまたお互い様というか「tit for tat」なのですが。
ちなみにクリントン長官の前任者、コンドリーザ・ライス長官との「war of words」というか「tit for tat」は、2005年にありました。ライス長官が北朝鮮を「専制の前線基地(outpost of tyranny)」と呼んだお礼に、北朝鮮がライス長官を「世界で最たる専制独裁国家の役人に過ぎない。いっさいの政治的なロジックを全く持ち合わせていない女は、我々が相手にする価値もない」と罵倒しています。
○友達のいない人に一番言ってはいけない言葉を
一を言えば十を言い返すのも小学生のケンカの常道です。なので「下品な」「小学生女子もしくは買い物中の年寄り」呼ばわりされたクリントン長官は、23日にはタイ・プーケットで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)後の記者会見でまず、用意されたスピーチ原稿から「私たちは北朝鮮と対話する用意はありますが、中途半端な措置には興味がありません。ただ交渉のテーブルに戻ったからといって、それだけで北朝鮮に報いるつもりはありません。すでにかつて合意済みの行動を北朝鮮が改めて実施したからといって、何も新しい見返りを与えるつもりもありません。それにもとの場所にぐるりと戻るだけの冗長な交渉を追求する意欲も、私たちにはありません」と、強い調子ではありますが、「国務長官らしい」落ち着いた口ぶり。
けれども、これはかなり怒っているらしいとうかがわせる言葉が、このあとの記者会見で。ARFに参加した6者協議関係国はロシアも中国も、北朝鮮の核廃棄推進の重要性を確認したので、「北朝鮮が頼れるところはどこにもない。核廃棄に向けた国際社会の努力から自分たちを守ってくれるような、友人はもうどこにもいない」と。「お前、友達いないじゃん」と言ってしまったわけです。友達のいない小学生に向かって。
「北朝鮮に挑発にのるつもりはない」と言いながら、もしかして一番キツい一撃を見舞ったのかもしれないクリントン長官。さすがというべきか、やっぱりと言うべきか。 去年の予備選中から、あるいはもっとずっと前から「ヒラリーを怒らせたら怖い」という世間イメージがあるだけに、アメと鞭をうまく使い分けて状況を打破してくれるだろうかと、この対決の今後に期待したいところです。
北朝鮮の核問題というまったくどこも肩の力の緩まない、暇ダネでもなんでもない話題でしたが、こういうので敢えて笑ってみるのをブラックユーモア、あるいは「gallows humour(処刑台を前にしたユーモア)」と言います。独裁者が最も嫌がるのは、笑われることだとも言いますし。
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