下記の記事日経グッディ様のホームページからお借り紹介します。(コピー)です。
普段の食事で発酵食品をたくさんとると、腸内フローラ(*1)の多様性が増し、全身性の炎症が抑制される可能性があることが米国の研究で明らかになりました。
10週間の介入試験で、発酵食品を食べるほど腸内フローラの多様性が増すという結果が。(写真=123RF)
食物繊維や発酵食品は腸内フローラに好ましい影響を与えるのか?
先進国では、工業化が進むにつれて慢性疾患の患者が増加し、並行して腸内フローラも変化してきたことが分かっています。また、米国に移民した人たちを追跡した研究では、移民後に腸内フローラが速やかに欧化し、肥満が増えて、炎症レベルを示す検査値も悪化した、と報告されています。
腸内フローラは全身性の炎症状態に影響すること、そして慢性疾患の多くに慢性炎症が関係することから、食事によって腸内フローラのバランスを変化させられるなら、食習慣を見直すことにより、全身性の炎症を弱め、慢性疾患のリスクを低減できるのではないかと考えられるようになりました。
近年、腸内フローラに好ましい影響を与える可能性があるとして注目されているのが、食物繊維と発酵食品です。食物繊維の摂取量が多い人ほど死亡率が低いとする報告があるほか、食物繊維の摂取を増やすと、腸内フローラに変化が生じ、健康関連の検査値も改善することが示唆されています。
ヨーグルトやキムチなどの発酵食品が健康利益をもたらすことを示すデータも蓄積されています。発酵食品の摂取は、体重の維持に役立ち、糖尿病、がん、心血管疾患リスクの低下と関係することが、大規模な観察研究などで示唆されていました。
そこで今回、米スタンフォード大学などの研究者たちは、米国の成人を対象に、食物繊維が豊富な食事、または発酵食品を豊富に摂取する食事を10週間続けることにより、腸内フローラと免疫系にどのような影響が現れるのかを調べることにしました。
*1 ヒトの腸の中に棲みつく多種多様な細菌の集まりのこと。腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)とも言う。
健康な成人39人を食物繊維群または発酵食品群に割り付け
健康な成人39人を、「植物性の食物繊維が豊富な食事(食物繊維群)」または「発酵食品が豊富な食事(発酵食品群)」にランダムに割り付けました。食物繊維群には、1日あたりの食物繊維摂取量をそれまでより20g以上増やすように指示し、発酵食品群には、発酵食品の1日あたりの摂取量をそれまでより6皿以上増やすように指示しました。
食物繊維または発酵食品は、いきなり指示された量を摂取するのではなく、目標レベルまで増やすための期間として4週間の増量期間を設けました。その後、指示された量の摂取を継続し、できればさらなる増量を目指す6週間(維持期間)、さらに、本人が望む量だけ摂取する4週間(選択期間)を設けました。隔週で便と血液の採取を行い、腸内フローラの組成や機能の分析と免疫系に関する分析を行いました。
試験に参加した人の中から、試験期間中に抗菌薬の処方を受けた患者などを除外し、36人(各群18人)を分析対象としました。平均年齢は51歳で、女性が73%、白人が81%で、BMI(体格指数)の平均は25(米国では30以上が肥満)でした。割り付け時点では、両群の腸内フローラの多様性に差はありませんでした。
食物繊維群では、1日あたりの食物繊維摂取量の平均は、介入前が21.5gで、維持期間の終わりには45.1gに増えていました。発酵食品群では、介入前の0.4皿から6.3皿に増えていました。食物繊維群では、摂取エネルギーがやや増加し、鉄やマグネシウム、カリウム、ビタミンC、カルシウムの摂取が増え、動物性たんぱく質と塩分の摂取量は減少していました。発酵食品群では、ヨーグルトやキムチのような発酵野菜、発酵チーズ、発酵ドリンクなどの摂取が増えるとともに、動物性たんぱく質の摂取も増えていましたが、塩分摂取量に変化は見られませんでした。なお、食物繊維群に発酵食品の摂取増加は見られず、発酵食品群には食物繊維の摂取増加は見られませんでした。
発酵食品の摂取量が増えるにつれて、腸内フローラの多様性は拡大
まず、炎症反応の指標である「サイトカイン反応スコア(CRS)」を評価しました。CRSは、15種類のサイトカイン(*2)の反応性を評価した結果をスコア化したもので、スコアが高いほど炎症反応は低く、免疫系の反応性は高い、すなわち好ましい状態にあることを意味します。残念ながら、食事介入による両群のCRSの変化に、有意差は見られませんでした。
また、両群ともに、インスリン、中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロール、血圧、腹囲には変化は見られず、感じていたストレスレベルや健康状態、疲労感、認知機能などにも差は認められませんでした。
しかし、以下のような評価項目には差が見られました。
*2 サイトカイン:主に免疫系細胞から分泌される低分子のたんぱく質の総称。細胞間の情報伝達の役割を担っている。
食物繊維群では、腸内フローラの多様性は変化してはいませんでしたが、腸内細菌の増加を示唆するデータが得られました。これは繊維の消化に対応するための変化と考えられ、実際にグリカンを分解する糖質関連酵素の分泌が増えていました。免疫系への影響は一貫していませんでした。
これまでの報告にあったような、腸内フローラへの好ましい影響が見られなかったことについて、研究者たちは、「介入期間が短かったのではないか」との考えを示しています。
一方の発酵食品群では、維持期間の終わりにかけて、発酵食品の摂取量が増えるにつれて、腸内フローラの多様性が拡大していました。摂取量の増加と多様性の拡大の関係が最も強力だったのは、ヨーグルトの摂取でした。また、追跡期間中に、血液中のサイトカインやケモカイン、その他の炎症性たんぱく質が減少していました。減少していたサイトカインの1つであるIL-6は、慢性炎症が認められる関節リウマチや2型糖尿病、また慢性ストレスなどを有する患者で高値となることが知られています。
以上の結果は、先進国の住民に広がっている、腸内フローラの多様性の縮小と慢性炎症傾向を改善するために、発酵食品の積極的な摂取が役立つ可能性を示しました。
論文は、Cell誌2021年8月5日号に掲載されています(*3)。
*3 Wastyk HC, et al. Cell. 2021;184(16):4137-53.e14
大西淳子(おおにしじゅんこ)
医学ジャーナリスト
筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。
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