CatNA
@CatNewsAgency
オバマの大統領就任と比べ、今回は会場に来た人がとても少なかったことを示す画像が度々、TLに流れてくる。トランプの不人気を強調したいのだろうが、これを読めば原因が分かる。反トランプ派のせいで警備が強化され、会場に入れない人が多数発生。
トランプ大統領就任式に、私はたどり着けなかった。道を阻んだ反対派のデモ(現地ルポ)
歩いてばかりいた。過去2回、米大統領就任式を取材したが、いつも思いもよらないロジの変更を迫られ、予定よりも多く歩かされる。1月20日、トランプ新大統領の就任式は、思いがけないことが起きた。
なんと、就任式を大スクリーンで見られる会場にたどり着けなかった。トランプ氏就任に反対するデモ隊に阻まれたからだ。考えてもいなかった。
前日に下見した7丁目ゲートから、海外メディアやチケットなしで就任式を見たい人が集まるナショナルモール公園に入るつもりだった。地下鉄を降りて、金属探知機を通るゲート前に行くと、1ブロックにわたって、トランプ氏の反対派がひしめき、ゲート前を塞いでいた。状況を確認するため、デモの先頭に行くと、まだ少しずつは、就任式を見たい人を入れていた。
デモ隊は、ソーシャルメディアで連絡を取り合い、集まったに違いない。様々な手製プラカードにあふれている。
「トランプ、恥を知れ」
「偏見+嘘+プーチン=トランプ」
「トランプはホワイトハウスにふさわしくない」
「多様性は、アメリカを偉大にしている」
白人、黒人、ヒスパニック、アジア系、同性愛者、そして子供もたくさんいる。
二人の子供を連れてニューヨーク州から来ていたダラ・ハーパーに、こう聞いた。
「トランプ氏の就任式の日を迎えて、どう思うか」
「・・・・・・・・・・」
彼女は黙り込んで、やっとこう言った。
「言葉が出てこないわ。トランプ氏は、大統領には最悪の人物だもの」
「どうやって、今後4年間、トランプ支持者との対立を埋めていかれますか」
これには即座に答えた。
「女性は、強いし、誰もが平等であるということを、子供たちに伝えていくわ。ホワイトハウスや、地元の議員にもいつも電話して訴えているの。私の電話には、ホワイトハウスと議員事務所の短縮番号が入っているのよ!」
彼女たちと別れて、再度デモの先頭に行くと、若い州兵にこう言われた。
「もうこのゲートからは、入場できません」
「えー、なぜ?」
「自分は、知りません。ただここにいるように言われたのです」
それはそうだ。
同様にこのゲートからの入場を諦めた、退役軍人グループとのろのろと歩いて、もう少し先のゲートを目指す。10丁目だ。
10丁目ゲートに近づくと、警察の鉄柵の中で列が動いているのが、見える。鉄柵の外では、再びデモ隊が殺到し、「トランプ氏は大統領ではない」と、会場に入っていく人々に叫んでいる。
急いで後ろに並ぼうとしているうちに、列の後ろが鉄柵で塞がれた。警官に再び、質問をする。
「なぜ入れないんですか」
「知らない」
「では、どこから入れるんですか」
「知らない」
すると、横にいたトランプ派の白人女性が、こう言った。
「しょうがないわね。あなたは仕事をしているだけですものね」
びっくりしたのは、ここに多くいた7丁目から歩いてきたトランプファンが、文句も言わず、踵を返したことだ。
誰もが同じことを考えていた。次のゲートは12丁目だ。
12丁目は、さすがにプロテスターは一人もいなかった。しかし、3度となる障害が立ちはだかった。警官に、ナショナルモール公園への行き方を確認した。すると、ゲートと同公園の間には、就任式が終わった後、会場だった連邦議会議事堂からホワイトハウスに新大統領が移動するパレードが行われるペンシルベニア・アベニューがある。それを渡ることができるかどうか、わからないというのだ。
「でも、試してみる価値はある。行かれなければ、このゲートは、パレードを見るのに最適の場所にあるから、パレードを待てばいい」
結局、アベニューを渡る術はなかった。
歩道とアベニューの間には、2重に鉄柵があり、その後ろには、全米から集められた警官が、ほぼ1メートルおきに並んでいる。その後ろに海兵隊が5メートルおき、という状況で、アベニューを横切るには、警官2列、海兵隊2列を説得、あるいはお願いし、しかも鉄柵を4つも超えなくてはならない。
そうこうするうち、通り沿いに設置された巨大スピーカーから流れる就任式の実況放送で、ロバート連邦最高裁判事の名前が呼ばれた。
実業家でテレビ番組ホストのドナルド・トランプ氏が、大統領就任の宣誓をする時が来てしまった。
周りにいた数千人と思われるトランプ支持者の人たちが、驚くほど静まり返った。
さらに、驚いたのは、宣誓の後も、トランプ氏の就任演説の後も、わずかにいた若い人が「ヒューーーー」と声をあげただけで、あとはさざ波のような拍手だけだった。
トランプ氏の支持者は、過激で怖いと思っていた。
昨年7月、中西部オハイオ州クリーブランドで開かれた共和党大会の会場外には、見るからにおっかないキリスト教至上主義者や、白人至上主義者が集まっていた。イスラム教徒を悪魔呼ばわりし、Tシャツには「星条旗の赤、青、白の血が流れていなければ、国を去れ」「英語が話せないなら、強制退去だ」などと書かれていた。
しかし、トランプ氏の就任式会場に来ていた支持者らは、本当にフツーの人たちだった。お祝いのため、犬にマニキュアを塗って連れてきた夫婦。抱き合って、寒さをしのいでいた若い信心深い夫婦。自撮りを繰り返しているティーンズの男の子たち。口々に、こう言った。
「トランプ氏こそが、この国を統一し、もっといい国にしてくれる」
インドから24年前に移民したアパデュライ・ラーマン氏に話を聞いていたら、彼は聞き逃したというトランプ氏の演説内容について尋ねてきた。メモをめくって、締めの文だけ、伝える。
「あなた方は、もう決して無視されることはない。私たちは、アメリカを強く、豊かな、誇りある、安全な、そして、偉大な国にする」
ラーマン氏は、こう言った。
「完璧だ。ありがとう」
一方、会場外では、トランプ反対派が、100人も逮捕されていた。若者の反格差運動「オキュパイ・ウォール・ストリート」で知り合った知人が二人逮捕されたというメッセージが、パレードの間、飛び込んできた。
話しかけた中国人の母親は、パレードを観に来る途中、銀行のフロントガラスが割れているのを見て、ショックを受けたと言っていた。ワシントンの中心街は、日頃はネクタイとスーツの人ばかりで、器物損壊など考えられないことだ。
就任式前日の夜は、警察がデモ隊に対し、催涙ガスを使った。
4年に一度の国家のリーダー選びで、辛酸をなめたトランプ反対派は、思いがけなく「過激化」していた。
パレードを待つ間も、アベニュー沿いで、トランプ支持者と反対派が、口論しているのがしばしば見られた。
トランプを「支持」、あるいは「否定」しているというだけで、こんなにも敵対が深まっている。
「対話」という言葉が思い浮かんだ。誰かが、「対話」を始めなければならない。しかし、それを言い出せないほどの「分断」を、ワシントンの華やかな4年の一度の祝賀の日に、目の当たりにした。オレンジ色の髪の元実業家の顔を思い浮かべる。今日は、本当に祝賀の日だったのだろうか。
筆者・津山恵子
@CatNewsAgency
オバマの大統領就任と比べ、今回は会場に来た人がとても少なかったことを示す画像が度々、TLに流れてくる。トランプの不人気を強調したいのだろうが、これを読めば原因が分かる。反トランプ派のせいで警備が強化され、会場に入れない人が多数発生。
トランプ大統領就任式に、私はたどり着けなかった。道を阻んだ反対派のデモ(現地ルポ)
歩いてばかりいた。過去2回、米大統領就任式を取材したが、いつも思いもよらないロジの変更を迫られ、予定よりも多く歩かされる。1月20日、トランプ新大統領の就任式は、思いがけないことが起きた。
なんと、就任式を大スクリーンで見られる会場にたどり着けなかった。トランプ氏就任に反対するデモ隊に阻まれたからだ。考えてもいなかった。
前日に下見した7丁目ゲートから、海外メディアやチケットなしで就任式を見たい人が集まるナショナルモール公園に入るつもりだった。地下鉄を降りて、金属探知機を通るゲート前に行くと、1ブロックにわたって、トランプ氏の反対派がひしめき、ゲート前を塞いでいた。状況を確認するため、デモの先頭に行くと、まだ少しずつは、就任式を見たい人を入れていた。
デモ隊は、ソーシャルメディアで連絡を取り合い、集まったに違いない。様々な手製プラカードにあふれている。
「トランプ、恥を知れ」
「偏見+嘘+プーチン=トランプ」
「トランプはホワイトハウスにふさわしくない」
「多様性は、アメリカを偉大にしている」
白人、黒人、ヒスパニック、アジア系、同性愛者、そして子供もたくさんいる。
二人の子供を連れてニューヨーク州から来ていたダラ・ハーパーに、こう聞いた。
「トランプ氏の就任式の日を迎えて、どう思うか」
「・・・・・・・・・・」
彼女は黙り込んで、やっとこう言った。
「言葉が出てこないわ。トランプ氏は、大統領には最悪の人物だもの」
「どうやって、今後4年間、トランプ支持者との対立を埋めていかれますか」
これには即座に答えた。
「女性は、強いし、誰もが平等であるということを、子供たちに伝えていくわ。ホワイトハウスや、地元の議員にもいつも電話して訴えているの。私の電話には、ホワイトハウスと議員事務所の短縮番号が入っているのよ!」
彼女たちと別れて、再度デモの先頭に行くと、若い州兵にこう言われた。
「もうこのゲートからは、入場できません」
「えー、なぜ?」
「自分は、知りません。ただここにいるように言われたのです」
それはそうだ。
同様にこのゲートからの入場を諦めた、退役軍人グループとのろのろと歩いて、もう少し先のゲートを目指す。10丁目だ。
10丁目ゲートに近づくと、警察の鉄柵の中で列が動いているのが、見える。鉄柵の外では、再びデモ隊が殺到し、「トランプ氏は大統領ではない」と、会場に入っていく人々に叫んでいる。
急いで後ろに並ぼうとしているうちに、列の後ろが鉄柵で塞がれた。警官に再び、質問をする。
「なぜ入れないんですか」
「知らない」
「では、どこから入れるんですか」
「知らない」
すると、横にいたトランプ派の白人女性が、こう言った。
「しょうがないわね。あなたは仕事をしているだけですものね」
びっくりしたのは、ここに多くいた7丁目から歩いてきたトランプファンが、文句も言わず、踵を返したことだ。
誰もが同じことを考えていた。次のゲートは12丁目だ。
12丁目は、さすがにプロテスターは一人もいなかった。しかし、3度となる障害が立ちはだかった。警官に、ナショナルモール公園への行き方を確認した。すると、ゲートと同公園の間には、就任式が終わった後、会場だった連邦議会議事堂からホワイトハウスに新大統領が移動するパレードが行われるペンシルベニア・アベニューがある。それを渡ることができるかどうか、わからないというのだ。
「でも、試してみる価値はある。行かれなければ、このゲートは、パレードを見るのに最適の場所にあるから、パレードを待てばいい」
結局、アベニューを渡る術はなかった。
歩道とアベニューの間には、2重に鉄柵があり、その後ろには、全米から集められた警官が、ほぼ1メートルおきに並んでいる。その後ろに海兵隊が5メートルおき、という状況で、アベニューを横切るには、警官2列、海兵隊2列を説得、あるいはお願いし、しかも鉄柵を4つも超えなくてはならない。
そうこうするうち、通り沿いに設置された巨大スピーカーから流れる就任式の実況放送で、ロバート連邦最高裁判事の名前が呼ばれた。
実業家でテレビ番組ホストのドナルド・トランプ氏が、大統領就任の宣誓をする時が来てしまった。
周りにいた数千人と思われるトランプ支持者の人たちが、驚くほど静まり返った。
さらに、驚いたのは、宣誓の後も、トランプ氏の就任演説の後も、わずかにいた若い人が「ヒューーーー」と声をあげただけで、あとはさざ波のような拍手だけだった。
トランプ氏の支持者は、過激で怖いと思っていた。
昨年7月、中西部オハイオ州クリーブランドで開かれた共和党大会の会場外には、見るからにおっかないキリスト教至上主義者や、白人至上主義者が集まっていた。イスラム教徒を悪魔呼ばわりし、Tシャツには「星条旗の赤、青、白の血が流れていなければ、国を去れ」「英語が話せないなら、強制退去だ」などと書かれていた。
しかし、トランプ氏の就任式会場に来ていた支持者らは、本当にフツーの人たちだった。お祝いのため、犬にマニキュアを塗って連れてきた夫婦。抱き合って、寒さをしのいでいた若い信心深い夫婦。自撮りを繰り返しているティーンズの男の子たち。口々に、こう言った。
「トランプ氏こそが、この国を統一し、もっといい国にしてくれる」
インドから24年前に移民したアパデュライ・ラーマン氏に話を聞いていたら、彼は聞き逃したというトランプ氏の演説内容について尋ねてきた。メモをめくって、締めの文だけ、伝える。
「あなた方は、もう決して無視されることはない。私たちは、アメリカを強く、豊かな、誇りある、安全な、そして、偉大な国にする」
ラーマン氏は、こう言った。
「完璧だ。ありがとう」
一方、会場外では、トランプ反対派が、100人も逮捕されていた。若者の反格差運動「オキュパイ・ウォール・ストリート」で知り合った知人が二人逮捕されたというメッセージが、パレードの間、飛び込んできた。
話しかけた中国人の母親は、パレードを観に来る途中、銀行のフロントガラスが割れているのを見て、ショックを受けたと言っていた。ワシントンの中心街は、日頃はネクタイとスーツの人ばかりで、器物損壊など考えられないことだ。
就任式前日の夜は、警察がデモ隊に対し、催涙ガスを使った。
4年に一度の国家のリーダー選びで、辛酸をなめたトランプ反対派は、思いがけなく「過激化」していた。
パレードを待つ間も、アベニュー沿いで、トランプ支持者と反対派が、口論しているのがしばしば見られた。
トランプを「支持」、あるいは「否定」しているというだけで、こんなにも敵対が深まっている。
「対話」という言葉が思い浮かんだ。誰かが、「対話」を始めなければならない。しかし、それを言い出せないほどの「分断」を、ワシントンの華やかな4年の一度の祝賀の日に、目の当たりにした。オレンジ色の髪の元実業家の顔を思い浮かべる。今日は、本当に祝賀の日だったのだろうか。
筆者・津山恵子