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RANDAMの変態見聞録

ゲーム・漫画・映画が大好きです。
変態ときどき真面目でお送りします。

Stranger ~第1章~ 2

2015-11-26 00:39:32 | Stranger (小説)
2.What's happened?


ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、
ガタンゴトン、ガタンゴトン…



「キャンドル・ライトが ガラスのピアスに
反射けて 滲む お前彼の腕の中踊る」



星一のイヤホンから響いてくるのは、昭和80年代をチェック柄で染めた人気アイドルグループの曲だ。当時は彼らのその奇抜でイケてる髪型やファッションを真似する男子が後を絶たず、社会現象と呼ばれるまでになったそうだ。

ガタン!電車が大きく揺れる。星一はビクッとして目を覚ました。

(あ…やべぇ…ついつい寝ちゃった…)
星一は寝惚け眼で窓の外に目をやると、何かを感じた。何かが違う。何だこの感じ。


「……寝過ごしたのか。どおりで見慣れない風景だ。今井め…あいつわざと起こさなかったな…」


ぶつくさ言いながら生徒鞄から定期を取り出してポケットの中に入れる。
すると、中にあった日本史の教科書を見て今日の出来事を思い出した。そして合点がいった。

「あいつ…まさか仕返しのために俺を置いて行ったのか…」


してやられた。


あいつには明日また何かやり返してやろうと不敵な笑みを受けべていると、駅が近づいてきたのかアナウンスが聞こえた。

「そろそろ着くのはいいけど、乗り直して引き返さなきゃいけないのは面倒くさいなぁ…」

まあ、駅員には寝過ごしてしまったと事情を話して、定期を見せればきっと大丈夫だろう。

そう思っていると電車が駅のホームへと入って行った。窓の外を眺めると右へ右へと風景が流れる。ホームで待っている人も右へ右へと流れていく。ふと、その中に奇抜なヘアースタイルの青年を見つけた。

「む?なんだあの髪型…ああいう髪型どっかで見たことあるような…?」


キキィー、プシューッ
電車が止まって、ドアが開いた。


星一はホームへと降りると辺りを見回した。普段来ない駅だからこんなにソワソワしてしまうのだろうか。でもそれだけじゃない気がする。ホームを行き来する人の格好がどうも時々テレビで見るような昔の映像っぽいのだ。

「え、なにこれ…?すごく嫌な予感がする」

胸のざわめきを感じながら星一は改札へと向かう。途中、階段を登りながら多くの人とすれ違ったのだが、みんなの顔を見ているとまるで''あんたの居場所はここにはない''とでも言われているのではないかと感じられた。

改札に行き、駅員に訳を話そうと定期をポケットから取り出す。右手の定期を見つめながらとぼとぼ歩いていると近くの女子高校生達の興奮気味な会話が耳に入った。

「昨日のベストテン観た?!フミヤ達すごくかっこよかったよね!!」
「観た観た!もう最高だったぁ!」

む??

「べ、ベストテン?それって確か昔の歌番組だよな…フミヤって藤井フミヤ…ってことはチェッカーズのこと…?」

普段から昭和80年代の曲を聴いている星一にはピンとくるフレーズばかりだった。それどころか、毎日のように某動画サイトで昔の貴重な映像を掘り起こしては観ているほどであった。

胸のざわめきがさらに大きくなる。

タイムスリップ…??

星一はパニックになって運賃も払ってないのに改札から飛び出した。慌てて駅員が声をかけるが星一の耳には届かなかった。

「う、嘘だ…夢に決まってる!」
そう言いながら脇目も振らずに道という道を走り抜ける。

ここがどこかさえもわからないまま走り続けていると、公園が見えた。

少し落ち着こうと思い、公園のブランコに座って腕時計を見た。時刻は現在午後6時27分だった。星一の腕時計は電波時計でソーラー発電も出来る平成現在ではごく普通の腕時計であった。公園の時計と照らし合わせてみても特に時間のズレはないようだった。
タイムスリップの原因は全くもって不明だが、腕時計は無事なようだ。

「あ、スマホは…!?」

慌ててスマホを学ランのポケットから取り出す。画面下にある丸いボタンを押してみた。こちらも午後6時27分を表示している。しかし、日付のところだけボヤけていてどうやっても見えない。

なんでだろう…そう思いながらふと顔を上げた時、公園のゴミ箱が視界に入った。バッと立ち上がり、近づいてみるとはみ出した新聞紙が見える。

(そうだ…!新聞紙になら年月日が書いてあるはずだ…!)

そう思いながらゴミ箱から新聞紙を取り出して日付を確認してみた。
星一は目を見張った。そして自分の目を疑った。

「しょ、昭和59年…?ってことは1984年…

は、は、はぁぁぁぁぁぁッ??

昭和?え、昭和?えぇっ!?

な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!?」


星一は静まり返った夜の公園で一人夜空に向かって叫んだのだった。




Stranger ~第1章~ 1

2015-11-23 17:35:34 | Stranger (小説)

1.トンネル


「君の声を聞かせて 雲をよけ 世界照らすような」



星一の部屋に響くこの歌はどこか懐かしいダンスミュージックのようで、思わず腰を振って踊りだしたくなる、そんな歌だ。


消防士になる夢を持つ星一は高校3年生の秋を越え、学校のみんなが大学受験に備えてラストスパートをかけている中、早々と公務員学校に入学を決めていた。
そのため、あとは卒業さえできればいいという考えに甘んじていた星一は授業中も上の空だった。

「おい、武田!俺の授業はそんなに退屈か?」

日本史教師・加藤の声が夢の世界から星一を引きずり戻す。

「お前なぁ、いくらクラスで1人進路が決まっているからってそんな風にボーッとしてていいわけじゃないんだぞ?」

ようやく我に返った星一は慌てて姿勢を正す。

「あ、はい、すみませんでした。以後気をつけます」

そう星一が言うと加藤は授業に戻った。

「おい、星一。お前なぁにまた変な妄想してたんだよ?」

横の席の今井が肘で小突きながら、ひそひそ声で星一をいじる。

「うるさいな、ただボーッとしてただけだよ。気にすんなって」

「誤魔化そうったって無駄だからな。俺はお前がニヤついてたところを見たんだからな!」

「ニヤついてなんかないって!いい加減にしろよ」

「いいや、絶対にニヤついてたね!」


もう限界だ。


次の瞬間、星一はバッと手を挙げて告発した。

「先生、今井君がちょっかい出してきます」

「ちょ、ちょっと待てよ星一!」

ひそひそ声で焦る今井は加藤の視線から逃れようと教科書で顔を隠した。すると加藤は、

「おや、今井がいないようだ。誰でも構わないから後で職員室に今井を連れてきてくれ。連れてきてくれたやつには売店のジュースでも買ってやろうかな?」

加藤はしたり顔でそう言うと再び授業に戻った。


その後、授業が終わると今井は星一以外の男子全員に連れられて職員室に連行された。




キーンコーンカーンコーン♪

今日の全ての授業がようやく終わり、みんなそれぞれ帰路に着いた。星一は日本史の授業の後、加藤にみっちり絞られた今井と電車の駅に向かって歩いていた。

「お前さぁ、仲間を売るこたぁないだろう!ちょっとからかっただけじゃねぇか?」

「お前がしつこいのがいけないんだろ。」

「だからって加藤に売り飛ばすなんて血も涙もねぇよお前…!俺あの後、職員室で全歴代江戸幕府将軍を10回も復唱させられたんだからな!」

「よかったな、これで江戸時代の問題でいい点が取れるじゃんか」

「いいわけねぇよ!今夜、全歴代将軍が俺の夢に出てきそうだぜ!おっかねぇ!」

そんな会話をしているとあっという間に駅に辿り着いた。
駅のホームに着くと星一はスマホを取り出した。もちろん、学校でのスマホの使用はおろか学校への持ち込みすら禁止されている。しかし、大概の生徒がこっそりと鞄に忍ばせて校外で使っているのが現状だ。

帰りの電車の中で音楽を聴くのが星一のお気に入りの時間だ。しかし、平成生まれの高校3年生でありながら普段好んで聴く曲はほとんど昭和80年代の曲だ。星一曰く、80年代の曲のメロディーや歌詞の方が星一にはしっくりくるらしい。

今日も80年代の、いわゆる懐メロというものを聴きながら電車に揺られていると少し眠気が襲ってきた。お気に入りの80年代アイドルの歌声にうっとりしていると、ついつい眠ってしまった。降りる駅は3つ先に迫っている。

その様子を見ていた今井は、本人の中では今世紀最大のアイデアを思いつく。同じ駅で降りる星一を電車に置きざりにして、寝過ごさせてやろうというのだ。どうやら今日の授業中の仕打ちに対する復讐らしい。

一駅、また一駅と降りる駅が近づいてくる。
そしていよいよ次の駅で今井の復讐が果たされる。今井の心臓がドクドクと脈打つ。こんなことにドキドキ出来るのも青春の醍醐味の一つなのだろう。

そして遂に降りる駅に着いた。
星一はまだ寝ている。今がチャンスだ!
今井は座席の上の荷物置きから生徒鞄をこっそりと取ると、ソロソロと電車から降りた。

星一はイヤホンをしているので全く気付いた様子はない。

いよいよ電車のドアが閉まる。今井の胸が高鳴る。プシューっという音とともにドアが閉まり、電車は寝たままの星一を乗せてトンネルへと消えていった。

復讐を見事果たした今井は鼻歌交じりに駅の改札をくぐり、自転車に飛び乗り帰っていった。