~第2章 十字架 ~
それはMSFがまだコロンビアのバランキア港沿岸を本拠としていた頃で、
赤い義手の‘‘教授”とお涙頂戴の‘‘平和の使者”が訪ねてくるよりも前のことだった。
「おいカズ、ちょっといいか?」
突然のボスの声。
副司令室で‘‘とあるビジネスパートナー”からの極秘テープを解読していたミラーは内心ギクリとしたが、なに食わぬ顔でそれらを引き出しに片付け、顔を上げた。
「どうしたスネーク?あんたから訪ねてくるとは珍しいな」
スネークが部屋に入ってきてミラーの机の真向かいにある2つの椅子の片方に座った。
「カズ、1つ聞きたいことがある。
…お前、リンダとはどんな関係だ?」
これまた突然のことにえっ、と言いかけたがなんとか飲み込んだ。
「い、いや、別に言うほどの関係じゃないぞ?」
しまった!少し焦りが混じってしまった…!
スネークはふぅーんとでも言うような表情をして葉巻に火をつけると、部屋の外の‘‘誰か”に向かって言った。
「だ、そうだぞ…リンダ?」
リンダ…?リンダ、リンダ?
勢いよく扉が開くと、そこには美しい顔に怒りを貼り付けたリンダが立っていた。随分とお怒りのようだ。
「よ、よぉ~、リンダ!お前までどうしたんだ?」
ヤバい。それ以外に言葉が見当たらない。
「リンダ、お前もこっちに来て隣に座れ。」
スネークが促すとリンダはスネークの隣の椅子に座った。
「ん~?なんだこれは?三者面談か?ははっ!…そんな訳ないか…」
カズのジョークに2人は顔ひとつ変えずに無表情を保ったままだ。
「ミラー副司令、あなたは私のことをどう思っているの?言うほどの関係じゃない?じゃあ、あの夜のことは全部嘘だったわけ?!」
リンダからの突然の猛攻に、スネークに助けを求めようと視線を向けたカズだったが、スネークは葉巻を燻らせて見向きもしない。
どうぞ、お好きに。とでも言うようであった。
「ちょっと、ハッキリしてよ!あなた、私以外にもたくさんの女に手を出してるんでしょう?!それなのにあなたはあの夜、私に愛してると言った…あれも全部嘘だったのね…」
な、なんだこれは。ドロドロしている。まるで、昔日本で観た人情ものの映画のようだ。
「そ、それは誤解だ!お前のことは愛してるさ!」
世紀の女好きは心にもないことを言ってなんとかなだめようとした。
「そんなの嘘よ!ぜんぶ聞いてるわ!糧食班のマチルダにスーザンにマリア、それから研究開発班のレイチェルにキャサリン…それから他にもたくさん!」
これは言い逃れできない。
全て真実だ。なんてこった…!
サングラスの奥の瞳は動揺に揺れている。
ミラーは真っ白になって…燃え尽きた。
第2章Part1完 Part2に続く…