はい。こちら農水省製麺局ラーメン課

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神名備

2005-05-07 09:19:29 | ラーメン店調査 (51~55点)
東京山手線管内北部エリアの雄「神名備」である。僕の漠然とした感覚によれば、山手線管内北部エリアと言えばJR池袋駅から上野駅辺りまでがイメージされるが、その中でも際立ってレベルが高い店が多い池袋駅界隈(東池袋「大勝軒」などを擁する)を除けば、間違いなく「神名備」のクオリティが突出しているであろう。

個々の店の総合的な力量を冷静に考察すれば、供されるラーメンのタイプこそ全く違うものの、北部エリアの両横綱と言えば、東池袋「大勝軒」とここ「神名備」なのではないか。と、フリーク達からの異論・反論が噴出することを覚悟で敢えて言い切ってしまおう。

では何故「神名備」なのか。それは、店主御夫婦達の客に対するきめ細やかなサービスや思いやりなどから自ずと生じる気持ちの良い店内の雰囲気、そして勿論言うまでもないことであるが、ラーメンを初めとする各メニューの質の高さに至るまでのあらゆる要素が超一流だからである。今では、押しも押されもせぬ大人気店でありながら、その人気にあぐらを掻かずに謙虚に一杯のラーメンを提供し続ける姿勢には誰しもが敬服せざるを得ない。

ではこの店はどこまでのサービスを客に提供しているのだろうか。これは一例に過ぎないが、丁寧に解説が手書きで書かれたお品書き、どれだけ混雑していても1回当たり3杯のラーメンしか作らないという味へのこだわり、また、どれだけ行列が延びていても見知らぬ客同士を相席させず、1グループ1テーブル制を貫き通す客への配慮など。その全てがストレートに食べに来た客を満足させ、「ああ、この店にはもう一度行きたいなぁ」と思わせるのである。

一応店名を冠した「神名備そば」という淡泊清涼な塩ラーメンがこの店の代表メニューであるが、この店は決して客にそれを押し付けない。「当店のメニューは全てお薦め品であり、看板メニューは存在しません」という意味の添え書きがそれを物語る。どこまでも崇高にして謙虚な姿勢である。

こういう店だから、僕にとっても「神名備」には様々な思い入れがあり、決して忘れることができないのだ。この年齢にもなれば、誰でも辛く悲しい出来事のひとつもある。時には忘れ得ぬ女性を想い涙することもある。「神名備」のラーメンはそういう僕の気持ちを時には癒し、時には僕を「しっかりしろよ!」と励ましてくれるのである。他に美味しいラーメンは数多くあれど、人の心をこれ程までに癒してくれるラーメンを僕は知らない。

特に、代表メニューである「神名備そば」。繊細で可憐な乙女を思わせる黄金色のスープ。このスープは決して自己を主張することはないが、それでいてひとたび味わえば慎ましやかな優しさが全身を包み込む。

味は塩味ベースであるが、濃度は極めて控えめであり、2、3杯のレンゲで味わって初めて塩だと気付くくらいである。卵色をした特製のストレート細麺は青竹のようにピンと伸び、全く雑味を感じさせない。麺そのものの味も極めて美味い。味がする麺でこれほど美味なものも珍しい。麺とスープが醸し出すハーモニーは絶妙にして奥深く、傑作の名に恥じることはない。これは、もはやラーメンというジャンルを超えた「麺」という名の芸術品である。

チャーシューは、金華豚を丹念に炙り、少し焦げ目を付けたものであり、見た目も華やか。あたかも女性の黒髪を飾る真紅のリボンだと言ってしまえば大袈裟だろうか。味も極上であり、単なる煮豚とは完全に一線を画している。

とどめに添えられたカイワレ大根も鮮烈な苦みのアクセントを食べ手にプレゼントする。

極めて女性的な香りのする、優しくも神々しい傑作である。

(1)麺13点、(2)スープ18点、(3)具5点、(4)バランス10点、(5)将来性9点の計55点の評価。
並はやや分量が少な目なので、大食を自負する人であれば大盛り以上を頼もう。

もちろん「神名備そば」以外のメニューも絶品。特に「坦々麺」と「豚骨ラーメン」は店主も歴史的傑作の太鼓判を押す逸品である。

現在、月、火休の原則昼営業、土日のみ夜営業(21時まで)もあるが、基本的には短時間営業なので、食べに向かう人は是非注意されたい。一度味わえば病みつきになること請け合いの傑作ラーメンである。


所在地:千駄木
※当店は、農水省製麺局ラーメン課の推奨店です。

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ラーメン二郎 赤羽店

2005-05-07 09:17:54 | ラーメン店調査 (51~55点)
6店目に御紹介させていただく店は「ラーメン二郎赤羽店」である。通称「王二郎」。一昔前までは、店名のサブタイトルを取って「よしぐま」と呼ばれていた時期もあったが「ラーメン二郎赤羽店」に店名が変更されてからは、「王二郎」というニックネームに統一されつつある。これは、この店が王子神谷に位置することから「王子」と「二郎」をもじって名付けられたものであって、オバケのQ太郎の「O次郎」とはまったく無関係である。くれぐれも御注意いただきたい。

ところで、「ラーメン二郎」は、この「王二郎」のほか、泣く子も黙る総本山「三田本店」や、目黒、町田、八王子などの都内各地に点在しているが、例えば「目黒二郎」なら「めぐ二郎」、変わりどころでは「八王子店」の「猿二郎」など、バラエティーに富んだニックネームが付けられている場合が多く、単純な僕などはニックネームを知るだけでも楽しい気分になってしまう。

現在「ラーメン二郎」は、本店支店を合わせて20店舗前後が都内に散在し、それに「二郎系」と呼ばれる「二郎」の味を提供する「二郎」以外の店を含めると相当の数に上る。少し大風呂敷なのかも知れないが、今や都内にいる限り、その気にさえなればいつでも気軽に「二郎」を楽しむことができるようになったと言えよう。まさに一大勢力と呼ぶにふさわしい堂々たる躍進ぶりである。

そのような状況の中、どうして僕が「王二郎」を選んだのか。それには僕なりの理由があるのだが、説明に若干のスペースを割くことをお許し願いたい。

「二郎」を愛する者(通称「ジロリアン」と呼ばれる)には、それぞれ自分にとっての贔屓店のようなものが存在し、その贔屓店を巡って色々な議論が沸き起こったりする。この種の議論は通常、本店と各支店の味の同一性を指向する他のラーメン店では起こり得ないものだ。しかしながらこと「二郎」に関しては、味の管理は基本的なラインはともかく、原則として支店任せであるため、店ごとにその店ならではの個性があり、その個性の差が各人の好みを呼び、とどのつまりは議論を招くのである。

現在、メジャーなグループとしては、「三田派」「赤羽派」「町田派」「吉祥寺派(生郎派)」くらいだと考えているが、その中でも、「三田派」と「赤羽派」が2大勢力だと思う。いわゆる「三田派」は、「三田本店」をこよなく愛する正統派で、このような人達は大抵、「三田本店」に最も近い味と言われる「目黒二郎」も好む場合が多い。一方「赤羽派」は「王二郎」のみをこよなく愛し、その他の「二郎」を認めない傾向にある。場合によっては本店でさえも。

では、どうして「赤羽派」はこれ程までに「王二郎」に執着するのだろうか。それは「王二郎」の一杯が、極めてイレギュラーだからである。ここで、イレギュラーと呼ばれる由縁を説明しよう。

まず、通常の「二郎」について解説すると、アブラっぽい独特のスープと極太麺、そして粗っぽく切り裂かれた「豚(チャーシュー)」そして野菜の「四味一体」で構成されており、小(並)でも麺の量は300g前後。しかも、野菜の量、ニンニクの量、脂の量、味の濃さは調節し放題(厳密には、野菜については無茶して大量に頼みすぎると店側の反感を買うという話があるが)という、まさに「オトコのためのラーメン」である。

それもそのはず。もともと「二郎」は三田にある慶応大学の体育会系の生徒の空腹を満たすために生まれたラーメンであり、彼らのニーズを満たすためには、これくらいの迫力で丁度良かったのである。

それでは、「王二郎」は、それらとどう違うのか。答えは、タダでさえ凄まじいガテン系ラーメンである「二郎」を更に「数段」パワーアップさせているのだ。そして、その総てにおいて妥協がない。もはや、その内容はラーメンの名を借りた凶器に近いものがある。

まず、スープ。甘み成分を構成するミリンの量は他店の2倍と言われる。そしてスープの表層に数ミリ単位で張り詰められた脂は、食べ手を圧倒する。麺は通常の「二郎」を数段パワーアップさせた超極太の極硬麺であり、箸で持ち上げても「くの字」に曲がったまま動かない。そして、あろうことかこの麺は、スープを押しのけてこんもりと山のような盛り上がりを見せているのである。さらに、麺の重みはスープのかさを上げ、もはやそのスープは表面張力により辛うじて丼に留まるのみである。よほどバランス感覚に優れた人間でなければ、脂まみれのスープを手に引っかけてしまうので、ティッシュ、ハンカチは必需品である。また、二郎の具の主役である「チャーシュー」も、もはや肉の切れ端と言うに相応しい代物である。凶暴なことこの上ない。

ジロリアンたちの間では、通常の「二郎」の大盛りが「王二郎」の並程度かそれ以下の分量だと噂される。他店を圧倒する分量に我々は、ただただ息を呑むしかない。

このような事情があるので、ジロリアン達の間でも「王二郎」は良くも悪くも他の「二郎」とは一線を画するものとして別格視されているのである。

それで、「味の方はどうなのか?」と言えば、これがまた実に美味いと言わざるを得ない。おそらくこの十撰の中では店の性質上、最も好き嫌いが別れる店だろうことは確実なのであるが、僕は、あの麺の太さや硬さ、独特の食感、スープ゜の味はもちろんのこと、客とラーメンが真剣勝負で向き合う「王二郎」独特のムードが大好きなのである。

評価は、荒削りな味がウリの店なので当たり外れがあることは否めないが、当たりだった場合

(1)麺13点、(2)スープ17点、(3)具4点、(4)バランス10点、(5)将来性7点の合計51点。

この店、スープ、麺、具ともにハイレベルで隙がないが、とりわけスープと麺の組合せ方が絶妙である。どちらも凶悪で、個性のある食べ手を選ぶ代物であるが、それらがシンクロして一体となった時に得られる旨味の快楽はただ者ではない。一度ハマれば、リピート確実の麻薬のようなラーメンである。


所在地:王子神谷
ラーメン二郎三田本店の支店
※当店は、農水省製麺局ラーメン課の推奨店です。

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麺屋武蔵

2005-05-07 09:03:08 | ラーメン店調査 (51~55点)
泣く子も黙る21世紀東京ラーメン界を代表する超有名店。もはや、その知名度は東京というローカル区に留まることなく、全国区に到達したと言っても過言ではない。また、中野の「青葉」とともに、今世紀の初め、全く新しいラーメンのジャンルとして登場した「ニューウエーブ系(注)」の先駆けでもある。その御威光は絶大であり、ラーメンの味から店の外観に至るまで、多数の後進のラーメン店に絶大な影響を与えていることは周知の事実。

私見になるが、僕も「武蔵」の登場が、現在の東京ラーメン界に決定的な影響を与えた可能性が高いと考えている。とりわけ、店構えなど店の外観については、「武蔵」がその後に登場する各ラーメン店の良きお手本になったことは否めない。

僕は、関西からの上京以来、10年間にわたって色々なラーメンを食べ歩いてきたが、大まかに言えば、前半の3,4年間、つまり「武蔵」が登場する前までは、どちらかというと少々汚くてワイルドな雰囲気を醸し出す店舗が人気店の主流だったのに対し、「武蔵」の登場以降は、清潔で小洒落た雰囲気の店が主流になったとの感覚を抱いている。そしてそれはラーメンというジャンルの「食」が、今までラーメンを敬遠していた女性やカップルにまで浸透していった時期と軌を一にするのではないかと推測しているのだが、深読みだろうか。

まぁ、その他にも「武蔵」という1ラーメン店が残した輝かしき業績は枚挙に暇がないほど存在し、それを全て書いてしまうと優に1冊の本ができるくらいなので、これくらいに留めておくが、この店が名実兼ね備えた正真正銘の名店であることは否定することのできない事実である。

その証拠に毎週、土曜日の昼時ともなれば、「武蔵」の味を求めてどこからともなく人々が殺到し、蟻の行列さながらの大行列を作る。それがほんの一時期だけのことならそんなに大袈裟には騒がないが、武蔵については、ここ2,3年もの間「ずっと」そのような状態をキープしているのだから、大したものである。待ち時間は、ピーク時でおそらく1時間強。これは、日本一長い待ち時間(ピーク時2時間弱)を誇る東池袋「大勝軒」や目白の行列店として有名な「丸長」とも比肩しうるものである。

場所は、御存知の方も多いとは思うが、簡潔に。新宿西口小滝橋通りを職安通り方向に向かって直進すると、右手に書店が見えるが、それを素通りし、コンビニ先の薬局を左折したところにある。まぁ、大行列が目印になってくれるとは思うので、迷うことはないだろう。

僕にとっても、「武蔵」は、ニューウエーブ系の典型的なラーメンを思い出すためのひとつのよきサンプルであり、今でもたびたび利用させていただいているところである。ただし、行列が苦手な向きは、青山1丁目の支店を利用する方が便利。そちらは、新宿に武蔵ができる前は本店だったのだが、新宿店の完成後は支店となっており、立地上、新宿よりも行列がかなり短い。混雑時でも、30~40分待ちで待望の一杯を食することができる。特に狙い目は、平日の夜8時以降。運が良ければ、行列なしでありつくことが可能である。

味については、詳しく書いてあるものがあるので簡潔に記すに留めるが、オリジナルラーメンの「サンマの煮干し」を材料に使うスープが有名。あと、コッテリ、アッサリの指定が可能であるが(元々、常連がリクエストしたものであるが)、コッテリを注文すると、桜エビのエキスが入り、魚介類をベースとしたスープの深みが格段に増すので、個人的にはコッテリがお薦めである。ただし、魚介類系をベースにしたラーメンを食べ慣れていないと、「武蔵」のスープの妙味は味わえないのかも知れない。ゆえに、個人的には、一度に留まらず、数回通い、その後で評価を下していただくことをお薦めしたいが、さすがに全国区の「武蔵」だけあって、飽きの来ない深遠さがあり、いつ行っても改めて感心せずにはいられない。

麺は、中太縮れ麺でコシが良く、スープとの絡みも流石の一言。具のチャーシューも最近ではさほど珍しいものではなくなったが、質の良い豚肉を惜しげもなく使用しており、柔らかくて美味である。味付け卵を注文すると、更に良し。

評価はオリジナルのコッテリで(1)麺13点、(2)スープ17点、(3)具4点、(4)バランス9点、(5)将来性8点の計51点。

長い行列を耐えるに十分に値する評価である。新宿界隈では、間違いなくトップクラスの名品だろう。少々個性は強いが、品の良い紳士淑女を思わせるイメージの一杯である。それにしても、「武蔵」の味を模倣し、改良した麺を提供する他店が続出する中で、数年間にわたってこの評価を維持してきた実力は感嘆に値する。

ちなみに、この店が提供する季節限定メニューや期間限定メニューもフリークをはじめとする通からの評価が高い。隠れた人気メニューである。新宿店限定メニュー、青山店限定メニューなども存在し、それらはそれぞれの店でしか食べることができないものなので、僕も限定メニューにありつくために新宿店の行列に参加することもあるくらいである。


所在地:新宿
支店:青山一丁目、池袋、上野御徒町
※当店は、農水省製麺局ラーメン課の推奨店です。

採点方法について

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(注)いわゆる、既存の「醤油」「味噌」「塩」「豚骨」などの味別の区分や「札幌系」「旭川系」「和歌山系」などの土地別の区分を超えて、店主の才覚や発想によりその店独自の味を創出することに成功した系統のこと。最近のラーメン屋には、他店や既存の味の物真似ではなく、店主それぞれの個性(オリジナリティー)が求められているのである。
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