白呪記本編
デルモントでかけっこ遊び 番外編
「ニャッ、ニャアアッ(はっ、はっ・・・)」
今日の私は、ペンギン三兄弟とかけっこして遊んでまっす!
小高い丘から、デルモントのスケートリンクまで・・・遊べそうな所を彼らに案内してもらって、みんなで駆けっこして遊ぶんだ。さすがに氷の張った場所は私に不利なので、丘からのスタートになる。
長男マルルさん、次男コパパさん、三男モモチさん、猫のリオの私。そしてガウラは私の応援。ゴールの所で私達を待ってくれている。
一番早い人には簡単なプレゼントが貰え、一番遅いドべには・・・モモチさん特製栄養ドリンクを飲まされるって! それを聞いたマルルさんとコパパさんが、体を激しく震わせて怯えている・・・私は勿論一番を目指すけど、ますますドベにはならないぞと猫なりに気合いを入れた。
でも・・・
「ニャ、ニャアアッ(やっぱりマルルさんが一番早いや・・・)」
マルルさんはあの二足歩行で素早く動く。風を切って、走る姿はスプリンター並だ。
それに比べてコパパさんとモモチさんは滅茶苦茶遅い。猫の私の方が早く動いてるので、私は二番目だ。これでなんとかドべだけは免れるだろうと余裕を感じていたら、後ろから焦った声が聴こえてきた。
「ああ~~、モモチんの特製栄養ドリンクなんて飲みたくないよぉぉ~~、イヤダ~~」
「コパ兄ぃも飲んだら、絶対癖になる! アレのお陰で頭に毛が生えたでしょ。女の子にモテモテだよ~~♪」
兄弟二人のじゃれ合いが私の耳に聴こえて来た。
猫の聴覚だと1キロ離れても聴こえるんだから凄い・・・
「ちっち、モモチん・・・僕の好きな人が誰だか知ってるでしょ!? 他の子にモテたってしょうがないでしょ~が!! しかもあの後、ルビお嬢様に見られてちょっと笑われたんだよっ!『その頭どうしたの?』って笑いながら心配されて・・・うおおぉぉ~~ん」
なんかとんでもない話を聴いちゃった!
モモチさん特製栄養ドリンクで、あのペンギンの頭に毛が生えたって・・・オバケの○ちゃんじゃないんだから!
「ニャブッ、ニャアア~~(もう駄目~~、あっはっはっ)」
大口開けて大笑い。自分の白い腹を毛むくじゃらの手でポンポン叩いて、その場にうずくまってしまった。すると前を走っていた長男マルルさんが私の所までスピードを下げて寄って来た。耳にそっと呟かれる。
「僕がモモチの栄養ドリンクを飲んだら、目から光線出しちゃったんです。自分で力を制御できないから、色んな所で出しまくっちゃって・・・お陰で自分が手がけていたルビお嬢様のナイスな像を壊すは、ソルトス殿下に殺されかけるは、極めつけがハーティスさんとゼルカナンダさんにあぶり焼きにされそうだったんですよ! ――三日は苦しみました」
「ニャガッ、ニャアア~~(へっ、へぇ~~、目から光線・・・ブッフフ・・・)」
ゴロゴロ笑い転げている内に、ペンギン三兄弟が揃ってしまった。
はっ、しまった! これって彼等の策略じゃ・・・?
「兄上、ナイス! これでまた一からのスタートだね♪ 次は兄上が光線出して、ルビお嬢様に殺されたらいいよっ」
「兄上の小さい頭も、ちょっとは役立つね! 兄上があの世に行った後は、僕がルビお嬢様を幸せにするんだっ。心おきなく逝っていいよ」
「お前ら、何勝手に俺が死んだ話を作ってんだ!
俺はまだ死ぬわけにはいかない。ルビお嬢様と寝床で愛し合うまでは・・・!!」
目付きの変わったデンジャラス三兄弟は、睨みあいながら私の横を走り抜けた。
おっと、こうしちゃいられない。私も彼等の後を追わないと!
「ニャオォォ~~(ああぁぁ~~)」
そうこうしてる間、とうとう彼等がガウラが待つゴールへと近付いて行く。
あの地面に描いた横線を越えたられたらもう到着だ。
特製ドリンクとやらの効能を不安に感じ、私が飲んだ後の悪い想像をすると目から涙が溢れてきた。
「グスン・・・グスッ・・・フニャアアァァ~~(うわあ~~~ん・・・ガウラぁぁ)」
彼等のドリンクの餌食になるくらいならと、泣いて最後の勝負に出た。
ちょっと恥ずかしいけど、これくらい大きな声を出せば聴覚の良いガウラに聴こえるだろうと企む。
すると私の泣き声を聴いたペンギン三兄弟が、蒼白になりながらうろたえだした。
「! 覇者のリオちゃんが泣いちゃったよ・・・どうしよっ」
「ああぁぁ・・・どうすんだよ・・・僕知らないよ~~」
「あわわわ・・・ふ、二人とも、守護獣のガウラが怒り心頭だよぉ・・・」
私を見ていたペンギン三兄弟がガウラへと振り返る。
ガウラの琥珀色の瞳は眼が据わり、背の低い彼等を見下ろす。沈黙が流れ、しばらくすると気温が下がって来た。
大地は凍り
吹雪が吹き荒れ
暗雲が流れる。
彼等三兄弟が居る場所は既に氷柱で囲まれていた。
「貴様ら・・・リオを泣かせたな。お前達、リオに悪意を抱いただろう? これは駆除に値する。覚悟はいいか? ・・・氷柱の槍、――グングニルダスト――!!」
左手を上に掲げたガウラが、下へと振り下ろす。
すると空から氷の矢が広範囲に渡り降りしきり、地面からもさらにツララが出現した。
普段動きが遅いコパパさんとモモチさんも、氷から逃れるために極限の力を振り絞って逃げ回る。
命乞いをする彼等の横を通り抜け、ガウラの居るゴールへと一着した私は彼の元まで駆け抜けた。
「ニャッニャアア~~(ガウラッ、もう許してあげてよっ。私が一番にゴールしたんだしさっ)」
「リオ~~」
仁王立ちしているガウラに跳び乗る。彼の上着によじ登ろうとすると、優しく抱き上げてくれた。
頬ずりされて、柔らかい布で目もとを拭われる。甘い待遇にちょっと恥ずかしかったけど、私からもチョンと口づけしてやった。
彼等に向けられた鉄槌の意識を和らげ、見事に氷は綺麗に消え去る。
「ニャアアア~~?(“グングニルダスト”なんて、いつそんな技名が出来たの?)」
初めて聞く言葉に疑問に思い、ガウラに訊いてみた。
“グングニル”は塩王子が持つ、異国の世界にある本の槍を指し示すそうで、ダストは・・・ちりやゴミじゃなかったかな。結晶も意味に含まれてるらしいけど・・・
「リオが前にオレに教えてくれた。氷を使うなら、“ダイアモンドダスト”が良いと。響きがカッコイイと言ってくれたからな」
「ニャアア・・・(そうなんだ)」
「リオには、オレのカッコイイ所を見せたい。リオの好きな言葉はオレの好きな言葉だ。いつでも共有したい――」
とりあえずガウラにお礼を述べて、ペンギン三兄弟の所まで赴く。
ひっ繰り返った彼等は、鈍い動作で起き上がった。
「ううぅぅ・・・酷いですよ。リオちゃん。嘘泣きなんて・・・あぁっ嘘、今の嘘です!」
三男モモチさん。
「ふぅふぅ・・・もう少しであの世に逝くところだった――」
二男コパパさん。
「一着は覇者のリオちゃんだとしたら、ドべはどうするのかな――?
もう特製ドリンクは飲まなくても良いですよねーー・・・?」
長男マルルさん。
ふっふっふ。甘い、甘すぎるよ? デンジャラス三兄弟。この私を謀(たばか)り、前を走り去るなんて――お釈迦様は許しても、猫の私は許さないよ?
私はガウラの腕の中でシッポを揺らし、彼等に無常なる宣告を下した。
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「ピギャアアア~~! まずいよ~~」
「ルビお嬢様・・・そんな、そんなツレナイお言葉、ああっ、でもそんな貴女も愛しいですぅ・・・もっと嬲って・・・」
「げふぅ・・・」
私が下した審判とは、マルルさん達三兄弟に栄養ドリンクを飲ませる事だった。
飲み干した長男のマルルさんは口から炎を吐き、次男のコパパさんはルビリアナさんとの夢を見ている様だ。三男モモチさんは、余裕で一気飲みして二人の兄を冷やかな目で眺めていた。
「ニャオオォン(はぁ~~、助かったよガウラ)」
「オレはいつでもリオを助ける。安心しろ」
優勝賞品は、猫がまっしぐらで突っ込む程の幻のキャットフード。
モモチさんが私に選んでくれたのは、普通じゃ食べれないデルモントの名産品だった。デルモントでの猫・・・魔猫達がこぞって欲しがるらしく、栄養満点でヘルシーらしい。
ガウラには至高毒ウニくらげ。
海底に沈んだウニくらげを長い銛(もり)で突き刺し、息を止めてから陸に持ち帰る。勿論そのままでは食べれないらしく、浜辺で真っ二つに割って中身を抉(えぐ)る。
お皿に盛って貰ったウニくらげ・・・イクラの様に淡く輝き、ガウラと一緒に頂いた。ゴチソウサマでっす!