
白呪記
暗転1 番外編
「なあ、リオ・・・」
「ニャ?(どうしたの? ガウラ)」
今日一日、ポネリーアと言う、港に面した町で私とガウラは奔走していた。
ディッセントの王様から、傷付いた民の心を救って欲しいとお願いされたからだ。
勿論そのお願いを私は受け入れ、フリージアちゃんと近衛騎士のイルさんライさん、そして守護獣のガウラと私を入れた五人で、町の中にある臨時救護テントまで足を運んでいた。
「黒ブチ猫のティム・・・あいつは幸せ者だな。守る者を見つける事が出来たんだ。きっと、あそこに住んでる猫達は幸せになれる」
一段落着いた後、騎士団長のケネルさんと副団長のノキアさんと別れ、町の外にある丘の大木へ、私とガウラはゆっくり歩いた。
太陽が沈み、辺りはすっかり漆黒が支配する。
その夜空を照らすように、満月が雲から顔を覗かせていた。
木の幹へと近づいた時、肌寒い風が吹く。
私の頭へと葉っぱがひらひら落ちて来て、その葉をガウラが優しく取ってくれた。
「ニャアアッ(そうだねぇ。すっかり親ネコの雰囲気出てたもん!ティムなら、野良でもたくましく生きてけるよねぇ・・・)」
「オレも、リオと出会えて良かったと思う。興味の無かった世界が知りたくなったんだぞ? リオが知ってる事をオレが知らないと落ち着かないから、積極的に言語を覚えようと努力したのは何年振りか・・・」
「ニャアアッ(そうだったの?)」
「“トイレ” と “年季の入ったおっさん” を覚えた。実際国王にも使ったし、これでリオの守護獣としても誇れる事が出来る」
「ニャ(え・・・)」
頷き、自身に満ちてふんぞり返った様子のガウラに私は意識が遠のいた。
(も、もっとタメになる言葉を教えときゃ良かった!)
と、頭を抱えたくなってしまった。
これじゃあ保護者として、世間から何を言われるか分かったもんじゃない! そう口を開きかけた時・・・
「カイナの群れに居た時は、仲間意識なんて特に気にしてなかったんだ。
仲間が危機に曝された時は、そりゃ威信にかけて助けなきゃと、自分に言い聞かせたからな。・・・でもそれ以外は、仲間を守るとか、そんな気持ちなんて持てなかったんだ」
「ニャ、ニャアア(ガ、ガウラ・・・)」
大木にガウラが座り、その膝の上に乗せられる。
背中を優しくさすられ、琥珀色の瞳を私に合わせて来た。心なしか、彼の瞳が不安げに揺れている。
「なぁリオ、こんなオレはおかしいのか? ティムとオレはどう違う?」
「ニャアア・・・(ガウラ・・・)」
「チビ達を精一杯守るティムは、群れのボスとしてちゃんと全うしていた。しかしオレは、カイナの中に居たチビ達を、あそこまで世話したいと思わなかった。これじゃあ、何の為の強者だ?」
「ニャ、ニャアア(ガウラ?)」
「もう群れに戻りたいとも思わない・・・じゃあ、あの頃のオレは、一体何だったんだ・・・!」
私の体を力強く抱きしめてくるガウラ。
同じ立場に居て、仲間想いでもあるティムと自分の違いを確認した時、自分の存在意義について不安に陥ったのかもしれない。なんとか心を和らげたいと、彼の顔をペロリと一舐めした。
「ニャア、ニャアアッ(ガウラ、誰しも完璧な人なんて居ないんだよ・・・ガウラとティムが違うのは、きっと考え方が違う所から来てるかもしれないじゃない)」
「考え方?」
「ニャ!(そうだよっ! “愛しい気持ち”・・・それが湧きあがる時、誰かを守りたいって願うんじゃないかなぁ)」
「“愛しい気持ち”、“守りたい”、“願う”・・・?」
目を見開き、私の顔を見るガウラ。
彼の疑問に、全てを答える事なんか出来ない――でも、沢山の言葉の中からこれかな?と、差し出してみせる事なら私にも出来る。
「・・・リオは、やっぱりオレの女だ。ぜんぶ、オレの欲しい言葉をくれる・・・」
「ニャ、ニャアッ(そ、そう?)」
「今教えてくれた言葉は、全部リオに当てはまる・・・そうか、これが “守りたい” か・・・」
そう言うと頬から口に、頬ずりといつものキスの雨を降らせて来た。
彼が満足するまで身動きせずに待っていると、表情がふんわりと柔らかくなった。
「カイナの群れでは無理だったけど、リオとの子供なら “守りたい” と湧き起こるかもしれない。だからリオ、沢山オレとの子供を産んでくれな」
「ニャ、ニャアアアアッ(はっ、恥ずかしい事をサラリと・・・!!)」
「リオと子供の為に、いっぱい獲物を狩ってくる。そして、また “群れ” を作るんだ!」
胸が温かくなるのは、守る存在が傍にいるから。自分も相手も幸せにしたいと、心の奥底で願う時がきっと来る。ガウラも私も、幸せになる為に先へ進むんだ。
いつか辿り着く安息の地を求めて――
暗転1 番外編(終)
暗転1 番外編
「なあ、リオ・・・」
「ニャ?(どうしたの? ガウラ)」
今日一日、ポネリーアと言う、港に面した町で私とガウラは奔走していた。
ディッセントの王様から、傷付いた民の心を救って欲しいとお願いされたからだ。
勿論そのお願いを私は受け入れ、フリージアちゃんと近衛騎士のイルさんライさん、そして守護獣のガウラと私を入れた五人で、町の中にある臨時救護テントまで足を運んでいた。
「黒ブチ猫のティム・・・あいつは幸せ者だな。守る者を見つける事が出来たんだ。きっと、あそこに住んでる猫達は幸せになれる」
一段落着いた後、騎士団長のケネルさんと副団長のノキアさんと別れ、町の外にある丘の大木へ、私とガウラはゆっくり歩いた。
太陽が沈み、辺りはすっかり漆黒が支配する。
その夜空を照らすように、満月が雲から顔を覗かせていた。
木の幹へと近づいた時、肌寒い風が吹く。
私の頭へと葉っぱがひらひら落ちて来て、その葉をガウラが優しく取ってくれた。
「ニャアアッ(そうだねぇ。すっかり親ネコの雰囲気出てたもん!ティムなら、野良でもたくましく生きてけるよねぇ・・・)」
「オレも、リオと出会えて良かったと思う。興味の無かった世界が知りたくなったんだぞ? リオが知ってる事をオレが知らないと落ち着かないから、積極的に言語を覚えようと努力したのは何年振りか・・・」
「ニャアアッ(そうだったの?)」
「“トイレ” と “年季の入ったおっさん” を覚えた。実際国王にも使ったし、これでリオの守護獣としても誇れる事が出来る」
「ニャ(え・・・)」
頷き、自身に満ちてふんぞり返った様子のガウラに私は意識が遠のいた。
(も、もっとタメになる言葉を教えときゃ良かった!)
と、頭を抱えたくなってしまった。
これじゃあ保護者として、世間から何を言われるか分かったもんじゃない! そう口を開きかけた時・・・
「カイナの群れに居た時は、仲間意識なんて特に気にしてなかったんだ。
仲間が危機に曝された時は、そりゃ威信にかけて助けなきゃと、自分に言い聞かせたからな。・・・でもそれ以外は、仲間を守るとか、そんな気持ちなんて持てなかったんだ」
「ニャ、ニャアア(ガ、ガウラ・・・)」
大木にガウラが座り、その膝の上に乗せられる。
背中を優しくさすられ、琥珀色の瞳を私に合わせて来た。心なしか、彼の瞳が不安げに揺れている。
「なぁリオ、こんなオレはおかしいのか? ティムとオレはどう違う?」
「ニャアア・・・(ガウラ・・・)」
「チビ達を精一杯守るティムは、群れのボスとしてちゃんと全うしていた。しかしオレは、カイナの中に居たチビ達を、あそこまで世話したいと思わなかった。これじゃあ、何の為の強者だ?」
「ニャ、ニャアア(ガウラ?)」
「もう群れに戻りたいとも思わない・・・じゃあ、あの頃のオレは、一体何だったんだ・・・!」
私の体を力強く抱きしめてくるガウラ。
同じ立場に居て、仲間想いでもあるティムと自分の違いを確認した時、自分の存在意義について不安に陥ったのかもしれない。なんとか心を和らげたいと、彼の顔をペロリと一舐めした。
「ニャア、ニャアアッ(ガウラ、誰しも完璧な人なんて居ないんだよ・・・ガウラとティムが違うのは、きっと考え方が違う所から来てるかもしれないじゃない)」
「考え方?」
「ニャ!(そうだよっ! “愛しい気持ち”・・・それが湧きあがる時、誰かを守りたいって願うんじゃないかなぁ)」
「“愛しい気持ち”、“守りたい”、“願う”・・・?」
目を見開き、私の顔を見るガウラ。
彼の疑問に、全てを答える事なんか出来ない――でも、沢山の言葉の中からこれかな?と、差し出してみせる事なら私にも出来る。
「・・・リオは、やっぱりオレの女だ。ぜんぶ、オレの欲しい言葉をくれる・・・」
「ニャ、ニャアッ(そ、そう?)」
「今教えてくれた言葉は、全部リオに当てはまる・・・そうか、これが “守りたい” か・・・」
そう言うと頬から口に、頬ずりといつものキスの雨を降らせて来た。
彼が満足するまで身動きせずに待っていると、表情がふんわりと柔らかくなった。
「カイナの群れでは無理だったけど、リオとの子供なら “守りたい” と湧き起こるかもしれない。だからリオ、沢山オレとの子供を産んでくれな」
「ニャ、ニャアアアアッ(はっ、恥ずかしい事をサラリと・・・!!)」
「リオと子供の為に、いっぱい獲物を狩ってくる。そして、また “群れ” を作るんだ!」
胸が温かくなるのは、守る存在が傍にいるから。自分も相手も幸せにしたいと、心の奥底で願う時がきっと来る。ガウラも私も、幸せになる為に先へ進むんだ。
いつか辿り着く安息の地を求めて――
暗転1 番外編(終)
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