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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

4.30セミナー「子どもの貧困:高校中退、低学力、不登校―その実態と支援のあり方」を開催しました!



 ゴールデンウィーク3日目の4月30日、下北沢にある北沢タウンホールにて「子どもの貧困:高校中退、低学力、不登校 その実態と支援のあり方」セミナーを開催しました。講師として、『ドキュメント高校中退』(※)の著者であり、NPO法人「さいたまユースサポートネット」代表を務められている青砥恭さんをお招きし、ご自身の高校教師としての経験や100人以上の高校中退者への聞き取りにもとづく子ども・若者の貧困の実態、支援の取り組み、支援の中で見えてきた課題などについてお話しいただきました。
 セミナーには、立ち見が出るほど多くの方が参加され 、子どもの貧困と教育に関する問題の注目度の高さがうかがえました。

想像を絶する「子どもの貧困」の実態
 まずセミナーで青砥さんは自身の活動の中で出会った子どもたちの実例を挙げて、貧困の実態についてお話しされました。たとえば、定時制高校を1年の3学期に中退した女性の話がありました。彼女は、両親の離婚後家族がばらばらになったため、16歳から自活しなければならず、現在は18歳で一人暮らしをしていて、昼間中華料理屋で働いている上、夜にスナックでも働いていまする定時制高校を1年の3学期に中退した子どもの話がありました。あるケースワーカーは、彼女がは自分で働いて得た収入での力で生活し生きておりいることを指して、「彼女は自立できたんだね。よかったね」と話したそうですが、青砥さんは、一見「自立」しているように見えるものの、本当の意味での彼女の「居場所」はなく、経済的にも苦しいため、こういった子どもを「自立した」と手放しで肯定するみなすのは間違っていると青砥さんは強調していました。

親から受ける愛情にまで及ぶ格差
 続いて、 青砥さんが2008年に1200人の高校生を対象に行ったアンケート調査を紹介されましたが、その結果は興味深いものでした。そこでは、入試の平均点によって各高校をいわゆる 「進学校」や「中堅校」「底辺校」などに分けて、学校間の差異格差 をみていました。子どもの学力と貧困の状態には強い相関関係が見られます。例えば進学校の生徒は、その父親が会社員や公務員、教師といった安定した収入を得られる職に就いている割合が7割を超えているのに対し、底辺校の生徒の方はそれが3割にも届かず、逆に技能職(運転手や大工)や不安定なアルバイトが多くなっています。
 またこうした経済的格差だけでなく非経済的格差もあることもがわかります。「学校に行くのがいやになったことがありましたか?」との質問に、「よくあった」「時々あった」と答えた生徒の割合が、進学校は3~4割だったのに対し底辺校は6割を超えていて学習意欲における格差がみられますし、さらには「親は自分に期待していると思いますか?」という問いに「そう思わない」答えた生徒の割合が、進学校は3割程度だったのに対し底辺校は5割を超えており、親から受ける愛情の格差までも存在しているのですことがわかります。

 貧困問題には物質的・経済的側面だけでなく自尊感情の欠乏、学習機会からの排除を通じてた社会関係からの排除や、人生の可能性からの排除、“場”と“機会”の喪失・はく奪、といった、いわば非経済的側面といえるものがあります。
 アンケート結果からはそういった経済的・非経済的貧困家庭の子どもが満足に教育を受けられず、逆に恵まれた家庭の子どもがよりよい教育機会に恵まれ、それが学習意欲の差にもつながり、経済的側面と非経済的側面の両面で、機会の不平等だけでなく結果の不平等をも生み出してされている現状を推し量ることができます。

貧困の連鎖
 またそれだけでなく、よい教育を受けられなかった子どもが将来親になったとき、その子どももまた同じような状況になる、「貧困の連鎖」の問題も重要です。2006年の大阪府堺市の調査によれば、生活保護世帯主の学歴の70%以上が中卒や高校中退となっており、さらにその世帯主の25%が生活保護世帯出身とのことです。昔生活保護世帯で育ち、十分な教育機会を与えられないまま社会に出て親になり、経済的困窮から生活保護世帯主となり、自分の子どもに十分な教育機会を与えられないといった負貧困の連鎖がこのデータから見受けられます。

 「子どもの貧困」の問題とは、単に高校を中退したり、不登校になったり、低学力の子どもがいるという個人の問題ではなく、結局は出身世帯の貧困の問題であり、社会保障問題、労働問題などの日本に蔓延している様々な社会構造の問題と切っても切り離せないものなのです。つまり子供の教育費負担が大きくなる時など生活に困窮した時に利用できる充実した福祉制度が十分整備されていないだとか、雇用情勢が悪化して親世代が失業している、あるいは働いていてもワーキング・プア状態であるといったことが、間接的に子どもの経済的、さらには非経済的貧困を引き起こしているのです。

どうすればよいのか――対応策の提言
 では、どうすればいいのか。青砥さんはセミナー後半の質疑応答の時間にこの問題を解決するための提案をいくつかあげられていました。
 ひとつは、今すぐ取り組めるもので、NPOなどによる若者への学びなおしのサポートや居場所づくりといった活動です。まず青砥さんが代表を務めるのNPOでの取り組みをうまく進めるということです。さいたまユースサポートネットでは、生活保護受給世帯の子どもへの学習支援や、高校中退、外国人の親の元に生まれたための日本語のが不自由、出身世帯の貧困…様々な理由から社会の周辺に追いやられ、孤立している若者の居場所づくり、学びなおしの場をつくる「たまり場」・「学び場」運営などの事業に取り組んでをしています。

 そして、もうひとつは中期的な提案であり、地域のコミュニティソーシャルワークが大きな役割を担う必要がありますると、説明されていました。既存の制度や現在の地域のあり方では、誰からも顧みられず孤立してしまう子どもや若者が増えてしまっているを把握し、サポートすることができないという問題があります。そこで、どのような子どもも制度の谷間からこぼれ落ち、孤立し、そのため必要な支援につながれないといったことがないようにする必要があるのです。具体的には、横浜市など一部の自治体で先駆的に行われているように中学校区単位で、その地域中のすべての子どもをみる協議会などを行政、NPOや市民の連携のもとで運営して、地域で困っている家庭をサポートし、社会から排除されそうな子どもを守ると同時に、親の養育力の育成も図るという活動が考えられます。

 子どもや若者と長年関わった経験から、たくさんの実例を挙げて子どもの貧困について語る青砥さんの言葉には説得力があり、この日集まった50人以上の参加者は静かに聞き入っていました。
 生活相談への対応や被災世帯の子どもへの就学支援といった貧困問題に取り組んでいるPOSSEとしても、今後の活動に役立つようなお話を聞くことができ、大変有意義なセミナーとなりました。

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※青砥恭『ドキュメント高校中退―いま、貧困が生まれる場所』書評http://blog.goo.ne.jp/posse_blog/e/08e241b2e0cdd2ef90743adffbaa6fde

(大学1年生、ボランティア参加1年目)

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NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。

なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
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NPO法人POSSE(ポッセ)
代表:今野 晴貴(こんの はるき)
事務局長:川村 遼平(かわむら りょうへい)
所在地:東京都世田谷区北沢4-17-15ローゼンハイム下北沢201号
TEL:03-6699-9359
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