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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

書評『ルポ 雇用劣化不況』


 今回紹介するのは、POSSE主催シンポジウムのゲストとして参加していただいたり、雑誌『POSSE Vol.3』(第3号についてはこちらをご参照ください)でも「日本版「ワークシェア」の虚妄を超えて ――「賃下げ」か「失業シェア」か――」というインタビューを寄せていただいている朝日新聞社編集委員の竹信三恵子さんの『ルポ 雇用劣化不況』(岩波新書)です。
 この本が出版されたのは2009年の3月で、昨年末以降の不況によって加速した、雇用環境の劣化についての最前線の話題、論点が網羅的に取り扱われています。

 「ルポ」という性格にふさわしく、具体的な社会の動きを追ってまとめてあり、当事者の方や労働運動を行っている方へのインタビューなどに基づいて書かれているため、労働環境の最新の実態を知りたい人にはおすすめです。また、扱っている労働問題のテーマも幅広く、派遣切りに象徴される大解雇、雇用よりも会社の利益が優先される働き方の実態、同一価値労働・同一賃金の必要性、派遣社員の労災の急増、公的なサービス(介護など)に従事する人の非正規率が高く「官製ワーキングプア」を生み出しているという問題、「名ばかり正社員」(周辺的正社員)の問題、企業の枠を越えたユニオンの必要性、反貧困運動と「派遣村」など、最近のニュースに頻繁に登場するキーワードについて本書を読めば一通り知ることができるでしょう。

 また具体的な事例を、「均等待遇」原則の不在や、派遣などの間接雇用を利用した企業による安易な人件費削減などの背景と結び付けて言及してあり、分かりやすいながらも構造的な問題まで把握できる内容になっています。

  興味深いのは最後の章で、竹信さんが今年3月に取材に行かれたヨーロッパの現状について論じられているところです。そこではまずデンマークが取り上げられています。デンマークは「解雇の自由な国」として日本でも報道され、脚光を浴び始めていました。確かにデンマークでは妊娠した人以外は正当な理由があれば特に理由を示さなくとも解雇ができるようになっており、そこだけみれば企業側からみて非常に都合のいい制度をもった国のように思われます。
 しかし、実際には解雇が自由なかわりに会社と労働組合が連携して会社負担の手厚い職業訓練や転職サポートを行うようになっており、失業してもいきなり生活に困ることのないような仕組みが整えられているそうです。デンマークは単なる雇用の柔軟化ではなく、フレキシビリティと、きちんとしたセキュリティの保障とを両立させた「フレクシキュリティ」路線であることを竹信さんは指摘しています。またドイツやフランスでの「フレクシキュリティ」へむけた取り組みも紹介されており、「安全ネットなき」柔軟化をしてしまった日本の現状を批判しています。 
 
 現状だけでなく、これから日本の雇用、社会保障にどのようなルールをつくっていくのかまで見据えている本です。ここ最近の流れをもう一度整理したい人や、全体像をつかみたい人に特にお勧めします。
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