パスポートを会社から取り上げられていたフィリピン人女性のAさんが、当時の勤め先である行政書士事務所「アドバンスコンサル」(以下、会社)に自身のパスポート返還を求め、一昨年1月に会社を起訴した裁判の期日が横浜地裁で2月1日に行われました。
この裁判では、Aさんは会社に対して、自身のパスポートの返還や、パスポートがなかったがゆえに働くことができない期間があったことに対する補償、そして損害賠償を求めています。2020年1月に提訴しましたが、会社は後に、Aさんが記者会見で事実を公表したことなどを持ってAさんを名誉毀損で訴えるという、権利主張を行った労働者に対する報復行為(海外ではSLAPP訴訟と呼ばれます)ともいえる行動をとっています。
※事案の詳細については、以下の記事を合わせてご覧ください。
外国人が行政書士事務所を提訴 「パスポートを返さない」「人権侵害大国」日本の実情
今回の期日では、会社(被告)側の「主張」の整理が目的でしたが、あまりに膨大な量であり、かつ訴えの内容と関係があるとは思えない内容の書面を被告側が提出し続けているため、2022年3月末までに裁判所が提出書類を整理した後に、論点を提示することになりました。
そもそもこれまでの期日で被告側が自身の主張を整理するはずでしたが、結局のところ裁判そのものを長引かせる様な主旨の訴えを行ったため、単に主張をまとめるだけに時間を割かないといけない状況になっています。にも関わらず当日、会社側は、やれ原本は持ってきてないだの、あとで持ってくるだの、全く真剣に取り合っていない様子で、その場にいる全ての人の時間を無駄にしている雰囲気が漂っていました。
私はその日初めてボランティアとしてPOSSEの活動に参加したので、経緯などをほぼ把握はしないまま法廷内に入りました。初めての法廷に入り戸惑う私を気遣い、Aさんは彼女の側の傍聴席に私を誘導してくれました。Aさんに様子を伺うと「緊張している」と言っていましたが、その時はまだ何故彼女が緊張しているのかわからなかったのですが、後でよく分かる事になりました。裁判自体は短く、審議されたのは被告側の、一見裁判の主旨とは無関係に思える、原告側への確認等でした。けれど、数分座っていただけでこれがどれ程重要な闘いなのかを身を持って感じる事になりました。
被告側に座っていた、会社代表の小峰氏が口を開けた瞬間、私は息を飲みました。裁判官からの質問に対して裁判官に答えるのではなく、またAさんには代理人や弁護士や通訳がいるのにも関わらず、直接Aさんを指差し、高圧的な口調で話し始めたのです。あまりにも筋違いな威圧的な態度に傍聴席にいた私の全身が強張りました。この様なパワハラや差別を日常的に繰り返している事は容易に想像がつきました。裁判官も特に彼の態度を気にとめる様子もなく事を進め、被告側の傍聴席にはおそらく会社の従業員の方が1人、終日うつむきながら座っていました。
しかし、Aさんは毅然とした態度で通訳や代理人を通して質問に答えていました。もし、私がAさんの立場に置かれたら、彼女の様に声を上げる事が出来ただろうか?絶えずその考えが頭から離れませんでした。存在を否定され、今まで散々苦痛を与えてきた相手と、対峙するには物凄い勇気が必要です。それでもなお彼女は「正義のために」と今日も法廷に立っている事に私は奮い立たされました。
後に調べると、被告は過去の期日で「外国人」労働者を「社会正義に反する悪質な存在」とのヘイトスピーチを繰り返していたりと、その日、私が見た態度はほんの氷山の一角だった事がわかりました。パスポートを会社が預かる行為が日本では法的な規制がない事で、被告の様な雇用者は「外国人」労働者を従属させ、強制労働させる事が可能になってしまっている。この様な人権侵害が見過ごされてしまってる事は「外国人」労働者だけの問題ではなく、全ての労働者の立場に意味合いをもつ社会全体の問題です。そして被告の様な雇用者に人権侵害を容易にさせないためにも、一緒に闘い、社会を変えていかなければとならないと強く感じました。
裁判前にPOSSEの他のメンバーから、裁判を長引かせることは企業など権力側の常套手段で、原告側の闘争資金や外国籍の場合、在留資格が切れたりするのを待っているとの話を聞きました。長引くと経済的に弱いほうが負けてしまうと。じゃあ、弱い立場の人はどうすればいいの?と絶望的な気持ちになっていました。しかし、裁判でのPOSSEの方や賛同している弁護士、そして何より法廷に立ち今もなお闘い続けるAさんの姿を見て、そして共に闘い続けているPOSSEのボランティアやクラウドファンディングに寄付する方の存在を思い出し、いつの間にか必ず何かが変わるという希望に成り代わっていました。
次回の記事は4月14日です。私たちPOSSEは裁判をまだまだ続けていきますが、これからも声を上げ続け、パスポート取り上げの違法化を実現し、「外国人」労働者の権利を求めていきます。「外国人」労働者と共に、全ての労働者のためにより良い社会を築くために一緒に闘っていきましょう。(POSSE学生ボランティア)
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
日本社会に蔓延する権利侵害や貧困・差別の問題に取り組む、高校生・大学生ボランティアを募集しています!関心のある方はぜひご連絡ください。
メール:volunteer@npoposse.jp
団体ホームページ:https://www.npoposse.jp/