NPO法人POSSE(ポッセ) blog

東電の偽装請負について


 今回は以前話題になった、東京電力福島第一原子力発電所での偽装請負と、下請け労働者の安全管理の問題について紹介します。
 原子力発電所は多段階の下請け構造で成り立っており、7次請け、8次請けを超える会社が関与しています。メディアで「協力会社」として紹介されているのが、これらの下請け会社です。
 東京電力と下請け会社の契約は、業務の一部を委託する「請負契約」になっていると考えられます。請負契約では、請負の発注元(元請け会社)は下請け会社の労働者に指揮命令することができません。しかし、実際は指揮命令しているケースがよくあります。これが「偽装請負」です。
 偽装請負は2006年、特に製造業において社会問題になりました。メディアでは、指揮命令権がないのに指揮命令を行っているという違法性が強調されました。そもそも、偽装請負はなぜ問題なのでしょうか。その理由の一つに、請負労働者の安全管理について責任がない元請け会社の指揮命令を受けることにより、労働者の安全が脅かされるからというのがあります。請負労働者への指揮命令を、雇用責任のある下請け会社ではなく、元請け会社が行っている場合は、職業安定法違反および労働者派遣法違反となるのです。
 一方で、労働基準法や労働安全衛生法といった労働条件法制では、戦前から全く異なる発想の政策が行われてきました。建設業のように伝統的に下請け構造を持つ業種では、元請け会社が下請け会社以下の会社の安全衛生について、責任を持って管理することが義務付けられており、労災補償も元請け会社の責任とされています。「実際には元請負業者が下請負業者の労働者に指揮命令を行うのが普通だから」というのが理由だそうです。つまり、職業安定法や労働者派遣法では、元請け会社には請負労働者の安全管理責任がないから、指揮命令を行うのは「違法」としている一方で、労働基準法や労働安全衛生法では、元請け会社が請負労働者に指揮命令を行うのは「普通」だから、元請け会社が安全管理責任を負うとして、これまでの施策が行われてきました。
 では、多重請負構造から成り立つ原子力発電所ではどうなっているのでしょうか。残念ながら、今のところ元請け会社(東京電力)が下請け労働者の安全管理や、将来の補償について責任を負うということにはなっていないようです。
 すでに数名の下請け労働者の大量被ばくが報じられていますが、東電はその作業現場で高い放射線量を事前に把握しながら、注意喚起を怠っていました。また、将来下請け労働者の健康が損なわれた場合の補償に関して、東京電力の広報部は、「協力会社の社員の方々については、それぞれの会社が定める規定があり、当社の把握するところではありません」(『FRIDAY』6月24日号 p.22)と答えたそうです。東京電力が将来の補償に関して責任がないとすれば、より危険が大きい作業を下請け労働者に回すことも考えられます。
 さらに、原子力発電所内での安全管理について、行政の監視も届きにくい状態であったことが分かりました。労働基準監督署が作業現場に行って監督する場合、抜き打ちで行われるのが普通です。予告すると、会社が都合の悪いものを隠してしまう可能性があるからです。しかし、原子力発電所は危険が大きいため抜き打ちの監督ができず、予告せざるを得ません。管理者の指示に従って作業現場に入ることになるからです。危険の多い原子力発電所で、行政の監督権限が及びにくい状況になっていたことについて、改めて検討する必要もあるでしょう。
 「偽装請負」は、元請け会社が下請け労働者に指揮命令をしているという違法性が強調されがちですが、労働者保護の観点からいえば、どのように下請け労働者の安全・健康を守っていくかということが重要です。危機的状況におかれた福島第一原子力発電所で、「正しい請負」をしようとすると、かえって労働者が危険にさらされるとも指摘されています。(原発の「協力会社」と偽装請負、hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳))東京電力に、下請け労働者の安全管理や将来の補償まで責任を持つように求めていくことも必要であると考えます。

<参考>
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1106/14/news007.html 
予告監督についての記事あり

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