おじいさん
冬の中にいるのに
冬のように寒いねと言っている
夏の時もそうだった
夏のように暑いねと言っていた
笑いながらだから
言っていることは分かっている
昔からジョーク好きなおじいさんだと
隣近所では評判だった
原発災害で古里を離れて
仮設住宅に仮住まいをしながら
ときどき町に許可申請をして
帰還困難区域にある家を見に行っていた
おじいさんになると
不思議人と呼ばれるようになるが
しっかりとした
考える芯を持っているから
もう帰れないと決断した
それでも 心配だから
と 家を見に行く
何も持ちだせないまま
今までの生活が乱雑のまま
放置されている
おじいさんにはこれが堪える
おじいさんの家の前には
バリケードがあって警備員が立っている
僅か数十メートルの距離なのに
許可書がないと入れない
家の柱に手を置くと
声がこもって言葉にならない
この無情な線引きは
これからも動くことは無いのだ
この家の前に立つと
おじいさんは何回も頷く
何に頷いているのかは分からない
ただ黙って頷き続けている
冬の中にいるのに
冬のように寒いねと言っている
夏の時もそうだった
夏のように暑いねと言っていた
その おじいさんから
これが我が家だ
大の字になって眠れる
大の字は大きいと書くのだぞと
そんな ジョークを
早く聴きたいものだ
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます