詩の自画像

昨日を書き、今日を書く。明日も書くことだろう。

5.蜘蛛

2017-05-31 07:55:05 | 

蜘蛛

    

蜘蛛の糸を手繰っていったら

蝉が命を手離そうとしていた

ときどき激しく揺らしては静かになる

この繰り返しが何回か行われ

少しずつ弱っていく

蜘蛛の姿は何処にもない

 

蝉が力尽きることを知っている

蜘蛛は知恵者だ

人は自然の営みに踏み込んではならない

これが自然との約束なのだ

ここで蝉が蜘蛛の手で細断され

命を絶ったとしても

 

悲しみは無常なほどシンプルだ

風が吹けばそこで姿形が消えて無くなる

歩き始めた瞬間にはもう忘れている

これが日常の一コマなのだ

記憶にも残らない蝉の命

鳴き続ける理由の一つがここにある

 

蜘蛛の糸はとても長く

その糸は蜘蛛の生命体なのかも知れない

触れるとぶる~んと揺れるから

隠れている蜘蛛が姿を現す

しばらく様子を見てから待つ時間を決める

蝉が命を手離す時間が分かるのだ

 

蜘蛛は賢い知恵者だ

蜘蛛の巣となると人には嫌われるが

一本ずつ張り巡らされた細い線は

間違いなく蜘蛛が作った芸術品だ

箒で巣となったその芸術品を壊しても

すぐに修復できる才能もあるのだ

 

 

 


4.お言葉

2017-05-31 07:53:36 | 

お言葉

        

天皇陛下のお言葉と

安倍首相のお言葉を聴いた

 

全国戦没者追悼式でのこと

 

歴代首相が

盛り込んできたアジアへの加害と

反省に言及しなかった首相

不戦の誓いの言葉もなかった

 

さきの大戦に対する深い反省を

文面に初めて盛り込んだ陛下

 

そして平和の存続を切望する国民の意識に支えられ

との 一文も入れられた

 

読み上げる文面の長さではない

そこにどれだけの気持ちが入っているかだ

 

天皇陛下万歳と叫んで死んでいった

何十万人もの人々

 

戦後七十年の節目に

戦争法案と言われている安保法案が衆議院を通過した

 

国の象徴だから思いを口に出せない

 

それでも精一杯のお言葉で

静かに戦没者の前にこの言葉を置いた

 

もう二度と天皇陛下万歳と叫んで

死んでいくことは許されない

 

お詫び表現は不必要とする意見もあったりして

過去の事実を風化させようとする

 

あった事実は永遠に消えることは無いのだ

その国に対するお詫びも同じこと

 

天皇陛下のお言葉と

安倍首相のお言葉を聴いた

 

言葉の上に「お」が付くということは

そこに思いの違いがあってはならないのだ

 

   


3.謎解き

2017-05-31 07:52:02 | 

謎解き

        

昨日知ったことや

今日知ること

 

知らなくてもいいこと

知らなければならないこと

 

守らなくてはならないこと

守らなくてもいいこと

 

謎解きのようなものが

生きているといっぱいある

 

その一つ一つが

満点でなくてもいい

 

人には頑張りがあって

魔法のような意地がある

 

これが支える杖になって

生きている間は謎解きが続く

 

そんな謎解きも

ここでは満点が求められる

 

除染がいつ終わって

古里にいつ戻れるのか

 

放射線量は低くなるのか

低くなったのか

 

健康への影響はないのか

それを保証してくれるのか

 

汚染水問題は解決したのか

解決できるのか

 

放射線量が高い地域は

町村から切り離すのか

 

しかし この頃は

満点でなくてもすぐに切り上げする

 

だから 除染した後

満点の地域が増えている

 

避難者は賢くなった

すぐに隠されていると見抜く

 

発表される放射線量の数値は

除染した家の数値だ

 

除染対象外の

家の外へとは出ていかない

 

みんな放射線量計を持っているから

満点だと言われても

すぐに嘘だと分かってしまう

 

ここには

本当の満点が欲しいのだ

町村がなくなる前に

 

謎解きとは

本気で向き合うと

難しいものばかりなのだ

 

 


2.仮置き場

2017-05-31 07:50:36 | 

仮置き場

               

中間貯蔵施設の建築予定地の近くに

仮置き場ができた

 

放射性物質等の汚染土を詰め込んだ

重さ一トン近くのフレコンバックが次々と

トラックで運び込まれてくる

 

福島県内のフレコンバックが

全て運び込まれるまでの時間が復興の時間に

新しく加算された

 

東京五輪の開催までが復興の到着点だと

誰が言ったのか

 

無責任な言葉が飛び交っている

それだけ復興に残された時間は少ないのだ

残った時間でどれだけ復興が進むのか

 

フレコンバックの中では木の芽が発芽し

芽が飛び出したりしているものもある

この袋の中身と重さが県民の怒りなのだ

 

ここにある数えきれないほどの黒い山は

青空まで遮っている

これでは明るい未来など描けないだろう

 

このような場所が今も無数にあるのだ

外から見えないように青いビニールシートを

被せてはいるが

 

これがせめてもの配慮

ここに古里があるから帰還せよというのだ

朝起きて窓を開けたら黒い山

 

一日が明るく動き始めることができるのか

疑心ばかりが積み重なっていく

廃炉を巡っては

突然の石棺方式の名前が出て来たりして

 

まだ私たちが知らない多くの

とんでもない考えが隠されている気がする

疑心の塊は大きくなるばかりだ

 

中間貯蔵施設の建築予定地の近くに

仮置き場ができた

 

中間貯蔵施設の建築は未定だ

用地買収の終わりが見えないのだ

仮置き場に運び込まれたフレコンバック

 

青い空を遮り人の心まで遮り始めている

帰還する予定者は少ない

現実の扉を開けるとまた苦悩するから

 

 

 


1.切り離された帰還困難区域

2017-05-31 07:49:12 | 

切り離された帰還困難区域

            

 

日本から

福島県の帰還困難区域が切り離されてしまった

そんな感じがしている

 

帰還困難区域にあった古里の名前は日本にはない

中間貯蔵施設と名前が変わる

 

みんな賠償金と引き換えに古里を離れていったが

そこに国や東京電力の一滴の涙はあったか

 

いつの間にか猪親子が留守宅に引っ越してきた

猪にとって住み心地は最高らしい

次々と子どもの数が増えていった

 

帰還困難区域を除く地域でも放射線量を心配して

若い人たちの気持ちが古里から離れていった

高齢者の頑張りにも限りがある

 

飼い主のいなくなった牛や犬や猫たちを心配したが

上手に野生化ができたようだ

 

あれから五年が過ぎて六年目に入った

震災詩を書き続けてきたので明るい詩が書きたいが

まだ早いだろうか

 

日本から切り離されてしまったような姿で

帰還困難区域にある古里が

寂寥とした荒れ野の中にポツンと残されている

 

絵にはならない 絵文字にもならない

原稿用紙に文字が載らない

表現するものがあまりにも悲しすぎるからなのだ

 

赤いポストは錆びて赤みを失った

バス停は傾いたままバスを長い間待ち続けている

 

この帰還困難区域は

除染しても放射線量が安心レベルまで下がらない

だから中間貯蔵施設が造成されるが

永久貯蔵施設にならないように願っている

 

原発被害を受けて周りの風景との距離感は消えた

どこにも立ち位置がないのだ

ぐるりと回帰しようとしてもその場所もない

 

もう元に戻ることはない古里

中間貯蔵施設が出来上がって諦めが付くのだろうが

五年が過ぎても明るい会話は戻らない

 

知らない間に古里が切り離されたこの場所は

歴史の中で原発事故の恥部として残っていく

 

目に見えない境界線には今も不公平感が漂っている

古里は国籍のない漂流船のようだ