蜘蛛
蜘蛛の糸を手繰っていったら
蝉が命を手離そうとしていた
ときどき激しく揺らしては静かになる
この繰り返しが何回か行われ
少しずつ弱っていく
蜘蛛の姿は何処にもない
蝉が力尽きることを知っている
蜘蛛は知恵者だ
人は自然の営みに踏み込んではならない
これが自然との約束なのだ
ここで蝉が蜘蛛の手で細断され
命を絶ったとしても
悲しみは無常なほどシンプルだ
風が吹けばそこで姿形が消えて無くなる
歩き始めた瞬間にはもう忘れている
これが日常の一コマなのだ
記憶にも残らない蝉の命
鳴き続ける理由の一つがここにある
蜘蛛の糸はとても長く
その糸は蜘蛛の生命体なのかも知れない
触れるとぶる~んと揺れるから
隠れている蜘蛛が姿を現す
しばらく様子を見てから待つ時間を決める
蝉が命を手離す時間が分かるのだ
蜘蛛は賢い知恵者だ
蜘蛛の巣となると人には嫌われるが
一本ずつ張り巡らされた細い線は
間違いなく蜘蛛が作った芸術品だ
箒で巣となったその芸術品を壊しても
すぐに修復できる才能もあるのだ