詩の自画像

昨日を書き、今日を書く。明日も書くことだろう。

140文字の世界  5

2017-10-31 16:15:27 | 

60

 

猫二匹が、何か話している

 

「食べ物が贅沢だと言っているよ

昔は、ご飯に味噌汁をぶっかけた

ぶっかけご飯だったんだって」

 

「贅沢なのかな? いや今は、時代が違うからね」

 

「俺たち稼ぎはないけれど 癒し系だから

十分採算はとれていると思うよ」

 

こんな愛嬌のある話をしているのかも

 

 

 

61

 

てっぺんに立つ人がいる

底辺があるからてっぺんがあるのだろう

 

そのてっぺんに立つと

謙虚な考えが剥がれ落ちていく人がいる

 

小さな組織でも

てっぺんに立つ人がいる

 

目配りや気配りや裏方の仕事に汗を流す人

このような人を

本当のてっぺんに立つ人だと思いたい

 

 

 

62

 

秋を蹴ったのは誰だ!

 

ベッドの上で

寝起きの猫がくしゃみをしている

丸まった背中に

丸まった厚手を一枚重ね着した

 

秋を蹴ったのは誰だ!

 

ベッドの上の猫のくしゃみは

まだ止まらない

呼応するように

私もくしゃみをしながら

今日の立ち位置を確かめている

 

 

 

 

 

63

 

烏が鳴いている

集団で鳴いている

 

死の臭いが風に乗ろうとしている

 

そこには近づけない

嘴の槍が遮っている

秋の花一つ供えることもできない

 

食いちぎる音までも風に乗ろうとしている

 

間違いなく死が

そこには横わたっている

 

少し離れていても

魂が浮遊するまで

そっとしておくべきなのだろう

 

 

 

64

 

祖父から小遣いをもらって水飴を買った

一本の割りばしに水飴が膨らんでいる

隣の友達の方が少し大きいと口げんかになったときもある

 

割りばし一本に水飴の塊が一つ

 

そこに青と赤の模様が滴のように垂らされている

割りばしを折って二本で水飴と混ぜ合わせていくのだ

混ぜるほど綺麗な色になった

 

 

 

65

 

そこに一滴の滴があれば

大河になれる

だから降り続く雨は

いつでも大河になれるのだが

まだ震える手がある

 

秋を見送る為の手だ

 

それが小さな手であっても

水の流れの邪魔になる

震える手が去れば

一滴の滴は

心底で大河になれる

 

五感が聞き耳を立てている

 

66

 

するりと足下が滑り足音が転ぶ

 

この道は綺麗な色が沢山落ちて賑やかだが

その色や声で両の耳が塞がると

転んで怪我をする人が多くなる

 

転んだ音を治すのは大変な事だ

包帯を巻いても冬色に染まってしまう

しかし秋に戻して治療することはもうできない

 

だから一歩の踏みだしには慎重さが必要だ

 

 

 

67

 

六人に一人の子どもの貧困

差し伸べる手は沢山あるのに

どこで躊躇しているのだろうか

 

良心に従って差し伸べる手は

子どもたちにとって魔法の手となる

私の手もそうであって欲しい

 

 

 

68

 

旅人はここに留まって冬を制作している

短い時間なのだが集中力がすごい

 

雨が降り続いたので少し遅れ気味だが

十月の月カレンダーを捲れば

冬が目の前にある筈だ

 

寡黙な人だ

黙々と荒れた手で秋の蔦から冬を制作していく

小さな悩みは網目の中に隠していく

 

器用な手つきだ

 

 

 

69

 

私は店頭に並べられた一匹の魚

お客様は魚の鮮度を見て買う

 

私の鮮度は他の魚より劣っているから

買うお客様はいない

 

魚にも魚の年齢がある

魚は年齢が増すごとに旨みも増す

ほれぼれする全身の光沢

 

私にも年齢はあるが

年齢が増すごとに愚痴っぽくなり鮮度が落ちる

 

いつも売れ残る私の鮮度

 

 

 

70

 

台風が去った夜に冬が来た

風に乗って来たのだろう

 

一晩眠るごとに大きくなっていく

 

月は弓の形をして

何かを射ようとしているが

花鳥風月という

人が愛してきたものではない筈だ

 

真下に向かって矢が放たれれば

冬の背中に突き刺さる

 

そんな冒険を月がする筈はない

もう冬の中にいるのだから

 

 

 

71

 

この手は神秘な時間の中で

神様が造ってくれたもの

銃を持つ為に造られたのではない

人を殺傷する為に造られたのではない

 

悩んでいる人がいれば手で抱きしめる

痛みがあればその場所に手を添える

手と手を通して相手と会話もできる

 

手と心は一対であって

平和の役割を沢山持っている

 

 

 

72

 

背中が寒い

 

寒い寒いの 飛んでいけ!

背中が叫んでいる

 

私の背中には

老いた丸みがあるから

寒さもすべり落ちていく筈なのだが

 

冬の入り口の寒さは

すべり落ちる事を知らない

 

背中が寒い

と また背中が叫んでいる

 

寒い寒いの 飛んでいけ!

この魔法は

幼子にしか効かない

 

 

 

73

 

昨日は一日中雨に滑った

会話が横切ろうとする風に流された

濡れるからと傘を探したら

目の前に傘が一本あった

隣でお年寄りが、雨が止むのを待っていた

傘がないようだ

心が葛藤して雨にまた滑った

手にした一本の傘を

そのお年寄りの方に差し上げた

お返しの必要がありませんと

一声添えて


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