詩の自画像

昨日を書き、今日を書く。明日も書くことだろう。

有名人

2017-02-28 17:44:01 | 

有名人

 

話好きで有名な人が隣組にいる

朝の散歩時に呼び止められると

一時間以上は立ち話をすると聴いていた

 

その有名人に今朝の散歩時にあった

「おはようございます」と朝の挨拶をした後に

原発事故後の復興状況は

どうなのでしょうね?

と 聴いてきた

 

新聞をとってはいるのですが

目が悪くなってしまって文字が読めないのです

一人住まいの為

テレビは良く見るのですが

耳が悪いもので聴こえないのです

 

でも一人の生活が長くなると

言葉を忘れることが多くなってきますから

言葉を忘れないようにと

テレビの人に向かって話しかけています

会話の真似事なのですが

 

滅多に顔を合わせることがない有名人が

「立ち話」をする中で

自分の事を少しずつ話しはじめた

 

有名人の立ち話は

情報収集と

人との会話の接続が目的のようだ

「復興は進んでいますよ。ただ帰還が先に来て

インフラが追いつかないようです」

 

知っている必要な情報を伝えていく

伝言ゲームのように見えてもゲームではない

目が悪い、耳が悪い

有名人の寂しさも話の中で分かってきた

 

散歩のペースが乱されると避ける人がいる

大事な事を忘れてしまった人だ

有名人と話をする時は

上手に言葉の中に丸や句読点やスペースを入れる

 

この散歩道はこの時間になるとがら空きだ

時間帯を避けているのだ

寂しいことではないか同じ日本人として

 

目が悪くても、耳が悪くても

話好きならときどきは、今の新鮮な情報を接続して

喜ばせてあげる気持ちも必要だろう

 

変人みたいな距離の取り方は有名人に失礼だ

この「有名人」の言葉も揶揄しているように

思えてならない

 

名前も聴いた、住んでいる場所も聴いた

個人情報だが

Aさんと情報の接続ができた

こちらから遊びに行くと約束して別れた


魚屋さん

2017-02-28 08:47:54 | 

魚屋さん

 

 

私は店頭に並べられた一匹の魚

お客様は

魚の鮮度を見て買う

私の鮮度は

他の魚よりいつも劣っているから

買うお客様はいない

魚にも魚の年齢がある

魚は年齢が増すごとに旨みも増す

ほれぼれする鮮度の良さ

私にも年齢はあるが

年齢が増すごとに

愚痴っぽくなり鮮度が落ちる

いつも売れ残る私の鮮度

魚屋さんは大きな声を張り上げるが

お客様は見向きもしない

重さだけは十分にあるのだが

あっても脂身ばかりだと

分かっているのだ

並ぶ場所は

お客様から見えにくい隅っこ

年齢は何とでもなるが

鮮度はごまかせない

売れない魚は

もう店頭に並ぶことはないだろう

魚屋さんは

信用という看板を背負っている

私のような魚が

店頭にずらりと並んでいたら

お客様から見放される

明日からどうしょうかと考えている


夜の電話

2017-02-27 17:03:47 | 

夜の電話

 

昨夜 遅くの電話は

もしもし で切れてしまった

 

どんな用事があったのか

は 分からない

分からないから不安が生じる

 

お互いの周波数がどこで合わなくなったのか

大事なことが

回線の喉元にひっかかっている

 

その電話は

回線が雑音らしい人混みの中に取り囲まれているから

切れやすくなっていたのだろう

 

朝になれば単なる間違いだと

分かることが多いのだが

真夜中に電話の音で起こされ一人取り残されると

悪いことばかりを考える

 

一つ押し違っても

真夜中の電話は相手側に不安を届けることになる

だから夜の電話は

時間を決めてかけるのがいい

 

万が一間違ったとしても

間違った相手にお詫びし再度電話のかけ直しができる

 

電話とは

本来そのような機能を持ち合わせている筈だから

その機能を上手に使えば

不安な夜を過ごすことは無い

 

そこにお互いに

注意力を加算すれば

もしもし で切れてしまった

と 言うことは少なくなるのかも知れない

(未完成)


手のひら

2017-02-27 06:28:57 | 

手のひら

 

手のひらの生命線上には

神様がいるらしい

命の領域の出入り口で線引きをする為だという

生命線が曲線を描いていたり

途切れていたりしている場所がある

そこは手のひらの裏にある命の癖を考慮しながら

神様がその領域に線引きした場所なのだという

手のひらも命の領域の一つなのだ

手のひらの生命線を通して

その裏を見ることができるのは神様だけだ

だから自分の手のひらだと思ってはならない

手のひらの表と裏を行ったり来たりして

命の兼ね合いを探っているのだ

あれから七十年たった

もう神様に全てを委ねていますよ

と 言ったら手のひらが少し汗ばんだ

 

 


桜が咲く頃

2017-02-26 17:13:01 | 

桜が咲く頃

 

この散歩コースには 
東日本大震災の
津波による被害者の
遺体安置所になっていた体育館がある 

三年前の 桜が咲く頃には
体育館の扉の中から 
泣きながら
名前を連呼する声が聞こえてきた

扉を開けると
無言の棺がいっぱい置かれていて
その前で 立ち止まっては顔を確認し 
名前を呼び続けた

体育館の中は 名前が反響しあって
舟のように揺れていた

名前を捜しながら
船酔いしたような青白い顔が
灯りに 
ぼんやりと浮かんでいたのを覚えている

遺体同士が
何かを囁きあっていたようだが
狂乱していたのだろう
気づかずに通り過ぎてきた

DNA鑑定を待っている棺もあったが
いつの間にか
桜は散ってしまった

葉桜を小まめに折りたたむと
暑い夏がやってきた

腐敗しないようにと温度調節をしても
家族を待つ棺の数が減ることは無かった

あれから三年が過ぎた
あの体育館は 
元の目的の場所に戻っていったが

桜の花が咲く頃になると
いまだに 体育館の中では名前が反響し
舟のように揺れるらしい

だから桜の花びらは
魂の一つ一つを慰めるようにしながら
散っていく

体育館の中から
元気な声が聞こえてくる
パス回しをしながら
シュートの練習をしているのだろう

ぐるりと回って
ボールが落ちてくる
その下には
忘れてはならないものが待っているのだ