
幼い頃、父に連れられて神社のお祭りに行く事は、それは、それは、心躍る出来事でありました。道端に並ぶ露天をめぐり、ヨーヨー釣りに金魚すくい、見世物小屋を見た後に食べた「梅が枝もち」や「ベビーカステラ」の味は今でも忘れることができません。
そのお祭りには「ひやしあめ」(あめ湯)という飲み物を売る露天が何軒もお店を出していました。
※冷たくして飲むと「ひやしあめ」温かくして飲むのと「あめ湯」。
「ひやしあめ」は大きな板氷の上に、茶色の液体を入れたグラスをいくつも並べて売られていました。私はこの「ひやしあめ」を一度で良いから飲んでみたいと思っていました。しかし、私の父は潔癖症であったのか、露天で火を通さずに売っているものは、決して買ってくれませんでした。
「不潔で腹を壊すから駄目だ」と言うのです。
「飲みたいよ!」と私が駄々を捏ねると、しまいに父は怒り出すのです。私は泣く泣くあきらめるしか仕方有りませんでした。
やがて私も大きくなって、親とは一緒に祭りに行かなくなった頃には、露天から「あめ湯」の姿はなくなっていました。
去年のことです。家族旅行で行った信州の小さな町で、偶然お祭りに出くわしました。神社の参道に並ぶ露天を巡っていたとき、グラスに入った茶色の液体を見つけたのです。子供の頃に一度飲んでみたかった、あの幻の「ひやしあめ」です。即座にグラスを三つ買い求めました。
四十年ぶりに再会した禁断の飲み物を手にとると、じっくりとその色と香りを確かめ、こわごわと口に含みました。初めて体験する味なのに、それはどこか懐かしい、しょうがの味がする素朴な飲み物でした。
二口、三口と飲むほどに、私の脳裏に故郷のお祭りの光景と、若かった父の顔が蘇ってきました。その時です。「こら!いい歳をして、まったく、しょうがない奴だ!」あの世で父が怒っている声が聞こえたような気がしました。
「ひやしあめ」 マルキ商店(京都)
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昔は小さな子供の手をひく親の姿が多かったように思いますが(私は兄や近所の子と行ってました)、いまは若者たちがたむろする光景ばかりが目につきます。
そういう時代なんですかね…。
祭りのスタイルは変化しても、お祭りの思い出が良き思い出として、いつまでも人々の心に残っていく事には変わりはないでしょう。
平和な時代が続くことを祈りたいものです。