第12話:名部長と迷課長の違いは??
組織論の中に実体的な責任権限についてこんなくだりがある。命令について、その命令が正しく行われるための原則について
(1) その命令が部下に正しく伝わること
(2) この命令を行うことが部下のためになると部下が思うこと
(3) その命令を部下が自分で出来ると思うこと
(4) その命令を行うことが社会正義に反していないと部下が思うこと
の4項目をあげている。表現は色々あると思うが上記のように命令を受けた部下が、思い、実施する。実施されただけが、命令者の実体的権限である。優秀なマネージャーは、無意識なうちにもこの原則に従っている。
上記の文章の中で、特に重要なことは、「部下が考える」という点である。やるのは部下なのだから当然なことであるが、実際に意識的に「部下の立場」に立って命令しているだろうか。
ここに、この原則をうなづかせるような話を書こうと思う。
昭和30年ごろのことである。私は重機製造の大企業に、組織改善のコンサルタントチームの一員として参加していた。ここではその組織改善の主テーマは措いて、このコンサルティングの中で見た名部長と迷課長の命令の仕方の違いをはっきりと見たので、そのことをここに述べたい。
まづ、迷課長の方である。部下が50人以上いる資材部門の大課長である。広いスペースに8つの係りがありそれぞれ資材の区分に従って購買活動を行っている。
私はこの部門のいろいろな調査を行うため、課長の近くに席を作ってもらって約2ヶ月間の間そこで仕事をしていた。
課長席の近くのレイアウトは第1図の通りである。

ある日のことである。課長が「山本くーん」と第1係のひとりを呼びつけた。山本さんは課長の机の前に立つ。そこで何やら命令をうけたようである。何かの資料作成のことのようであるが、山本さんはチョット首をかしげながら自席に戻っていった
。と思ったら何やら係長の席に行き、ヒソヒソ話をしている。
それから今度は2人で連れ立って私のところに来たのである。
「大塚さん実は山本が課長に・・・・・・・という資料作成を頼まれたんですが、どうもよくわからないんですよ。大塚さんどんな資料がいるのか知りませんか。」私は聞かれても分かるはずはない。仕方がないので2人と一緒に課長席に行き。
「課長さんお二人が命令の内容がよくわからないとのことです。もう一遍聞きたいとのことですがよろしく」とお願いした。課長はちょっとムッとした感じであったが係長と私が居るので、山本さんに作成すべき資料の説明を行った。
私は聞いているうちに相当大変な資料作りなので、その資料の作成目的や、もとになるデータを何処から求めるのか、何時までに必要なのか、などの質問で山本さんをヘルプした。また係長さんにその資料作りに他の係員の応援を考える事などをアドバイスした。
この話はこれで終わるが、あとで係長から聞くと、以前課長からの命令でややこしい資料作りを命令され、急ぐとのことで、徹夜で作成して翌朝仕上げて持ってゆくと「これでは駄目」とアッサリ作り直しを命じられたことがあるので、課長の命令を聞く時は、よほど気をつけなければならないのですよとのこと。・・・・課長の命令はわかり難くて困るんですよ。とボヤイテいた。
徹夜で、一生懸命やって、「それは違うよ」のひとことでは確かに部下はかなわない。
こんなことの繰り返しで、この課長の部下からの評価は散々のものであった。
「命令が伝わらないということは命令者にとっても部下にとっても最悪の職場環境であり、士気が低くなり、事業の足を引っ張ることになる。
さて、こんな迷課長の居る同じ会社で、私は今度は「名部長」と部下の評判の高い部長の仕事の仕方を見ることができた。対照的な2人のマネージャーを同じ時期に観察できたことはコンサルタントとして幸運に恵まれていた。と思っている。
さて、では名部長の命令の仕方を見てみよう。
その名部長は、ある製造部門の長である。私はここでもこの部長の席のすぐ近くに席を貰って現場の調査に当たっていた
。この部長の席の周りの配置図は第2図のようである。

この部長の仕事の仕方を見ていると、現場や他部門に行っているとき以外、即ち自部門の自席に居る時は、殆ど図にある打ち合わせテーブルで部下と話をしているか又は部下の机の脇に座り込んで話をしている。
この人が「山本くーん」というように部下を呼びつけるのを見たことは無い。部下のところに座り込む時は勿論自分から出かける訳だし、打ち合わせテーブルで部下と話しをする時は「山本さんチョット来てよ」と言った調子である。
この部長が命令する時は、部下と話をしていて、ところで今話していたように、ここにこんな問題が起きているんだよ。そこで山本さん、この問題は私はこうやって解決したらよいのではないかと思って居るが君はどう思うかね、などと意見を求める。部下が意見をのべると、そうかそれでは、こんなことも考えて2週間くらいで君が一つ解決してくれないかな。といった感じである。
名部長の日常は殆ど部下とのコミュニケーションと討議に費やされており、いろいろな問題点や方向性は常に部下と一致している訳である。だから「この件を1週間でやってみてくれ」といえば、命令の内容がそれだけの言葉でシッカリ伝わるのである。
勿論日常のコミュニケーションの中に冒頭にのべた命令が実行されるための他の条文の内容も組み込まれているのである。
命令されたことの周りの色々情報が日常的にコミュニケートされているので、部下は簡単な言葉で命令されるより命令事項を深く正しく理解している。従って命令されたというより「部長から頼まれた」という感じで受け取り、また日常的に知らされている情報があるので自分で命令の意味を理解している。だから頼まれた仕事とは言え自分が自発的に取り組まなくてはと考えるようになっている。
自ら考え自ら取り組む。これで形式的な命令でやる仕事の何倍かの生産性で進められることにもなる。部下の士気が上がり仕事はいい結果を生む。まさに名部長。そしてこの名部長は冒頭に掲げた4項目をシッカリと行っているのである。
組織論の中に実体的な責任権限についてこんなくだりがある。命令について、その命令が正しく行われるための原則について
(1) その命令が部下に正しく伝わること
(2) この命令を行うことが部下のためになると部下が思うこと
(3) その命令を部下が自分で出来ると思うこと
(4) その命令を行うことが社会正義に反していないと部下が思うこと
の4項目をあげている。表現は色々あると思うが上記のように命令を受けた部下が、思い、実施する。実施されただけが、命令者の実体的権限である。優秀なマネージャーは、無意識なうちにもこの原則に従っている。
上記の文章の中で、特に重要なことは、「部下が考える」という点である。やるのは部下なのだから当然なことであるが、実際に意識的に「部下の立場」に立って命令しているだろうか。
ここに、この原則をうなづかせるような話を書こうと思う。
昭和30年ごろのことである。私は重機製造の大企業に、組織改善のコンサルタントチームの一員として参加していた。ここではその組織改善の主テーマは措いて、このコンサルティングの中で見た名部長と迷課長の命令の仕方の違いをはっきりと見たので、そのことをここに述べたい。
まづ、迷課長の方である。部下が50人以上いる資材部門の大課長である。広いスペースに8つの係りがありそれぞれ資材の区分に従って購買活動を行っている。
私はこの部門のいろいろな調査を行うため、課長の近くに席を作ってもらって約2ヶ月間の間そこで仕事をしていた。
課長席の近くのレイアウトは第1図の通りである。

ある日のことである。課長が「山本くーん」と第1係のひとりを呼びつけた。山本さんは課長の机の前に立つ。そこで何やら命令をうけたようである。何かの資料作成のことのようであるが、山本さんはチョット首をかしげながら自席に戻っていった
。と思ったら何やら係長の席に行き、ヒソヒソ話をしている。
それから今度は2人で連れ立って私のところに来たのである。
「大塚さん実は山本が課長に・・・・・・・という資料作成を頼まれたんですが、どうもよくわからないんですよ。大塚さんどんな資料がいるのか知りませんか。」私は聞かれても分かるはずはない。仕方がないので2人と一緒に課長席に行き。
「課長さんお二人が命令の内容がよくわからないとのことです。もう一遍聞きたいとのことですがよろしく」とお願いした。課長はちょっとムッとした感じであったが係長と私が居るので、山本さんに作成すべき資料の説明を行った。
私は聞いているうちに相当大変な資料作りなので、その資料の作成目的や、もとになるデータを何処から求めるのか、何時までに必要なのか、などの質問で山本さんをヘルプした。また係長さんにその資料作りに他の係員の応援を考える事などをアドバイスした。
この話はこれで終わるが、あとで係長から聞くと、以前課長からの命令でややこしい資料作りを命令され、急ぐとのことで、徹夜で作成して翌朝仕上げて持ってゆくと「これでは駄目」とアッサリ作り直しを命じられたことがあるので、課長の命令を聞く時は、よほど気をつけなければならないのですよとのこと。・・・・課長の命令はわかり難くて困るんですよ。とボヤイテいた。
徹夜で、一生懸命やって、「それは違うよ」のひとことでは確かに部下はかなわない。
こんなことの繰り返しで、この課長の部下からの評価は散々のものであった。
「命令が伝わらないということは命令者にとっても部下にとっても最悪の職場環境であり、士気が低くなり、事業の足を引っ張ることになる。
さて、こんな迷課長の居る同じ会社で、私は今度は「名部長」と部下の評判の高い部長の仕事の仕方を見ることができた。対照的な2人のマネージャーを同じ時期に観察できたことはコンサルタントとして幸運に恵まれていた。と思っている。
さて、では名部長の命令の仕方を見てみよう。
その名部長は、ある製造部門の長である。私はここでもこの部長の席のすぐ近くに席を貰って現場の調査に当たっていた
。この部長の席の周りの配置図は第2図のようである。

この部長の仕事の仕方を見ていると、現場や他部門に行っているとき以外、即ち自部門の自席に居る時は、殆ど図にある打ち合わせテーブルで部下と話をしているか又は部下の机の脇に座り込んで話をしている。
この人が「山本くーん」というように部下を呼びつけるのを見たことは無い。部下のところに座り込む時は勿論自分から出かける訳だし、打ち合わせテーブルで部下と話しをする時は「山本さんチョット来てよ」と言った調子である。
この部長が命令する時は、部下と話をしていて、ところで今話していたように、ここにこんな問題が起きているんだよ。そこで山本さん、この問題は私はこうやって解決したらよいのではないかと思って居るが君はどう思うかね、などと意見を求める。部下が意見をのべると、そうかそれでは、こんなことも考えて2週間くらいで君が一つ解決してくれないかな。といった感じである。
名部長の日常は殆ど部下とのコミュニケーションと討議に費やされており、いろいろな問題点や方向性は常に部下と一致している訳である。だから「この件を1週間でやってみてくれ」といえば、命令の内容がそれだけの言葉でシッカリ伝わるのである。
勿論日常のコミュニケーションの中に冒頭にのべた命令が実行されるための他の条文の内容も組み込まれているのである。
命令されたことの周りの色々情報が日常的にコミュニケートされているので、部下は簡単な言葉で命令されるより命令事項を深く正しく理解している。従って命令されたというより「部長から頼まれた」という感じで受け取り、また日常的に知らされている情報があるので自分で命令の意味を理解している。だから頼まれた仕事とは言え自分が自発的に取り組まなくてはと考えるようになっている。
自ら考え自ら取り組む。これで形式的な命令でやる仕事の何倍かの生産性で進められることにもなる。部下の士気が上がり仕事はいい結果を生む。まさに名部長。そしてこの名部長は冒頭に掲げた4項目をシッカリと行っているのである。