2月24日(金)12時、気温0.4℃、晴れ
先日、深夜床に就こうとしてふと二段ベットの脇の船窓のカーテンを引くと、北東の夜空にぼんやりと白い筋がかかっているのに気づきました。雲にしては長すぎると思い、目を凝らすとわずかに緑色を帯び、ゆっくりと動いています。オーロラです。とりあえずシャッターを切りました。

凍った絵画、オーロラ(写真中央)
太陽からの高速の電子やイオンが極地方の磁力線に捕まり大気粒子に衝突、発光する
最近空がどんどん暗くなり、肉眼で見える星の数も20を超え、そろそろオーロラが見えるのではと思って、第一次越冬隊長の西堀栄三郎さんの南極越冬記を読んでいたら本には2月19日の深夜0時45分に初めてオーロラを見たとありました。私が先日オーロラに気付いたとき腕時計は0時49分でした。日付も2月19日。偶然に驚いたというより、少し怖さを感じました。
西堀さんの本がきっかけになったことは他にもあります。本の中で西堀さんは南極の宇宙塵(宇宙から降ってくる非常に細かいちり)の研究をしています。早速私も、プレパラートにワセリンを塗って外に1日くらい放置して、顕微鏡で観察してみると確かに直径数十ミクロンの真球状の粒子が見つかりました。地球落下時に大気圏で溶融するものは真球状になるのです。また南極では塵が少ないため、比較的見つけやすいのです。一方、それが磁性を帯びていた場合、日本では溶鉱炉や溶接で生じる鉄のフューム(固体が蒸発後冷却され凝結、固化した微粒子)の可能性が否定できませんが、南極ではその可能性は極めて低いです。もっとはっきりしたければ、太古の氷である南極の氷山氷を融かした後に残る残渣中に、人為的成因でない宇宙塵を見つけることができるようです。

プレパラートに落下してきた真球状の微粒子
現代の研究によると宇宙塵は1日100t、年間4万tのペースで地球上に均一に降り注いでいると考えられています。数や頻度は桁違いに少ないですが、宇宙からの物質として南極隕石も有名です。別に南極にたくさん隕石が落ちてくるわけではなく、落下して氷に閉じ込められた隕石が氷の流れに乗って移動し、長い時間をかけて貯まりやすいところにたまってくるのです。そうして効率良く回収できるというわけです。残念ながらその場所には私は行けませんでしたので、おとなしく顕微鏡で宇宙塵らしき粒子を愛でています。
さて、人間の見たい、知りたいという欲求は尽きることがありません。この南極に天文台を作って宇宙を見ようという人たちが53次隊にはいます。仙台の人たちです。しらせが接岸を断念して危うく、肝心の望遠鏡が昭和基地まで届かないかという状況でしたが、1月末に滑り込みで物資が到着し、ようやく準備が整ったそうです。計画では来春(11月以降)に内陸のドームふじ観測拠点に望遠鏡を運び、観測を開始する予定です。

昭和基地の一室で来春のドームふじ遠征を待つ赤外線望遠鏡(市川隊員提供)
望遠鏡の命である赤外線カメラ、上の本体同様、-80℃仕様である
ではなぜ南極で、しかも昭和基地から1000㎞も遠く内陸の、富士山ほどの高さのドームふじに天文台を作ろうというのか。遠くの星(昔の星でもあります)をはっきり見たい、そんなとき一番は大気の邪魔のない宇宙空間に望遠鏡を置くことです。しかしこれには打ち上げ時の制約があります。では地表ではどうか。大きなレンズや鏡面で多量の光を受けられる望遠鏡を拵えればよろしい。ただ大気や街灯りが邪魔なので、できるだけ大気の薄い、乱れ(対流による空気の乱れ、かげろうのようなもの)の少ない、余計な光のない、例えば絶海の孤島か、高い山の上が最適です。ハワイ島のマウナケア山頂の「すばる」望遠鏡や南米の高山の「なんてん」などが有名です。しかし大きな装置を人里離れた土地に設置するのは巨額のコストがかかります。また赤外線望遠鏡の場合、外気温が高いと余計な熱(≒赤外線)が観測の邪魔になります。
そこで南極の極寒の高地、ドームふじの出番です。大気が薄く、乱れが少なく、外気温が極めて低く、光害が皆無で、しかも晴天率が高い。極夜期には周極星(北半球でいう北極星)付近の星は消えず沈ます連続観測ができる。赤外線望遠鏡には地上最適の場所です。もちろん世界でも初めての試みです。上手くいけば、また一つ新たな宇宙の姿が描かれることでしょう。
南極の新しい魅力とロマンを育むこの計画。「…とにかく、やってみなはれ…」という西堀さんの声が聞こえてくるようです。
先日、深夜床に就こうとしてふと二段ベットの脇の船窓のカーテンを引くと、北東の夜空にぼんやりと白い筋がかかっているのに気づきました。雲にしては長すぎると思い、目を凝らすとわずかに緑色を帯び、ゆっくりと動いています。オーロラです。とりあえずシャッターを切りました。

凍った絵画、オーロラ(写真中央)
太陽からの高速の電子やイオンが極地方の磁力線に捕まり大気粒子に衝突、発光する
最近空がどんどん暗くなり、肉眼で見える星の数も20を超え、そろそろオーロラが見えるのではと思って、第一次越冬隊長の西堀栄三郎さんの南極越冬記を読んでいたら本には2月19日の深夜0時45分に初めてオーロラを見たとありました。私が先日オーロラに気付いたとき腕時計は0時49分でした。日付も2月19日。偶然に驚いたというより、少し怖さを感じました。
西堀さんの本がきっかけになったことは他にもあります。本の中で西堀さんは南極の宇宙塵(宇宙から降ってくる非常に細かいちり)の研究をしています。早速私も、プレパラートにワセリンを塗って外に1日くらい放置して、顕微鏡で観察してみると確かに直径数十ミクロンの真球状の粒子が見つかりました。地球落下時に大気圏で溶融するものは真球状になるのです。また南極では塵が少ないため、比較的見つけやすいのです。一方、それが磁性を帯びていた場合、日本では溶鉱炉や溶接で生じる鉄のフューム(固体が蒸発後冷却され凝結、固化した微粒子)の可能性が否定できませんが、南極ではその可能性は極めて低いです。もっとはっきりしたければ、太古の氷である南極の氷山氷を融かした後に残る残渣中に、人為的成因でない宇宙塵を見つけることができるようです。

プレパラートに落下してきた真球状の微粒子
現代の研究によると宇宙塵は1日100t、年間4万tのペースで地球上に均一に降り注いでいると考えられています。数や頻度は桁違いに少ないですが、宇宙からの物質として南極隕石も有名です。別に南極にたくさん隕石が落ちてくるわけではなく、落下して氷に閉じ込められた隕石が氷の流れに乗って移動し、長い時間をかけて貯まりやすいところにたまってくるのです。そうして効率良く回収できるというわけです。残念ながらその場所には私は行けませんでしたので、おとなしく顕微鏡で宇宙塵らしき粒子を愛でています。
さて、人間の見たい、知りたいという欲求は尽きることがありません。この南極に天文台を作って宇宙を見ようという人たちが53次隊にはいます。仙台の人たちです。しらせが接岸を断念して危うく、肝心の望遠鏡が昭和基地まで届かないかという状況でしたが、1月末に滑り込みで物資が到着し、ようやく準備が整ったそうです。計画では来春(11月以降)に内陸のドームふじ観測拠点に望遠鏡を運び、観測を開始する予定です。

昭和基地の一室で来春のドームふじ遠征を待つ赤外線望遠鏡(市川隊員提供)

望遠鏡の命である赤外線カメラ、上の本体同様、-80℃仕様である
ではなぜ南極で、しかも昭和基地から1000㎞も遠く内陸の、富士山ほどの高さのドームふじに天文台を作ろうというのか。遠くの星(昔の星でもあります)をはっきり見たい、そんなとき一番は大気の邪魔のない宇宙空間に望遠鏡を置くことです。しかしこれには打ち上げ時の制約があります。では地表ではどうか。大きなレンズや鏡面で多量の光を受けられる望遠鏡を拵えればよろしい。ただ大気や街灯りが邪魔なので、できるだけ大気の薄い、乱れ(対流による空気の乱れ、かげろうのようなもの)の少ない、余計な光のない、例えば絶海の孤島か、高い山の上が最適です。ハワイ島のマウナケア山頂の「すばる」望遠鏡や南米の高山の「なんてん」などが有名です。しかし大きな装置を人里離れた土地に設置するのは巨額のコストがかかります。また赤外線望遠鏡の場合、外気温が高いと余計な熱(≒赤外線)が観測の邪魔になります。
そこで南極の極寒の高地、ドームふじの出番です。大気が薄く、乱れが少なく、外気温が極めて低く、光害が皆無で、しかも晴天率が高い。極夜期には周極星(北半球でいう北極星)付近の星は消えず沈ます連続観測ができる。赤外線望遠鏡には地上最適の場所です。もちろん世界でも初めての試みです。上手くいけば、また一つ新たな宇宙の姿が描かれることでしょう。
南極の新しい魅力とロマンを育むこの計画。「…とにかく、やってみなはれ…」という西堀さんの声が聞こえてくるようです。