将棋雑記

将棋に関する雑感を書き散らしています。

旧パラを検証する209

2024-06-14 21:42:27 | 旧パラ検証
旧パラを検証する209
第十七号(昭和26年10月号)11
大学 担当 土屋 健
(A)奥薗幸雄氏作
作意(三十一手詰)
六五飛右、五四玉、五六香、四三玉、五三香成、三三玉、三二桂成、二三王、三二桂成、同玉、四二成香、二三玉、二四歩、一二玉、A七二飛成、ロ二二桂、同龍、同玉、四四角、二一玉、一三桂、一二玉、B二三歩成、同玉、三三角成、一三玉、一四歩、一二玉、六二飛成、二一玉、一三龍迄
 本作品は風鎚りな曲詰である、曲詰故最初の型が絶対であるのは論ずる余地はない、さりとて詰手順はどうでもよいと言ふのでは無いのだ、追手の連続で最后に駒が余らずに詰となれば詰将棋として存在する価値があると考へるのば誤りである、詰手順に確たる作者の狙ひがなくてはならぬ、本作品の作者の狙ひは現在迄の曲詰の理念を超へ非常に斬新であり、一種の芳香を持っている、詰将棋自身の価値の高低とは別問題であるが新世界を拓こうとする作者の若い情熱には敬意を表する次第である、発表直后某氏の注意により不完全であった事に気付いたが曲詰の為早詰防止の駒を置く事が出来なかった、六五飛左の手は全然見落して居た、地下で北村君が苦笑して居る事だろうが完全検討したつもりであった、不明を嘆ずるも笑止々々、申し訳けない次第である、六六香六五歩同飛左七三王三七角六四歩同角八三王八四歩九三玉九四歩同玉九五飛八四玉八五飛右七四玉七三角成同玉九三飛成七二玉八二龍迄二十一手詰の簡箪な早詰である、(以下略)
★初手66香の早詰以外にも、Aで62飛成でも良かったり、ロ22桂合で変長、B11角成、13玉、23歩成とする迂回手順もあり、明解な作意とは言い難いです。44桂の消去は上手いと思いますが、欠点も多く早詰が無くても厳しい内容だと思います。
(B)黒川一郎氏作
(命名やすり)
67と引、79玉、69馬、同玉、68金、79玉、78金、89玉、88金、99玉、98金、同玉、48龍、同金、97と引、99玉、98金、89玉、88金、79玉、78金、69玉、68金、59玉、58金、同金、同と、同玉、57と引、69玉、68金、59玉、58金、49玉、48金、同玉、38金、59玉、58と、同玉、48金、69玉、68と、同玉、58金、79玉、78と、同玉、68金、89玉、88と、同玉、78金、99玉、98と、同玉、88金、99玉、98金、89玉、88龍(61手詰)
竹中敏雄氏 未だ山田さん程の円熟味はないが、立派に趣向が生きて居る、然し鑢で削り取る感じと言うより、最初金で追いつ戻りつ空想の世界にさまよい、後一枚一枚と金を棄て乍ら28金で追って行くのは空想の世界から次第に現実に返る状態を表現して居る、と金が一つ一つ水の泡沫の様に消えるからだろうか、題して「空想の沫」とは如何に
選者 本題は就床時の選題の為、他の作と誤って出題して仕舞った気付いたのは九月も過ぎてからでパラダイス社の方え取り消しのウナ電を飛ばしたが間に合はず、不己得ず住所の判明している五十七名の解答者の方々を直接訂正の葉書きを出した、勿論19と脱落の為に生じた早詰手順を解答された方も正解と認めた、かかる間違いは病気の為とは申せ申し訳けの言葉に窮する次第である、平に御容赦下さい、さて本題は左方に言葉の如く雲集すると金の配置も面白く、詰手順に至ってはギコギコやすりの音を聞いて頂ければよいのである、作者は詰将棋ロマンチシズムの信仰者と言うより実践者である、毎回述べる如く近代詰将棋に於けるロマンは高く評価す可きであるがそれが詰将棋の総てでは無い、だがお立合い世にも稀なるロマンチストの夢物語り、急ぎの御用の無い方は耳を傾けられい、「詰将棋浪漫派として詰将棋の中にロマン味を盛り込んだ趣向に限り無き愛着と憧憬とを持つ詰将棋マニアが語る長話し、まあ一通りお聞き下されませ、一体小生は小説であれ音楽であれ絵画であれ、凡てこれ浪漫味溢れたるものが好きで何んでも手を出す悪い癖、これは最早病膏盲と申せましょうか、小説なら怪奇ロマン、ポー・ホフマン・スチブンソン・ゴーチェ・HGウエルス・ヴェルヌ・シャミッソー・ドイル等々、怪奇幻想恐怖空想の世界に限りなき魅力を感じ、音楽ではビゼー・サラサーテ・シューマン等魂の底をゆする哀愁味やリズミカルなのが好きで、詩では白秋の邪宗門の持つキリシタン味が魔法がかかって面白く、絵ではビアズレーの黒白の凄じさが厭倒的でこれ皆ロマンの世界、されば俟及の木乃伊の世界に得も云はれぬ執着を覚え、インカの廃墟の宝を夢に見ると云う此の痴れ者の八方趣味が、詰将棋創作と云う阿片を吸ったとたんに、全身しびれ耽溺する始末となりました、浅ましき成駒の虜となり果てた身は同じ詰将棋でも曲詰趣向詰の浪漫が骨の髄まで喜悦させ、ほとほとその幻影抒情に惚込むと云う有様、さあそれからと云うものは明けても暮れても新しい趣向手筋を考える事に没頭しました、趣向こそは詰将棋中の最大の魅力です、同一の運動を繰り返しつつ一つ一つ消えて行く、或は軌跡をたどり同一運動を繰り返す、個々の駒の全知全能を発揮したチームワークによって一つの美しい運動を作る、無限に続くかと思われる明追手の繰り返し、次第に駒が消え去る煙詰、馬や龍の追い廻し、鋸引等々絢爛たる駒の綾なす種々の趣向が方尺の盤上所狭しと乱舞する趣向詰それは一般の妙手説礼賛の創作図式と違い、その一局々々に盛られた趣向こそが只一の生命であり一連の妙手である、此の点を一番理解しないのが某氏である、実際先人未踏の新しい趣向を発見するのは生易しい事ではない、その一つ以上が盛られて居れば立派な趣向詰である、妙手そのものを云々するのは見当違いである、と云っても妙手が長篇になくてもよいと言うのではない、なければ長篇でないと言うのではない、なければ長篇でないと言うのは判るが、趣向に対して個々の妙手を云々するのが間違って居ると思います、その一連の妙手をなぜ妙手と考えられぬのか?不可解であると思います」(以下略、原文のまゝ)これは作者黒川氏より選者に宛てられた便りであるが、黒川氏の詰将棋に対する理念が浮彫りされて居る、この作品を鑑賞するに当たりまず本書簡を読んでから駒を進めて頂き度い、ロマンチシズムの立場より長篇詰将棋を論じて余さず、最後は選者宛の為稍々スポーツ論的にはなったが、ロマンの輪郭を掴んで頂き度い、尚詰将棋に於けるロマンチシズムに最も理解あるのが選者の様な印象を受けるが、実は九月号巻頭の「つるぎ生」その人こそ真のロマンチストである、詰手順二十五手目五八金の處五八とでも三十三手目五八金を五八とでも全然本手順同様の詰である、三十手目六九玉六八金の二手を落し五十九手詰とされた方が数氏あったが現在の規定では残念ながら誤解とせねばならぬ
★趣向に始まり趣向に終る。この作品に感動して、趣向詰に嵌りました。それまで、図巧の趣向詰も見ていたのですが、詰将棋を始めたばかりの私には、複雑な序や収束の付いた趣向詰より、趣向だけを抜き出しそれで完成している本作が輝いて見えました。詰将棋を広めるには本作のように趣向だけで完成している作品が必要だと思っています。歴史に残る傑作だと思います。






湯村光造作品集32

2024-06-08 18:18:48 | 湯村光造作品集
湯村光造作品集32
21飛、22桂、23飛生、15玉、16歩、14玉、25飛成、同玉、22飛成、24飛、17桂、14玉、36馬、同香、26桂、同飛、15歩、同玉、26龍、同玉、23飛、17玉、28金、16玉、27金、15玉、13飛成、14角、16歩、25玉、26歩、34玉、36香、同角、35香、44玉、33龍迄迄37手詰
山田修司氏の大学解説を引用します。
◇湯村氏は現在の作家のうちでは最古参に属する人。フレッシュな短篇を得意とし一頃は多くのファンを魅了したものである。旧パラの第一回看寿賞に入賞(短篇佳作)しているし、近将の塚田賞(第二回短篇)を受賞した実績もある。
また、理論家としても有名で、「打歩詰手筋の諸形態」(玉将29・3)なる名論文をものしているし、パラでは数年前の高校の担当はもとより、変別×論の筆頭として堂々の論陣を張られたことは記憶に新らしい。ここ数年、鳴かず飛ばず、或は引退か?と思われていた氏の再登場は、担当者としても、大いに嬉しい次第である。
春夏秋冬-これは珍らしい作家の登場。22桂合23飛生と「打歩詰の理論家」にふさわしい序奏に23飛の限定打のクライマックスから14角合の収束と、一分の隙もない構成はさすが往年のベテラン作家の貫禄十分。
◇序の21飛打22桂合23飛生…この数手が本局最大の見せ場。初手23飛打に誘われるが、以下15玉、22桂成、14歩合、同飛、同玉、15歩、同玉、13飛生、14角(銀)合、16歩、24玉となって僅かに詰まない。13飛不成、14角合など如何にも作意らしく見える紛れだけに序の数手が光っている。初手21飛打は15玉なら22桂成、14合、15歩、23玉、22圭の意味。玉方22桂合は同飛成なら15玉とかわし14桂の捌きを封じようとする玉方好防である。勿論打歩詰の局面がつきまとうから頭の利く合駒はいけない。
続く攻方23飛不成はこれまた面白い手。22桂合、同飛成と取りたいのをぐっとこらえ中合の目的を不発に終らせようとする好手である。
この辺の攻防は虚々実々といったところ。
桧垣浩男―22桂成を防ぐ22桂合は好手。23飛生以下よく捌ける。うまい作品。
◇23飛生以下は捌きの調子に一転、中盤の見所は23飛の限定打であるが、全般に良く捌ける。不動駒二枚37手詰はこの作の各駒の配置が能率的に組み立てられており、良く推厳されていることを物語っているが序盤の面白さに比べ中終盤は多少冗長の感がないでもないと思う。
芳桂生―序盤は作者として苦心の所であろうが、いきなり着手する為すぐ判ってしまう。後半は23飛打の限定打以外はややくたびれ気味むしろ序に何かを付け加えて導入部以下短篇にまとめるべきではなかったか。
◇同感です。ただ作者としては序盤の想を得た時はこんなに引伸すつもりはなかっただろうとも思います。
おそらく途中入手する桂歩などの持駒を消化する為と余詰防止駒に働らきを持たす様な意味合から手数が伸びてしまったのではないでしょうか。
なお収束角合を見落し二手早く詰めた人二名。
堀隆興―13飛の限定打はよい
松田須璃夫―湯村氏の中合はケイカイ済。詰上りの面白さを買う
松本勝秋―仲々見せ場の多い作品。収束に今少し鋭どさが有るとよいと思います。
南倫夫―寸分のゆるみもない好局。序盤の巧妙さ、中終盤の軽快な、そして鋭どい駒捌きにはため息が出ます。詰上りも意外です。
小西逸生―大学ともなれば別に驚きませんが22桂合は愉しいですね。以下がやや物足りませんがベテラン、カムバックの一作、まずは本校の水準という処でしょう。

◇まずそんな処でしょうか。カムバック第二作が大いに期待されます。

 

    初手21飛はブルータス手筋で、打歩打開させない為22桂と中合します。その交換を入れておけば、23飛生が取れないという寸法です。以下23飛の限定打は上手いと思いますが、山田氏も解説しておられるように、もう少し短く纏めたいところだと思います。ただブルータス手筋に対して中合をしたのはこの作品が初めてと思われ、その意味では記録に残すべき作品と言えるでしょう。

湯村光造作品集31

2024-06-01 21:47:43 | 湯村光造作品集
湯村光造作品集31

16龍、17角、73角、29玉、19角成、同玉、28銀、18玉、17龍、同香成、29角、同玉、69龍、59香成、同龍、38玉、39龍、47玉、49香、イ58玉、48龍、67玉、68龍迄23手詰
※作品集は左右反転し58香が無いので不完全であるので、原図を掲載しました。
 73角と打てれば詰むので、16龍捨てをします。その手に対して28に利かせる駒を合駒しますが、前に利く駒だと、28銀、18玉、17龍、同香に19合が打てて詰むので、角合が最善になります。この手に対して前述の手順では角2枚持っても詰みません。ではどうすれば良いのか?何と28銀とせずに73角、29玉、19角成、同玉と29桂を消去するのが深謀遠慮の手順。29桂を消去すれば29角、同玉、69龍と手を続けることが出来ます。69龍に対して59に何を打っても同龍以下取った駒を打って詰みます。だからといって、38玉では39龍、47玉、37龍で詰みます。ではどう受けるのか?ここでも59香成という移動合をするのが妙手です。前述の手順で、37龍に58玉と逃げるということです。そこで、37龍の代りに49香と打てば58玉、48龍以下詰みます。好手妙坊を織り交ぜた傑作だと思います。ただ今の目で見ると、イ48歩合とすると37龍以下作意と同様に進み25手の変長になります。これが無ければ後世に残る作品になったのではないでしょうか?惜しいです。


旧パラを検証する208

2024-05-29 22:38:28 | 旧パラ検証
旧パラを検証する208
第十七号(昭和26年10月号)10

昭和二十七年新春號発表 第二回百人一局 短篇傑作集作品募集!
かねて予告の通明春新年号を飾る。「第二回百人一局集」の作品募集を致します。規定を熟読の上続々傑作を寄せて下さい。今回は前回と趣向を変え短篇ものに限定しました。種々異論もありましょうが、短篇ものに新分野を開拓するのがネライであります。独創最新の妙作を期待します。
・・・規定・・・
①作品は一人一作に限る。一人にて二作以上投稿のものはその双方共無効とす。異名なるも明に同一人のものと認められるものも同様とす。
②作品は投稿後は原則として修正しない。但し自己に於て不備を発見し自発的に修正を申出た場合はこの限りでない。(本誌作品検討係を利用して予め備えられても差支えなし)
③作品は短篇とし作意詰手順二十五手以内とする。
④応募用紙はハガキに限る。次の事項を必ず記入されたい。
 図面 詰手順 主要変化手順 住所 職業 棋段級 氏名 年令
⑤作品は自己の創作で未発表のものに限る。他誌へ送稿ずみのものは必ず遠慮されたい。
⑥締切 十月十五日迄に到着のものに限る。
⑦宛名 紳棋会内 百人一局係
⑧入選作品の表彰 入選作品の作者には次の賞を贈呈する
▲入選作全部 掲載誌一冊及入賞記念バッヂ一個宛

◇本企画は毎年実施するもので連続三回入選の方には別個の表彰を考慮しており、奮って応募あらん事を祈ります。


 第1回は長手数の作品もあって色々と楽しめましたが、実際は作品数が少なく、一部の方
が別名で入選している場合もあったようです。逆に第2回は作品数が多くて困ったという話を聞いています。
 次に詰将棋学校の作品を紹介します。
★以降が私の註釈

幼稚園 担当 森 利男
稲垣良穂氏作(イ)
正 解
31角、23玉、35桂、24玉、13角成、同金、25金迄7手
☆駒数の少い詰将棋正に幼向と思い選らびましたが難解と言ふ人も可成り有りました。皆様感想如何です。
〇「小西寛」変化がすべて七手で面白くない。簡潔さを買ふ。
〇「中村五郎」手数は短いがなかなか変化もあり本筋が見つからぬと苦労する。
★簡素な図からの手筋物で起承転結の纏まった好作です。
小学校 担当 谷向 奇道
影法師氏作(1)
正 解
82角、92玉、93銀、同桂、91飛、82玉、94桂、83玉、92飛成、94玉、95金迄11手
☆殆ど無仕掛に近い上、持駒の種類が全部違うので非常に紛れの多い圖でした。初手82角と打つのが作者の狙いで、茲82銀としたい所ですが同玉、94桂、83玉、92角、93玉で僅かに詰みません。5手目以下の91飛、94桂、92飛成はいづれも解剖学の時間(第一巻第四號)に講義をした捨駒乙手筋で面白い味があるとは思いませんか。詰上り「ド」の字となります。
☆諸氏の評
飛鳥棋人「初手82角は銀と打ちあやまり易い。心理の逆を衝く好作。詰上り“ド”の字も面白い」
宇野金之助「力及ばず不明、他の問題も今月は難問ばかり、落第かな?」
黒川一郎「角を惜しんで頭痛鉢巻何と捕え所の無い王様と名を見たら成程影法師だったわい」
★影法師は谷向奇道氏のペンネーム。作品は良いと思うのですが、詰め上がり「ド」というのは無理筋だと思う。飛鳥棋人も谷向氏の創作ではないかと思う。普通は10手目同玉と取るに決まっているし、、、。
古関三雄氏作(4)
77角、同金、87桂、96玉、85銀、同桂、94飛、86玉、96飛、同玉、95角成迄11手
☆どうやっても簡単に詰みそうだが84飛が成れぬのと、73角を歩で払われる手があるので仲々捕えられない王様です。初手退路封鎖の77角の遠駒正に絶妙、続く銀飛の捨駒も軽妙で短篇大道棋とも言い得る佳品です。
☆諸氏の評
山田一志「77角打の第一着は苦心の末発見、大道棋に似た味わい深き好作品」
眞保安彦「83飛成トンデモハツプン、96飛オゝグッドキャッチ」
鈴木茂生「73角は何時かは取られる運命だと思っていたが」
★古今短篇詰将棋名作選にも選ばれている好作です。次に、同書の解説を引用します。
解説 門脇芳雄
「初手77角、3手目87桂、5手目の85銀、それから84飛の消去、何れも終始一貫95角成までの詰上り形を作るための構想型詰手順である。
 初手77角は伏線的退路封鎖で、次の87桂(同金なら同飛以下)の味を良くしている。85銀の封鎖から84飛を消去する収束は絶品である。」
中学校 担当 伊藤 吉一
柏川悦夫氏作(B)
22飛成、同玉、32と、イ13玉、25桂、24玉、35金、同歩、13角、25玉、35角成、16玉、17金、15玉、27桂、同飛生、37角、同飛成、27桂、同龍、16歩、同龍、同金、同玉、17飛迄25手
〇32との時同玉と取れば44桂以下角金金桂桂の持
 駒でどう逃げても作意より短い手順で詰む。これ
 は玉方の應手によるものであるから余詰ではなく
変化手順であります。44桂に43玉は32角、53玉、
64金、同玉、28角以下詰みです。御研究下さい。
郡道夫「玉を右邊に追うのが変化なら終盤の手順
は実に見事」
高禁堅「いづれにしても好作」
★この傑作は作品集「駒と人生第27番」にも掲載されており、山田修司氏の解説を引用します。
「32とは大勢の解答者を煙に巻いた手です。この局面では唯一の手掛かりに見えますからね。こういった心理的に指し難い手を作図に採り入れるものが氏の作風の一面です。
 解答者の心理をよくわきまえ、それを作図面で生かす-作者は、自分の構想に溺れ易いので案外難かしいことなのですが-柏川氏はこれが出来る数少ない作家の一人です。氏の作がいつも新鮮さに満ちている一つの所以であると思います。
 本局は32と以下、上部へ玉を追ってからは、氏のもう一つの面、軽快な捌きでのしめくくりです。32とのような狙いは地味な手だけに、一部の好事家には喜ばれても一般受けしない面もあります。
 氏がこのことを意識されて派手な動きの収束を用意されたかどうかはわかりませんが、全体としての収束の鮮やかさで32との主眼手が生きていると思います。」
★32との妙手も見事ですが、以下の纏めも見事です。
金田秀信氏作(C)
21銀、22玉、11銀、同飛、32銀成、同銀、11龍、23玉、14龍、22玉、21飛、同銀、13龍、31玉、33龍、32銀、23桂、21玉、11香成迄19手
選者評
「小品乍らよくまとまった作品流石金田氏らしいピリットした好作」
読者評
河原慶治「さあ読めた朝飯前にしよう」
高橋傳之亟「スラスラ詰んで張合いがない」
★手は限られていますが、11銀と龍筋が効いて居ない時に捨てて11に飛車を誘致してから取るのは面白い。入手した飛車を21飛と捨てて上手く纏めている。
藁谷憲弘氏作(D)
23歩成、同歩、22金、同玉、44馬、12玉、24桂、同歩、23銀、同玉、33角成、14玉、15歩、同玉、26馬、14玉、25金、同歩、15馬上迄19手
選者評
「中学校向としては平易であるが一手一手味うと捨駒に妙味があるので選題した」
読者評
恒川純吉「きれいにまとまっておる」
西口工「型がおかしいが好作」
★簡単な軽い捌きで詰むのですが、詰上がり馬2枚の清涼詰で玉方も歩2枚であり、感じが良い作品。
高等学校 担当 大橋 虚士
平田一夫氏作(A)
14桂、同馬、11角、同玉、14飛、13銀、33角、22香、同角成、同玉、34桂、31玉、42金、同金、同桂成、同玉、43金、31玉、42金打、22玉、32金寄、12玉、24桂、同歩、13飛成、同玉、14銀、12玉、13香、同桂、23銀成、同玉、33金寄、12玉、22金迄35手
諸氏の評
大井美好氏「変化に綾があり合駒のキメの細かさは巧緻な作品と云える」
池澤比呂氏「盲点は11角打也」
説 明
是といって難しい手はないが合駒などを織り入れて巧みにまとめ上げられています。好評でした。 
★詰みそうも無いのですが、14桂~11角で強引に馬を剥がすのが打開策。その後も33角の好手で継続し、最後も良く捌けます。見事です。
山形義雄氏作(C)
77馬、イ44歩、22桂成、同玉、32と、同玉、A31龍、43玉、76馬、54香、35桂、52玉、85馬、62玉、51龍、73玉、71龍、72金、82角、83玉、72龍、同玉、73金、81玉、63馬、92玉、74馬、81玉、72金、同玉、73馬、81玉、91角成、71玉、82馬引、61玉、51銀成迄37手詰
諸氏の評
石井龍児氏「変化44桂合でも良いのが残念であります」
野澤篤氏「67馬の活躍はやや面白いものと思います」
説 明
初手77馬の手段奇抜。終りまで馬の活躍ものすごく力作として諸氏より大好評でした。惜しくも7手目76馬54香上31龍43玉にても同じ手順前後成立のワヅカナキズあり。大道棋型妙作との評もありました。
★初手77馬の妙手です。取ると52香が浮くので、22桂成同玉31銀生11玉22銀同玉52龍と香が取れて詰みます。そこで、44に合駒をします。76馬には54香の移動合以下は馬が躍動して詰みます。イの合駒非限定、Aの手順前後はありますが、先ず先ずといえるでしょう。
檜垣浩男氏作(D)
45馬、同玉、44と、55玉、45金、65玉、64銀成、同玉、63桂成、同玉、81角、62玉、61桂成、同玉、72香成、51玉、62成香、同玉、53と、同玉、54金、62玉、63角成、51玉、43桂、61玉、72香成迄27手詰
諸氏の評
成木清磨氏「形象型としては捌き悪くないが攻方87歩の存在が気になる。」
末永意和夫氏「正しきものも遂に崩るし、えんぎでもない。少しゴタツいていますね」
説 明
曲詰型下辺の駒が殆ど動かないのと87歩の存在が気にかかる。81角から72香成53とに至るまでの手順見事、諸氏の合評を採用して。
★中々よく捌けますが、87歩だけでなく37飛、57龍も不要駒だと思われます。3つも飾り駒があるのは一寸不味いと思います。

湯村光造作品集29

2024-05-03 18:41:03 | 湯村光造作品集
湯村光造作品集29
27飛、57銀、87金、98玉、28飛、68銀打、同飛、同銀生、97金、89玉、99飛、78玉、67銀、69玉、58銀、59玉、79飛、同銀、49金、68玉、67馬迄21手詰
 湯村氏の代表作の一つ。「古今中編詰将棋名作選」第58番に収録されている。小西逸生氏の解説を転用する。
「初手はこの一手とも云える27飛。さあておタチアイ、このピンチを切抜けるマジックが本局の見せ場である。
 28龍はどうあがいた処で持って行かれる運命だとすれば、中合いしか無いのだが、何が一番長生き出来るか・・・をさぐり出すのは駒の種類と場所が絡み合って、些か手間どる。チラチラする眼をこすってジーっと眺めていると何を何処へ中合いされても、87金~28飛で、次の99飛~77馬が浮んで来る。それを防ぐには77へ何かを効かさねばならない。とすれば57銀~68銀の空中梯子しかない・・・という事になる。実質は銀の三段合いである。」
 27飛に57銀中合の応酬がメインで、意味付けは小西氏解説の通りで、本当に見事です。99飛迄は良いのですが、以下は流れます。しかしながら、この少ない駒数でのこの応酬は素晴らしく湯村氏の初期の代表作の一つ。