続いて Number Webのコラムに興味のある記事があったので、載せておきます。
2013年9月18日 16:30 (Number Web) ココ
川島永嗣の絶対政権に挑む者あり。最後方のゲームメーカー、西川周作。
競争なくして、チームに活性なし。
先のグアテマラ戦で、ちょっと驚いた起用があった。アルベルト・ザッケローニがセンターバックに森重真人を先発させたのもそうだが、ゴールキーパーにはいつもの川島永嗣ではなく、西川周作をピッチに送り出したのだ。
何故驚いたかと言えば、川島がいるときに“第2GK”西川の出番がないことが続いていたからだ。西川は、川島が不在だった2012年2月のアイスランド戦で出場して以降、その5日後に行なわれたウズベキスタン戦から今年6月のコンフェデレーションズカップまでの19試合のあいだ、ベンチに座っていた。つまり1年半もの間、代表に呼ばれながらもずっと出場機会が与えられなかった。
同じく常連メンバーの権田修一はさらにその期間が長いと言えるが、彼は昨年、ロンドン五輪代表の正GKとして多くの試合をこなしている。つまり西川は、ザックジャパンのなかで最も我慢を強いられてきたプレーヤーだと言えるのではないだろうか。7月の東アジアカップでは2試合に出場して優勝に貢献し、ここでようやく得たチャンスに奮起しないわけがなかった。
スタジアムがどよめいた、相手の間を通すパス。
西川の最大の魅力は言うまでもなく、足元の技術だ。
格下のグアテマラ相手には守備に回る時間も少ないため、ボールに触れる機会も限られる。しかし、数少ないプレーのなかでも、彼は自分の持ち味を出そうとチャンスをうかがっていた。
そして前半39分、そのときは訪れた。
相手のスルーパスをカバーした吉田麻也からバックパスを受けた西川は、トラップをわざと大きくしてボールを左に流し、前線に残っている相手2人をおびき寄せた。相手2人がチャンスとばかりにプレスに来ると、西川はちょうどその間を通して下がってきた遠藤保仁にパスを渡したのだ。
長居スタジアムにどよめきが起こったのは、西川のプレーが危険に映ったからだろう。しかし西川は、しっかり遠藤とアイコンタクトをしていた。
結果、遠藤に渡ったボールから計10本のパスがつながって相手ゴールまで迫った。左→右→左と揺さぶってから長友が送ったクロス(10本目のパス)は、岡崎の頭を狙った。惜しくもゴールには至らなかったものの、西川の「つなぎ」から始まった攻撃がシュートまで結びついた。
僕のところで2人かいくぐれば、チャンスになる。
後日、西川にこのシーンについて尋ねると、彼はこう振り返った。
「あのパスは狙っていました。(サンフレッチェ)広島でずっとやってきているプレーでもある。僕がつなぐ意識を持ってプレーしているのはみんな分かってくれていることだし、だからこそヤットさん(遠藤)があのタイミングで、(相手2人の)間に入ってくれた。僕のところで相手2人をかいくぐれると、チャンスになると思ったので。
ああやって最後にはクロスまで行くことができたし、自分たちのコーナーキックにすることができた。もしチャンスがあればこういったプレーを出したいと、気持ちのなかで準備していました」
これまで出場機会に恵まれずとも、腐ることなく努力してきた成果が出たワンプレーだと言える。
吉田や遠藤、この日は先発から外れた今野泰幸にも、西川はピッチ内外でコミュニケーションを取り、イメージを共有してきた。
以心伝心は1日で成るものではない。遠藤が西川からパスを受けようとし、吉田、長友がその後のつなぎを意識する。積み上げてきたものが、あの1本のパスに凝縮されていたように思う。
自分がゲームメーカーだという意識。
西川にとって、コンフェデ杯の経験も大きかった。
試合に出たわけではない。ただ、世界を体験できずとも、ベンチからチームを支えるとともに熱い視線をピッチに向けていた。特に印象に残ったのが、ブラジルのゴールマウスを守るジュリオ・セザルのプレーだったという。
「敢えて相手を引き出しておいてからパスを出すそのタイミングであったり、駆け引きを見ることができたのは、かなりプラスになりました。世界のGKは相手にプレッシャーをかけられても、落ち着いていいパスを出せる。そういう意味でも、自分にとってあの大会で(世界の選手を)しっかり見ることができたのは良かった。
広島でもそうですけど、僕は自分がゲームメーカーだという意識を持ってやっています。今、攻撃を早くしていいときか、それとも一旦、落ち着かせたほうがいいときか。それはGKのところでコントロールできる部分もあるし、前の選手に向けたメッセージにもなると思うんです」
川島の政権は、もはや盤石ではない。
グアテマラ戦でも、チームはいいリズムを持って戦っていたため、試合中に何度かあったバックパスに対してワンタッチで速いパスを返していた。
「今の感じでいけば点が獲れる」というメッセージを送るように。控えの立場ながら積み上げてきた経験と、世界を見て学んだことをマッチさせながら、持てる力を最大限に発揮しようとした。それは同時に、いいアピールになったのではないだろうか。
現在、ザックジャパンの正GKには川島が君臨している。
彼は大舞台に強く、一発のビッグセーブでチームを奮い立たせることができる。海外の屈強な相手とも張り合える強さもある。しかし、西川や権田がレベルを上げてきている現状、GKのポジションは川島の絶対政権ではなくなってきたようにも感じる。
今は代表から離れてしまったが、川口能活、楢崎正剛の2人は切磋琢磨しながら長らく激しいポジション争いを続けてきた。イビチャ・オシム監督時代に初選出され、その戦いを肌で感じながら揉まれてきた川島が、南アフリカW杯直前になって正GKの座を得たことは誰もが知るところだ。それもこれも、ベテランGK2人を中心にしたいい生存競争があったからこそ。一方、西川には岡田ジャパンに呼ばれながら、生き残れなかった悔しさもある。そんな思いも秘めた西川がチャンスをモノにして台頭してきたことは、無風に近かった川島にプレッシャーを与える意味でも大きい。
相手が強豪になればなるほど、GKの足元は重要になる。
GKから攻撃の流れを生み出す。
相手が強豪になればなるほど、日本のボール保持率は少なくなる。そうなるとGKがボールを持つ時間もより貴重になってくる。正確にロングボールで前に送ることも大事だが、グアテマラ戦で西川が見せたように、最後方で相手を外しながら「始点」のパスを出せる西川の存在感はさらに増してくるはずだ。
「自分が頑張り続けていれば、ザッケローニ監督もきっと見てくれると思う。まずは広島でしっかりと今、取り組んでいること、やっていることを続けていきたい」
3つ年上の川島をリスペクトしながらも、ピッチの上ではライバルであることは間違いない。
川島は27歳で南アフリカW杯を迎えた。そして西川も来年、27歳でブラジルW杯を迎える。GKのポジション争いが今後、苛烈になってくることは間違いない。そしてその争いは、ブラジルW杯の日本の戦いに直結してくるのではないだろうか。
(二宮寿朗 = 文)
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