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荻伏共同育成場日誌

北海道浦河町にある競走馬育成牧場・荻伏共同育成場の場長が日々の風景をお届けする徒然日誌。

HBAトレーニングセール2016の考察

2016-05-25 17:40:31 | 仕事
 昨日札幌競馬場にて「HBAトレーニングセール」が行われました。当育成場からの上場馬はなく通常業務もあるため見に行くこともできず、今YOUTUBEでようやく第2クルーまで公開調教を見終わったところです。全部見てから考察を書こうかとも思いましたがタイムリーではなくなってしまうので今日書くことにしました。

「馬市ドットコム」さんの結果レポートを引用させていただくと、売却率、売却総額、平均価格ともに昨年を上回っています。但し中間価格は昨年と同じ。ということは一部の馬が平均価格を押し上げたことになり、取引結果を見ても高額馬とそうでない馬の差がはっきり出ており、平均価格に近い馬が少なかったような印象を受けます。
 第2クルーまでしか見ていない公開調教ですが、以前と比較しますと2ハロン揃えてくる育成場が増えているという印象。一昔前はラスト1ハロンだけ時計を狙うような育成場も多かった気がしますが、今ではほとんど見受けられません。

 最高価格は追分ファーム生産、追分リリーバレー育成の「サルヴァドール14」(牝 父ルーラーシップ)の4600万円。2ハロン21.83という2ハロンの最高時計をマーク。写真だけでコメントするのも何なのですが、ルーラーシップ産駒らしい筋肉質な馬体でパワフルな印象ですが、公開調教をみる限り重心が低く芝の方が良いのではないかと思わせる脚捌きでした。

 明日は過去のトレーニングセールについて紐解いてみたいと思います。

 同業者やこの仕事に興味のある方はコメントくださいね。

レッドディザイアを襲った腹膜炎とは

2016-05-22 05:37:07 | 仕事
 分娩(お産)後、母馬が疝痛に襲われることは少なくありません。

 うちの獣医の話では、分娩後の腹膜炎は

子宮穿孔:子宮が破れたり穴が開いたりすること。

が主な原因と言われ、

他にも、分娩時に小結腸につながる腸間膜が小結腸から引き剥がされ栄養が滞った小結腸が壊死する小結腸壊死膀胱破裂盲腸破裂などが原因と言われ、いずれにしても難産後が多く、原因となる部位の整復手術が不可能な場合予後は不良とのことです。

個人的には新馬戦と『エルフィンS』の豪快な差し脚が最も印象的だったレッドディザイア。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

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【コラム】育成場のイノベーション vol.1

2016-05-20 05:08:24 | 仕事
 当育成場の出身馬でゴールドジャパン(同馬名の馬がいますが父ミホシンザンの方)という馬がいました。未勝利勝ち上がりは3歳(旧4歳)の11月18日。未勝利戦がなくなる最終週でした。その後オープンまで出世し、8歳時には『マーチS(G3)』で3着に入るまでになっています。9歳まで走り57戦6勝、1億2000万円近く稼ぎ出しました。

 あれから11年。競馬を取り巻く環境は大きく変わり、2001年には年齢表記の変更とともに一開催分3歳未勝利がなくなる時期が早くなり、2年後の2003年には更に一開催分3歳未勝利が早くなくなり現行に至っています。2012年からは新馬戦が『東京優駿』翌週からはじまり競馬システム全体が早くなる傾向になっています。

 競馬開催システムの変更は育成システムのイノベーションを余儀なくされています。入厩(育成場にとっては退厩)時期の早期変更はもちろんのこと、現在では北海道の育成場から直接トレセンという傾向は少なくなり、間にトレセン近郊の育成場を挟むケースが増えています。これは競馬に使える馬を厩舎に入れ、すぐには使えそうにない馬はトレセン近郊の育成場で調整させるいわゆる外厩の様なシステムが確立したことにより、トレセン近郊の育成場が増加。夏場の北海道から本州への移動は急激な温度・湿度の変化に伴う馬の体調不良を引き起こすリスクが高いことから以前から避けられており、トレセン近郊の育成場が増加したことで暑くなる前に本州へ移動させる馬がかなりの割合を占めます。私たち北海道の育成場はこうした育成システムのイノベーションに対応すべく育成場自体のイノベーションを余儀なくされています。

(続く)

育成場のお仕事~馬房清掃~

2015-06-26 08:56:17 | 仕事
 育成場のお仕事というとどうしても騎乗運動だけに目が行ってしまいますが、その裏でそれを支える人たちも必要となってきます。騎乗員が調教をつけている間に騎乗員以外の人たちは馬房清掃とウォーキングマシンの入れ替えを行います。

 まずは馬房清掃についてみていきましょう。馬房清掃は文字通り馬の部屋である馬房をきれいにしてあげることです。馬房には敷料として大別して藁とチップの2種類が使われます。
 まず藁は最もメジャーなのが麦稈(ばっかん)とよばれる文字通り麦の茎を使った藁で水の浸透性が良く柔らかいので使いやすく、使用している生産牧場では干して再利用するところがほとんどです。いいところばかりのようですが、干して使わない育成場にとってみればコストパフォーマンスが悪く、藁は食べられないことはないので、食いが良い馬は食べて消化器系に負担をかけることになります。
 今ではあまり見られませんが稲藁を使用するところもありますが、硬くて食べないのは良いのですが、硬すぎるために馬房内で馬が暴れたりすると簡単にめくれ上がってしまいます。育成場の多くは下が舗装されており滑りやすいので、めくれ上がってしまうと危険なこともあります。
 生産牧場と育成牧場を複合経営する牧場では、コストが安くなる牧草を使う育成場もあります。麦稈以上に食べてしまうため体重管理が難しくなります。

 チップにもいろいろ種類はありますが最も多く使われているのはウッドチップです。よほどの馬でなければ食べることがないので体重管理がしやすく、後で出てくるチップ類に比べると埃がたちづらいというのも良い点です。しかし、きれいにしようと思うとコストパフォーマンスが悪く、コスト削減しようとすると馬房が汚くなるジレンマがあります。
 コストパフォーマンスという点ではおが屑は素晴らしいものがあります。しかし如何せん埃がかなりたち呼吸器系に悪いほか、蹄にある溝(蹄叉側溝)などに詰まりやすく蹄を乾燥させたり、おが屑が汚い場合は腐爛(ふらん)させたりもしてしまうのです。
 エコリットと呼ばれる麻繊維を細かく裁断した敷料はおが屑のような埃もたたないのですが、コストが高くおが屑同様蹄に詰まりやすいので注意が必要です。

どちらを使うにしてもやることはきれいにするということ。汚い部分と綺麗な部分を分け汚い部分を排除し、排除した分量の敷料を入れるという単純な作業です。単純な作業ですが、人によってきれい汚いがあることはもちろん、敷料を過剰に捨てたりなど単純な能力差から、次にどの馬房をやった方が効率がいいかという判断能力を求められる作業でもあります。


馬房清掃は馬に携わる人にとって基本となるお仕事です。

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育成場のお仕事~騎乗運動~

2015-06-24 06:59:59 | 仕事
 育成場においてメインの仕事と言えば、馬に乗って調教をつけることです。以前にもお話しした通り、育成場もその特性によってかなり細分化されるようになり、騎乗馴致から基礎体力強化を主体としている育成場、基礎体力強化から競馬場と同じ程度速い時計を出す育成場、競馬場近郊に位置し外厩のような役割すなわち出走させるということ以外は競馬場と同じような仕事をする育成場、そしてこれらを総合的に行う育成場まで千差万別です。私たちの育成場は一番はじめの馴致から基礎体力強化を行う牧場ですが、基礎体力強化と言ってもハロン17~8秒の時計で走るところまでは持っていく必要がありますし、要請があれば15-15までだすこともあります。
 このような形態の牧場なので、この時期になると近郊にあるトレセンなみの施設を持つBTCで調教を行う提携牧場へ移動したり、トレセンへ入るための最終段階を仕上げてもらうために本州の育成場へ移動したり、地方競馬ならば直接競馬場へ入厩したりしております。今残っている馬たちは、単純に成長が遅い馬でじっくり調教を積まれている馬、馬房調整がつかず入厩できない馬、故障して戻ってきた馬、そして休養馬が残っています。騎乗可能馬以外では、すでに1歳馬も入ってきており、昼夜放牧がおこなわれております。

 この時期の調教は進んでいる馬と、故障明けで慎重に進められている馬の差がはっきりしており、今日のメニューで行くと進んでいる馬はハロン18秒のキャンター(駆歩)を3200m行いますが、故障明けで慎重に立ち上げられている馬はダグ運動(速歩)のみです。これらのメニューは当日の状態や今までの経過、それに騎乗者や同じメニューの調教馬など様々な面を勘案し決められていきます。
そうしてきめられたメニューがこちら

水色はダグ運動のみ、黄色はキャンターを行う馬、馬割り下の爛は騎乗休止馬で、今日1頭退厩、3頭はウォーキングマシンでの運動のみ。下の欄はウォーキングマシンに入れる順番で、1鞍目などはダグ運動のみでも故障しているわけではなく昨日この仔たちにとって速い時計で走ったので今日は軽くしております。

 このような日々の積み重ねで基礎体力を強化し、競馬場での調教に耐えうる体作りをしているのです。騎乗運動は騎乗者にとって大変でもあり危険でもありますが、同時にとても楽しいものです。特に自分の乗った馬の中から大きなレースを勝つような馬が出たり、乗っている馬の走りが素晴らしかったりすると、それだけでテンションが上がります。それは騎乗者だけが味わえる特権であり、騎乗したものしかわからない感覚なのです。そんな経験がしてみたいやる気のある方がいらっしゃったら、うちはいつでも門戸を開いていますよ。最終決定は社長ですが。



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