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“ 嵐が吹き消した 恵みのろうそくを 再び取り上げ、それに新しい明かりを灯さなければならぬ。” 教皇ヨハネ二十三世

file.no-68 『日野原重明の生き方哲学』

2007-02-03 22:36:36 | 書籍
  
「医学は結局は全敗してしまうということです。
医師が助けられたと思った患者も、必ずその次には死が待っており、その患者を助け通した人は一人もいないということです。」

上は、日野原重明という老医師の著書からの引用です。
聖路加国際病院という病院で理事長、名誉院長を務めてらっしゃる御歳90歳を超えていまなお一線で活躍されているお医者さんです。
日野原さんは、カトリックであり、戦中、戦後の大変な時期を生き抜いてきた方だけあり、その人生哲学にも感銘するものが大変ございます。今回は、著書を一冊レヴュー。

 『日野原重明の生き方哲学』
 日野原重明 PHP文庫 2006年


医者は、どういう姿勢で患者に、病に向かうべきか。患者もまた、いかに医者に、病に、そして死に向かうべきなのか。
ご自身が学ばれた「生き方、病み方、そしていつか訪れる死に方をもって、読者の人生航路に何がしかの示唆を提供できれば、非常にうれしく思います」…と前書きに書かれています。

生き方そのものを「病んでいる」人は、いまなお多いと私は考えます。
自身で、生きる指針を打ち出せず、占いや心霊相談に頼る人々のなんと多いことか。年が変わり、少しは流れが変わるかと思っていましたが、相変わらずブームとなっているようです。
人はいつか死ぬ。とはいえ、死んだ人間は現世になんら影響を及ぼさない。墓石など、星の動きを祀っただけでは、人間はどうにもなりはしない。
私が思うに、こんな風潮が強いのは、「死」をみつめる人が少なくなっているからではないだろうか。目の前で、人が死んでいく様をみつめないから、軽々しく霊だの星だの口にするのではないか。
霊で救われるという彼らは、その目で多くの人の死をみているか。
医療に携わる人々を見てください。彼らが、霊だの星だの口にしているか。
毎日、目の前で人が死んでいく。命が消えていく。患者の末期のうめき。遺族の悲しみ。
それらを目の当たりにしても、彼らは救いを霊になど求めない。
不甲斐ない自分達に憤激し、悲嘆こそしても、立ち上がる、奮起するのです。万一、人間以外の存在に対する時には、彼らは重々しく処する。
著書の中で、日野原さんもこう言っています。「健全な宗教が日本に根付いてほしい」と。健全な宗教とは何か。それは仏教であり、キリスト教であり、その他の宗教である。本質的には、誠実な宗教を指すのではないでしょうか。

『医学は結局は全敗してしまうということです。
医師が助けられたと思った患者も、必ずその次には死が待っており、その患者を助け通した人は一人もいないということです。』

作中の、この一節を読んだ時、私はじわっと涙が浮かぶのを感じたものです。人が死ぬことは、どんな手立てをもっても避けられない。私は、母を亡くし、祖父、伯父、伯母の良人、友人と多くの人を亡くしました。私は変な宗教には走りませんでしたが、日野原さんの本には走ってしまいそうです。
上の一節には、医師としての日野原さんの誠実さが込められています。助けられたと思った患者でも、必ず死が訪れる、と。医学は敗れる。だからこそ、患者には生甲斐をもって日々生きてほしい、と願う。

生き、老い、病み、そして死ぬ。この四苦は人間なら当たり前。人間は、老いと死に向かって歩いていく。
老いをできるだけ抑え、病を患うことをできるだけ避け、医者にそれを手伝ってもらう。その中で、自然と生き方については自分で考えるのです。迫る死に対して、人生の中でどのように自分が処していくべきか、を。
医学は万能ではない。罹患した人を治しても、次の瞬間には事故で死ぬかもしれない。病気が再発して死ぬかもしれない。再発したものは、もう治療できないかもしれない。
命には、限りがある。医学は結局は「全敗」してしまう。勝てぬのです。
ならばこそ、患者には「生き方」を考えてほしい。日野原さんは、そう言っている。
目の前で、多くの患者が死んだ。末期に、「死にたくない」と叫んだ患者を多くみてきた。患者に何を為すでもない医者を多くみてきた。
そんな日野原さんならではの、悔いの残らないための生き方の提言。日本で生活する人たちへの生き方の提言。
なんと重みのある一冊か。
それは、まさしく、「よく生き、よく老い、よく病み、よく死ぬ」ことへの願いです。
 
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