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“ 嵐が吹き消した 恵みのろうそくを 再び取り上げ、それに新しい明かりを灯さなければならぬ。” 教皇ヨハネ二十三世

file.no-59 『大長今』

2006-11-09 23:08:05 | ドラマ
    
 曾子言曰、鳥之将死、其鳴也哀、人之将死、其言也善。
(曾子言ひて曰く、鳥の将に死せんとするとき、其の鳴くや哀し。
 人の将に死せんとするとき、其の言や善しと。)

NHK総合で放送中の韓国ドラマ『宮廷女官 チャングムの誓い』(原題:大長今)は、今月の18日土曜日の放送でもって全54話のエピソードを終了します。
私も、先月放送されたエピソード(第51話『医術の心』)を観て、ハマリました。
以前から、たまに観ていたのですが、第51話で主人公チャングムが、天然痘の治療を行なうシーンや、彼女の姿に胸打たれた宮廷の医局長の台詞などにたいへん感動して「ハマッた」のです。
その台詞は、うろ覚えですが、以下のようなものでした。

“医療とは仁術です。
 チャングムの医療は、母の愛そのものです。
 我が子を救うために自らを投げ出す母の愛そのものでございます。子が病にかからぬよう予防に努める母の姿であり、子を治すために希望を呼び起こす母の姿でございます。”


天然痘患者を、我が身を省みず治療に当たったチャングムを深く賞賛する台詞に、私は感動したのです。今の医者に比べて、チャングムや医局長の姿は、まことに正道にあるものと感じました。

さて、ハマッた私は、DVDを借りてドラマを最終話まで観てみました。いや、実に、感動しました。
第52話で、チャングムの医術と人格に感銘を受けた王・中宗は彼女を好きになる。王に、打算なく、一人の患者として接してくれる彼女に心を開いたのです。
だが、彼女には、ミン・ジョンホという相思相愛の男がいる。中宗は、彼とチャングムをめぐって、ちょっとした争いをするのです。そのあたりは省きます。
さて、チャングムを王の主治医とするのですが、男尊女卑の韓国では、これに反対する重臣が騒ぎを起す。ミン・ジョンホは、彼女の為に、その騒ぎの責任を引き受け、流罪となる。
王に、「チャングムに医術をやらせてやってほしい」と告げ、チャングムのそばを離れようとする。王は、愛しい女の為に自己を犠牲にする彼に、感じいったようでした。

やがて、病を発し、末期となった時、中宗はチャングムが手術を勧めるのを断り、こう言います。(最終話『我が道』より)
「王とて、歳月には勝てぬ。 長い、道のりであった・・・」
チャングムが、病は医者が治すものではない、と言ったのを受け、王は続けます。
「病人が治すもの、だな。耳にたこが出来るほど聞かされたの。その言葉が耳に響き、一人で体操をした夜もあった・・・。
なかなか、いい患者であろう? 感心であろう?」

彼は、病み疲れた顔に微笑を浮かべ、一筋の涙をこぼす。
微笑を浮かべたまま、流した涙をぬぐうこともせず、チャングムに続ける。
「恐れも、寂しさも、悲しみも多い年月であった・・・。
だが、そちがいてくれて、多くのことに耐えることができた。
そちは優れた医者であり、いとしいおなごでもあった・・・」


チャングムが泣き、観ていた私も泣きました。

王を死なせる責任によって、主治医であるチャングムは死刑にされる。彼女を救うために、中宗は、最後の命を下して、彼女を宮中から連れ出させる。彼女の愛するミン・ジョンホのところへ送ったのだ。
連れ出させることに成功したとの知らせを受けた中宗は、
「戻ると言い張りそうで、心配だな・・・」
そう言い、微笑み、涙をすうっと流す。

もう、泣きまくりです。ドラマの人物も、私も。

ドラマ『チャングム』は、感動するシーンが多く、すばらしいドラマです。
私が最も心動かされたのは、中宗とチャングムのこのやりとりです。
中宗のこれらの言葉は、まさしく『九天の孤独』のなせるものではないかと思いました。
王や皇帝の御位にある者は、それと引き換えに、多くの苦しみを背負う。権力の毒、といってもよい。一生を振り返り、「恐れも、寂しさも、悲しみも多い年月であった・・・」と言ったのも、まったくそのとおりだったのでしょう。
そばにいてくれたチャングムへの感謝の思い。
「お前がいてくれたから、私は今まで頑張れた」と死に際して言う。これに涙しない、女はいないのではないでしょうか。
チャングムに別れを告げ、愛する男の下へと行かせる。これに中宗の「男」を感じない、女はいないのではないでしょうか。

「人の将に死せんとするとき、其の言や善し」
ドラマ『チャングム』は、人の別れ、死に際というものを、実に人間の情愛豊かに表現した名作であると、私は思います。


追記 file.no-41でも、小説『チャングム三部作』を扱っておりますので、よろしければ御覧ください。ドラマ『大長今』とは一味違うチャングムが、小説では楽しめます。
http://blog.goo.ne.jp/oeilvert2005/e/02e30ae8b942475b750ab3637e981131
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