N氏提供
もう何年前になるのだろう。
2年生は修学旅行へ行っていた。
しかし、毎年、どの学年にも参加できない生徒たちがいる。
彼らはその期間中、毎日図書館へ登校することになっている。
自習課題に取り組む人、終えて本を読む人、くすくすと笑い声も・・・
そこには不思議と穏やかな空気が漂っている。
N君もその中のひとりだった。
「先生、僕が撮った写真見てくれませんか」
君の声、授業中は、ほとんど聞いたことがなかったよ。
差し出された小さなアルバム。
空、雲、影、猫、自転車・・・
物言わぬ対象物の中に、かすかにN君の声がした。
「素敵だね」
その中に図書館を写した数枚の写真があった。
ふだん見慣れた書架の本が、まるで風格ある古書のように
図書館を守っているN先生手作りの小物たちも
まるでアンティークのような佇まいで
そこに収まっていた。
「この写真、図書館に飾ってもいい?」
それ以来、N君の写真は、図書館からも飛び出して
文化祭展示、校長室前廊下の写真部常設展示へと
どんどん居場所を広げていった。
あれから数年、N君は今、
本校卒業生K氏の写真館で働いている。
学校行事ごとに、卒業アルバム用の写真撮影に同行して
カメラマンとしてやって来る。
人っ子ひとり写っていなかった、あの頃の君の写真。
今は、野崎高校生たちのはじけるような笑顔が写っているね。
N氏2
N氏提供