「人間の命?」
「そうよ。」
「所が、浅川はお前達をどだい人間だなんて思っていないよ」
こんなくだりもその一つかもしれない。若者同士を市場競争原理主義で蹴落としあう社会、人を人扱いしない今そっくりだ、と。
漁夫たちのやむにやまれず立ち上がったストライキも駆逐艦に鎮圧されるが、
「本当のこと云えば、そんな先きの成算なんて、どうでもいいんだ。―死ぬか生きるか、だからな。」
「ん、もう一回だ!」
そして、彼らは、立ち上がった。―もう一度!
このラストシーンも、「抑えつけられたまんま黙ってたらアカン。勝てるかどうかより、たたかわねば」という、切羽詰まったものが沸きつつあるのかもしれない。“長いものには巻かれろ”という、この国の美徳ともされてきた「従順」は自分の命をちじめるだけと若者たちが悟り始めたのかもしれない。だとすれば、未来は明るい。
この国の労働者はあまりにもバラバラだ。この小説そのものは、どちらかというと荒削りで個人を描いてはいない。特別の主人公は存在しない。「みんなが主人公」とでもいう描き方しかしていないが、労働者が強固な闘う組織をもち、そこに「個」も活躍しみんなの「連帯」の協奏曲となるとき、時代は大きな地響きを起こすのかもしれない。
蟹の来るところに斧を置く厨 誓子
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