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戦前の吉原

2007-03-23 00:37:32 | 江戸由縁東京旧聞
悪所通いといえば遊里へ行くことですが、数ある遊里の中では吉原が
何と言ってもその代表です。唯一の幕府官許です。江戸時代の吉原につ
いてはいろいろな資料が残っていて数も多く迷うほどです。ところが、
昭和の早い時期について、その内側から見た吉原について書かれたもの
は意外と少ないことに気が付きました。

文豪や小説家、歌舞伎役者たちが吉原についていかに細かく語ってい
ても所詮は外側の人間、吉原の中の日常については知りえないものです。
そこで、まだまだ古きよき吉原を過ごして来た、「ナカ」からの執筆者を探
してみました。

昭和の時代に、と言っても戦前のことになりますが、吉原の引手茶屋
「松葉屋」の女将をしていたひとで福田利子さんとおっしゃる方がいます。
この方は大正9年の生まれで、後になって「松葉屋」の養女になったの
ですが、昭和13年に第一東京私立女学校を卒業後、引手茶屋の女将と
して仕込まれて、最後には料亭となった「松葉屋」を継ぎました。

明治の雰囲気や独特のしきたりをまだ残している吉原の習慣を守りながら、
たしかな観察力によって吉原の仕組みや現実的な生活感を浮き立たせ、生
き生きとした臨場感を持って書き上げた「吉原はこんな所でございました。」
は経営者でなければ知りえない事実を書いたもので、その意味では珍しい
本と言ってもよいでしょう。

作家の久保田万太郎等の支援を受けて花魁道中を復活。反対する市川房
江らと対立しながらも、最後は外国まで行き花魁道中を披露させた女性で、
少女のときから吉原を見つめ続け昭和33年の吉原終焉のときまでかかわ
り,昭和、ことに華やかだった戦前から戦後の吉原を語るのには欠かせない
ひとです。

江戸の昔のしきたりがそのまま残されていたり、芝居で見るような光景が
あったり、とそれらを実際に目の前にして生活してきた著者の本は、昭和
の吉原、特に廓文化や当時の風俗を知る上で、歴史的な観点から見ても
大変貴重な資料です。

その著書「吉原はこんな所でございました。」から興味のあるところ
を引用させて頂きます。

茶屋への払い

「今は何事につけても気ぜわしく、普通玉代なども時間ごとに計算さ
れるようになっているのでございますが、そのころの玉代単位は半日
が区切りになっていましたので、時間ごとに計算されるといった、そ
んなせかせかしたものではありませんでした。ただ、花魁の水揚料だ
けは時間で区切られていたのです。

私は毎日学校から帰ると、水揚帳をもって、角海老さんとか大文字楼
さんなどの大見世に持って行き、どの花魁が何時間どなたのお相手を
したかを、内所で書いてもらい、それを仲之町通りと角町の角にある
会所へ持って行くのでした。

会所には引手茶屋の旦那方が交代で事務に当たっていまして、その日
その日の大見世の水揚料や、芸者、幇間の玉代、飲食費などを台帳に
記入していました。

引手茶屋のお客さんは、皆さんお馴染みの方ばかりでしたので、支払い
は半年勘定になっていました。1月から6月までの分を12月に払って
いただくんです。たまに、半年払いでなく、1月ごとに支払って下さる
方もありましたが、現金払いという例は全くございませんでした。
現金払いというのは、信用がないということになるからだそうです。

金額は、私が憶えている範囲では、飲食代は別にして、貸し座敷が
2時間から3時間で6円、一晩泊まると12円だったと思います。
芸者への玉代は5円60銭で、そのうち1円60銭を見番に納めて
いました。ですから貸し座敷へ行って、お客さまは花魁の水揚げ料と
芸者の玉代に飲食費などが加算されるわけです。
大学出の初任給が45円から50円の時代に、1晩30円から50円
かかり、しかも馴染みでたびたび見えたり、お仲間を連れて来て下さった
のですから、まさにお大尽の遊びでございました。」


すごい時代だったんですね。びっくりします。まるで江戸時代の大大名
が湯水のごとく散財をしたようで、時代が変わってもこういうところで
気前よくパッと大金を使ってしまう経済力には驚かされます。

因みに、昭和29年に上京した作家の吉井勇を囲んだ会があり、その折
の参加者は、この女将の福田利子に、日本橋船佐の夫妻、久保田万太郎、
桂文楽、駒方どぜうの夫妻、桂三木助、柳家こさん、幇間の桜川忠七や
売れっ子の芸者さん達と凄い面々が勢ぞろい。当時の隆盛を物語っていま
す。

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