マスコミではほとんど取り上げられていませんが、今国会では、この国の行方を左右しかねない重要な法案が審議入りしています。「共謀罪」の新設を盛り込んだ「犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」です。
「共謀罪」というのは、死刑または無期もしくは4年以上の懲役・禁固の刑が定められている「罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者」を処罰するものです。
これでは何のことかさっぱり分からないかもしれませんが、簡単にいってしまえば、罪を犯さなくても、話し合っただけで処罰されるというものです。
対象となる犯罪は、557もあります。4年以上の懲役というと、たいそうなことをしでかしたように感じますが、実際はコンビニでの万引きや、けんかで相手を殴ることも10年以下の懲役ですから、当然対象犯罪になります。相談しただけで処罰の対象となるので、権力側がその気になれば、例えば公害被害者団体などが企業に対する抗議行動を計画しただけで「組織的な威力業務妨害共謀罪」とされるおそれがあります。
共産党系の弁護士団体である自由法曹団のホームページでは次のような事例を紹介していました。
【その1 マンション建設反対運動】
ある町で緑の多い傾斜地を開発して地下4階地上3階の地下室マンションを建築する計画がもちあがりました。近隣は、高さ10メートルまでの住宅地域です。突然の計画発表に対し、住民の中に反対運動が広がりました。
一方、建築業者は、安全・安心街づくり条例に基づいて建築するマンションの防犯設備について所轄警察署に設計図を提出して相談しました。警察は、マンションの出入り口と四方に防犯カメラの設置を指導しました。
住民の反対運動にもかかわらず地下室マンション建築計画は進行し、工事着工予定が示されました。話し合いを拒否された住民と、建築を強行しようとする業者との間で対立は激化しました。住民は、反対運動の方法を相談しました。建築資材の搬入を阻止する実力行使も検討しました。業者から防犯設備について相談を受けていた警察は、住民の反対運動に注目していました。このため、住民の中にその動向を警察に通報してくれる協力者を作って情報を収集していました。
業者の資材搬入日が決まると住民らは、相談して、大量動員してピケットをはり、資材搬入を実力阻止することを決めました。これが住民の中の協力者によって警察に伝えられました。
資材搬入の当日早朝、住民がピケのために家を出ようとしたとき、全員が組織的威力業務妨害共謀罪で逮捕され、反対運動は挫折しました。そして、地下室マンションは、業者の計画通りに建築されました。
【その2 労働運動】
ある会社では、リストラの一環として一つの工場を廃止して、別の遠方の工場へ縮小統合することになり、一部の労働者の配転と残りの労働者の解雇を決めて労働者の選別に入りました。
会社の一方的なリストラによる配転と解雇に反対して、労働組合は、他の労働者・労働組合の支援も受け、争議行為に入りました。こうした労働者の動きを警戒した会社は、密かに組合事務所に盗聴器をとりつけました。
団体交渉では、社長が出席しないことから交渉が進展せず、解決の道はなかなか見いだせませんでした。労働組合は、進展しない交渉の打開を図るため、社長の出席を強く求めたところ、ようやく社長の出席が決まりました。そこで労働組合の執行部は、社長が出席した団体交渉では、組合員を待機させ、長時間になろうとも交渉の目途がつくまで社長の退席を認めず、団体交渉を継続することを意思確認して団体交渉に臨むことを決めました。
会社の勤労担当は組合事務所での会話を盗聴することによって、この動きを知りました。そこで、日頃から防犯協会等でつきあいのある所轄警察署に相談しました。
警察は、組織的に社長を監禁することを共謀しているとして、組合執行部の役員を組織的監禁共謀罪で逮捕しました。
執行部が逮捕された労働組合では闘うことはできず、会社の提案をそのまま受け入れざるを得ませんでした。
「そんな大げさな」と思うかもしれません。
しかし、警察が組織をあげてその気になれば、どんなことでも罪に仕立て上げます。
立川反戦ビラ事件をご存知でしょうか。東京・立川の自衛隊官舎の郵便受けに、自衛隊のイラク派兵反対を訴えるビラを配っただけの市民運動家ら3人が、住居侵入罪で逮捕、起訴されました。
立川事件の裁判で、弁護側証人として出廷した龍谷大の山内敏弘教授は、自宅のマンションに自衛隊員募集のビラが入っていたことを引き合いに出し、自衛隊もビラの投函をしているのに、反戦ビラだけを告訴するのはおかしいと証言しました。ルモンド紙東京駐在記者は「間違いなく民主主義国家である日本は、平和的手段による異なった意見の表明の権利という自由社会の特徴の一つを失いつつあるのだろうか?」と批判しました。
葛飾事件でも同じように共産党の議会報告、区民アンケートをマンションに配っただけの支援者が住居侵入罪で逮捕されました。立川事件にしろ、葛飾事件にしろ、何もマンションの部屋に押し入ったわけではありません。郵便ポストやドアの新聞受けにビラを入れただけです。明らかに反体制的と当局が判断した団体を狙い撃ちにしています。
ビラなんてものは、日常的にマンションのポストに入っています。警察の理屈でいえば、ビラを配った業者はすべて住居侵入罪です。ビザ屋や寿司屋の出前メニューが書かれたちらし、宗教の勧誘ちらし、裏ビデオのちらし、私のマンションの郵便ポストには自民党のある代議士の政策ビラが入っていたこともありましたが、これなんかも住居侵入なんでしょう。あとはマンション住民の誰かが告訴する(あるいは告訴するように仕向けられる)だけです。
反戦ビラを配っただけで逮捕される社会になってしまいました。一度、共謀罪のようなものを許してしまえば、事はどんどんエスカレートしていきます。やがて反戦ビラを書こうと相談しただけで逮捕される社会がやってきます。そうなれば対象となる団体も、共産党や市民運動グループだけにとどまりません。どんどん広がっていくに違いありません。やってくるのは、北朝鮮にのように言論の自由なんてかけらもないような社会です。
| Trackback ( 0 )
|