
【姉妹楽園】弱いものイジメする?(1)
公園にて。
一人の男子中学生が地面に膝をつき、顔を伏せている。
うなだれる男子中学生の横腹に、突如飛来したサッカーボールが激突する。
「おい、動くなよ?」
「お前はゴールなんだからな、ははっ」
少し離れた位置に学生服を着た男子が数名。制服が違うので他校の生徒だろう。
その行為はとても友人と呼べるものではなかった。転がって帰ってきたボールを、彼らの一人が蹴る。
今度は男子中学生の頭部を直撃する。男子中学生は呻き声を上げて、地面に突っ伏した。
その姿を見て彼らが下品に笑った、その直後。
彼らの横から一人の少女がこちらへと歩いてくる。
そして男子中学生を庇うように前に立ち、腕を組み男子達を見つめた。
「ねえ、おにーさん達。えりかも弱いものイジメ、していい?」
表情を変えずに、淡々と言葉を発するえりか。
「……なんだお前?」「あっちいけよ、ガキ」
男子達が口々にえりかを罵倒する。
「お前もイジメられたくなかったら、さっさと帰れよ」
男子の中の一人が、そう言った瞬間。
いままで表情の無かったえりかの口元が、にやりと歪む。
「それ、違うよ?だって……」
サッカーボールを踏み付け、告げる。
「おにーさん達なんかより、えりかのほうが強いもの」

【姉妹楽園】弱いものイジメする?(2)
「はあ?何言ってんのコイツ?」
「ばかじゃねーの?」
憤る男子達を目の前にしても、まるで臆さずに。
えりかはボールを両手で拾い上げ、胸の前に持ってくる。
「えりかの腕の力、見せてあげるね」
そして、左右から挟みこむ。力を込める。
ぐぐっ。
サッカーボールの両端が、少女の腕の圧力でヘコみはじめる。

【姉妹楽園】弱いものイジメする?(3)
ボールが変形していく。歪んでいく。
空気でパンパンに膨れ上がっていたボールが、紙風船のごとく平らに潰される。
ボールの空気圧など、彼女の腕力の前には無いも同然。
「えいっ!」
気合とともに、一気に腕を閉じる。
バンッ!
えりかの超人的な腕力に屈服したサッカーボールは、その身を大きな音とともに破裂させた。
「えへへ、すごいでしょー?」
えいりかが、自慢げに笑う。
男子達は、言葉を完全に失っている。
サッカーボールをパンクさせた。
この幼い少女が、腕の力だけで。
目前で繰り広げられた"あり得ない事象"を、男子達は理解できない。

【姉妹楽園】弱いものイジメする?(4)
えりかは潰れたボールを片手で持ち、ひらひらと振る。
「おにーさん達の頭も、こんな風にしちゃおうか?」
べー、と舌を突き出す。
そして、男子達に近づく。
男子達はビク、と体を震わせ、一斉に逃げ出した。
「くすくす♪」
その滑稽な姿を見て、えりかが笑う。
そして、傍らで四つん這いになりながらえりかを見上げている男子中学生に振り向いた。
「大丈夫ー?」
えりかが尋ねる。男子中学生は、ゆっくりと立ち上がり、とお礼の言葉を述べる。
「あ、ありがとう……すごい力持ちなんだね……」
えりかのほうが遥かに背が低いため、見下ろす格好になる。
こんな小さな女の子の、この細い腕のどこにこれだけの力があるのか。
「まあね~♪鍛え方がちがうからねっ」
えりかが、その手に掴んでいる元はボールだったソレを、両腕で引き伸ばす。
まるで輪ゴムを引っ張るかのように。
ブチィン!
ソレを簡単に引き千切る。
「す、すご……」
男子中学生が、感嘆する。
えりかは得意げに、手にした残骸を男子中学生にみせびらかし、笑顔を見せた……。