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Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

本を「聞く」

2021年02月06日 06時00分00秒 | エッセイ
   『ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず……』
   この名文で始まる方丈記に、友人は改めて胸を震わせた。
   「800年ほど前の天変地異、時代の転換、大変動を驚くべき描写力で
   余すところなく語り、滔々と流れる悠久への思いにかられる」
   そうとまで語る。
   実を言うと、彼は「方丈記」を手にして読んだのではない。
   NHKの古典朗読を聞き、たっぷりとその世界に浸ったのだった。

          

もう一人の友人、こちらは女性だが、彼女はスマホで
YouTubeの「小説朗読」にすっかり嵌ってしまったという。
もともと不眠症とは無縁の質。布団を被り「さあ、寝るぞ」と
言い聞かせれば、ものの30秒で寝入ってしまうそうだが、
就寝時の「朗読」に嵌ってしまったことで、「眠いけれど寝たくない、
寝なきゃいけないのに眠れない」と途方にくれていると嘆いている。

   彼女いわく。
   「何せ、静まり返った夜にしんみり聞く山本周五郎は最高。
   周五郎だけではなく、藤沢周平も外せない。
   作品を聞いていると胸が熱くなったり、ほろりとしたりで、
   話の途中で寝るなんてとんでもないことだ」

「朗読を聞く」のに嵌るのは夜に限ったことではないらしい。
昼間、BGM代わりに家事をしながら流し聞きをしてみても同じことだった。
洗濯も掃除もさっぱり手につかず、とうとう座り込んで聞き入ってしまい
夕飯の支度が遅くなってしまうこともあったという。
「夢中になって読んだ本も、人の声で耳から聞くと、
また違った臨場感に惹きつけられる」のだそうだ。

         
 
   本は「読む」時代から「聞く」時代に変わってきたのか。
   どうもそうなりつつあるらしい。
   つい、この間まで「電子書籍化」ということで、
   本を読むのも紙のページをめくるのではなく、
   画面を指先でめくる時代になった、
   そう思っていたのだが、もう次は「聞く」時代なのだという。
   確かに「オーディオブック」という言葉もよく聞くようになったし、
   友人が嵌ってしまったYOU TUBEでも小説朗読が
   たくさんアップされている。
   また俳優や声優の朗読によるCDセットの広告もよく見かける。

ちなみに友人は、「『眠る朗読』というものもあり、
一晩中絵本や物語を読み聞かせてくれる。
こちらは耳に優しいゆっくりとした声で、遠慮なく眠くなる。
質の良い睡眠を貰ったようで、翌朝の目覚めもいい」と教えてくれた。

    いずれにせよ、何事につけても世は変わっていく。
    方丈記はこう続いている。
    「……よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、
    かつ結びて、久しくとどまるためしなし」