特定非営利活動法人精神医療サポートセンター

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カルテ開示の時代

2006年03月30日 | 看護論的経営論

ある日、突然実家の母から電話がかかってきた。

「○○が危ないから、病院まで乗せていって!」

○○とは、私からすれば伯母にあたる人だ。昔、結婚の挨拶に行ったっきり顔をみなかったほど付き合いがない人である。私の母親からすれば、義理の姉にあたる。
 その電話をうけて、高速道路で1時間ほどの病院へ向かう。パソコンで病院の住所と電話番号を出し、カーナビゲーションをもとに走る。最近は便利になったものだ。
 
 久々に会った伯母はベッドの上で半昏睡状態。時々目を覚まし、苦しみながら会話をするがすぐに寝入る。みれば、シリンジポンプでカテコラミン系のものを流し込んでいる様子。
 命が危なく、今夜が山ということで親族一同集まっている。時計を見ればいつの間にか深夜の1時。これから、皆がどうしようという動きもない。いや、どうすればよいのかという感じであった。医師より告知を受けた伯母の夫は、ただただ「命が危ない。今夜が山だ」としか思っていない様子。ある程度の状態は聞いているものの具体的には理解できていない様子であった。

 私は冷静に考えた。
「今後、伯母がどのような経過をとるのか、駆けつけている親族一同に知ってもらう必要がある。」と、

皆、仕事もあれば生活もある。しかし、伯母のことも心配で今からどう動けばよいのかわからない状態。私が、病院側から疾患の詳しい情報を仕入れ、そして噛み砕いて親族に説明しなおす必要があると考えた。

「すみません。主治医の先生は今夜いらっしゃいますか?できれば、今もう一度話を聞きたいのですが」私がこういうと、夜勤の看護師は、

「深夜ですので、主治医がいてるか確認してみますね」

「はい、わかりました。私が先生からもう一度話を聞いて、噛み砕いて皆に話をしようかと思いまして」もちろん、嫌味なく、私が医療従事者であることも伝えた。

すると、駆けつけたやや経験のありそうな別の看護師がきて「もう、家族の方に話はしましたけど・・・・。」という。あいにく主治医は不在だった。

「いえ、それは存じていますが、よく理解できていないようですのでもう一度詳しく聞ければと思いまして」続けて私は、
「すみません。カルテ開示の手順はどのようになっておりますか。できれば、見せていただきたいのですが」夜勤の看護師に伝える。

「ちょ、ちょっと待ってくださいね」当直の師長か誰かに連絡を取りに行ったのだろう。結局、主治医と院長に許可を取ってから出ないとカルテ開示はできないとこのこと。私が、今すぐ開示を求める方法はいくらでもあったが、これ以上病院側を困らせても(今後のことがあるため)と思い、差し支えない程度で看護スタッフに説明を求めたが、やはりありきたりな説明。これでは、私も詳細をつかめない。
 腎機能がもともと悪く、透析を受けていたのは知っているが、今回はそればかりが原因ではないようである。私が知りたかったのは、透析を根本の原因としてどのような合併症が命を脅かしていたのかということである。夜間、医師が不在であれば、看護師である私がカルテを見れば詳細がつかめるのは当然のこと。そのような理由からカルテの開示を求めたのであるが、閲覧許可を得るまでには至らなかった。

 ここでいいたいのは、カルテ開示についての問題である。カルテ開示についての話題は、ここ数年どころか、かなり前から謳われるようになった。だが、実際はどうだろうか。この病院に限らず、ほとんどの病院がこのような状態ではないだろうか。
 カルテは、家族がみたいときにみられる状態でなければならない。見る事が出来るということも知ってもらっておく必要がある。働いている医療スタッフもそう思っているかもしれないが、実情は医療機関で働いているスタッフですらその手順を知らないことが多い。その手順が規定されていたとしても、すぐに閲覧することは困難。いかに“カルテ開示”という言葉が、建前であるかということがわかる。
 これも、何か一つの呼び声がかかれば一気にその状況は打破されようが、一部の医療機関を除き、現状は“できればカルテはみせたくない・みられたくない”という空気があるのではと、疑念の意を抱かざるを得ない。

 カルテ開示の問題一つにしても、課題は山積している。まず、“カルテ開示”と謳うだけでなく、実際にそれが当たり前になるようにしなければならない。医療従事者以外は、まだ“カルテを閲覧する権利”すらしらないものが殆どだ。医療機能評価機構という手段も一つであるが、それがカルテ開示を深く規定するようになるまで待つのではなく、今後、それぞれの機関ができるだけ実質的なカルテ開示への取り組みを行っていくよう期待したい。


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