森の木霊

空の、海の、森の、そして私の声、書き留めましょう、徒然に。

二十五時物語 1

2006-07-12 22:56:40 | 二十五時物語
旅先の骨董市。
私は銀製のピルケースを手に入れた。

旅行かばんの形をしている。
ペンダントトップにもなるよう、持ち手がそのままチェーンの通し口になっている。
手にとって振ると、かさかさと音がする。
中を開けて見たい衝動に駆られる。

店主が言っていた。
「鍵が無くて開けられないんだが、その分安くしますよ。」

なるほど、小さいながら精巧な錠前が見える。
「音がする。何が入っているのかな?」
「危険な毒薬が入っているという言い伝えだ。怖いかね。」

店主が笑った。
瞳がきらりと光る。

毒・・・?

急に手の中の銀製品が重く感じる。
手のひらがこわばって握ることも放すことも出来なくなっていた。

「あはは、冗談ですよ。媚薬と言う噂ですよ。」
店主はさっきと同じ光る目で私を見た。
私は急に馬鹿にされた気分になって
いわゆる「むかつく」気分になって
「これ、頂くわ」

毒なんかじゃない、媚薬でもない、遠い昔の誰かの大切なものが入っている、
そう思うことにした。
手持ちの銀のチェーンに通してみた。

それはまるでずっと自分のものだったように
ぴったりと胸に収まった。
そうして、かすかな音・・・。


薬入れは魔よけにもなるという言い伝えがある。
本当かもしれない。
私はその日を境に幸運に恵まれる・・・。



「あなたぁ~、私のピルケース、ご存じない?」
「へっ?」
骨董市の主人は、偽骨董つくりに没頭しているときだった。
「ピルケース?」
「そ、かばんの形のやつ、鍵が見つかったから、中のものを取り出したいのよ。」
「え、だってあれは・・・。」
「まさか、売ったりしていないでしょうね。」
「あ・・・、いや・・・。」



骨董市の主人は知りませんでした。
ピルケースが妻の命と同じくらい大切なものであることを・・・。

その銀の入れ物の中に
運命を司る女神Lachesisの骨が入っていることなど・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
25のお題、第一作

(2.骨)

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3 コメント

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不思議なお話かしら・・・ (うさるな)
2006-07-13 23:44:33
こだまさん、こんばんは。

二十五時物語と言う事は、あと24個も楽しめるのでしょうか?

待っていますね。

でも、このごろのこだまさんの創作のパワーは凄いものが・・・

お身体、ご自愛下さいね。

読み手は幸せですが・・・
ちなみに (こだま)
2006-07-17 10:28:18
25のお題



1.太陽光線

2.骨

3.木の実

4.魚の腹

5.酒    

6.反骨

7.松明(たいまつ)

8.1cm

9.へちま水

10.富士山

11.雪女   

12.足袋

13.温室

14.なまこ   

15.正門

16.羽根

17.アジア

18.不知火

19.ギヤマン   

20.小泉八雲

21.揚子江

22.八重

23.まなうら

24.フランス人形

25.プランクトン

凄いっ! (うさるな)
2006-07-17 15:25:40
こだまさん、こんにちは。

凄いわ。

言葉ひとつひとつから想像が広がってゆきます。

どんな物語に会えるのでしょう・・・

ワクワクしてしまう。

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