氷月神示 他の暗号解読編 371

国之常立神より皆様へ

昨日の話は大変でしたね
さて、それからどうなりましたか

翠(=イブ=ミロク)：
私達は普通の生活に戻りました
私と、事件の秘密を知っているクーメルンとですね
彼には私は助けてくれたお礼を言い、彼もお釈迦様から口止めをされていたのでしょう、事情を多少察したようだが、黙っていてくれました
その後、クーメルンとは班も違うので、なかなか話す機会がなかった

ある時、クーメルンの班が大きな丸太のような荷物を運ぶ時に人手が足りず、近くに居合わせた私と幾人かも呼ばれた…
で、手伝い終わると皆休憩し、しゃべりあった
私も成り行き上、そこにいたが、クーメルンは他の人としゃべっていた
私は水でのどをうるおし、1人で木のベンチに座っていたが、そろそろ帰ろうかなーと、仰向いて両腕を斜め後ろに差し伸ばして伸びをしたら、ベンチが後ろへ傾いて倒れ、ズッテーンとしりもちをついた
その拍子に、ベンチのすぐ後ろにあった台の上の桶に私の手が当たり、桶がひっくり返って中の薬草が、バラバラと飛び散った
「あれー、ひどいことになった、」
と私はつぶやき、周りの人々に謝りながら、薬草を拾い集めた
すると、クーメルンも駆け寄って手伝ってくれた
「申し訳ない、」と私は彼に言った
「いや、(丸太を運ぶのを手伝ってくれたので、) お互い様、」と彼は言ってくれた
その時に、私は彼にはあれほど世話になったのに、何も実質的なお礼ができていないな、と感じたので、改めて恐縮した
桶に薬草を戻すと、私は彼に、すまなさそうにして帰ろうとした
すると、クーメルンは手についた薬草の匂いが強いから、どこかで洗おう、と言い、近くの川端へ行くことになった
川にはいい思い出がない
あれ以来、私は川を避けるようになった
水浴びとか、仕方ない時は行くが…、何よりも、あの岩場だけは行きたくなかった
それを察してか、クーメルンは全く離れた場所へ私を連れて行った
そこは静かで、大木が川岸から張り出して水面に陰を作っていた
クーメルンが川面で手を洗い始めると、私は嫌な思い出を振り払おうとし、(彼がいるとなおさら思い出しやすい、) やっと手を水に浸すと急いでごしごし洗った
そして、一刻も早くここを立ち去りたかったので、歩き出したからクーメルンも従った
私は、さっきは薬草をばらまいてしまいましたが、どうも自分は人に比べるとのんきで、時に不注意で、おかしな失敗をしてしまうことがあります、と話した
するとクーメルンは、
「君はむしろ、まかれた薬草みたいなもんだな、」
と言った
「えっ。どういうことですか」
と私は聞き返した
「君はばらまかれた薬草みたいに、のんきで無自覚で、人を癒すことがある、ということさ」
「…そんな良いものならいいのですけど…」
私は口ごもった
私が良い人間なら、なんであんなに友人のテーマッセを苦しめたのだ？！
思い出すと、辛くなった
私は立ち止まった
涙がこぼれた
「どうしたんだ？！」
とクーメルンが驚いて尋ねた
「何でも…ないです、」
私は涙をぬぐったが、止まらない
さめざめと泣いた…
「すみません…私は人に嫌がられる面があるのではないかと…あれ以来…特に思っています」
友人を作る気も失せていた
クーメルンは私の気持ちを察したようだった
「…別に誰も悪くなくても、物事ねじれる時があるんだよ、」
と彼は遠くを見て言った
「そうでしょうか？！」
私は顔を上げ、意地になって聞いた
クーメルンは、身内の話をした
…彼の妹が年頃になったので嫁がせた
いい所へやったつもりだったが、亭主が乱暴で、跡継ぎの男の子が生まれてすぐ、彼女だけ追い出された
他の女と再婚するつもりだったようだ
勝手なもんだ
しかし、嫁がせた自分にも責任がある…
今度は、よく選んで別の所へ再婚させた
亭主は優しい人だったが、妹は残してきた長男を気にして、とうとうやせ細ってなくなってしまった
自分のせいかと、だいぶ悩んだよ…
とクーメルンは言った
「それで、あなたは出家を…」と言おうとして、私はやめた
人は様々な悩みがあるものだと思った
みんな、普段は口にこそ出さないが…、
それ以来、私は彼とだんだん親友になっていった
班が違うので、会って話すのはたまにだけだったが、彼も班長の仕事で忙しく、それ位がよいみたいだった
なので、さっぱりしたつきあい方だった

…そうして、私はまた、次第に自信を取り戻していった……

(表紙：釈迦にゆかりの竹林精舎)