「働かないおじさん、働かないおばさん」を生んでしまう寂しい社会 <上>
「働かないおじさん」
この言葉でインターネット検索をおこなうと様々な情報がヒットする。これをめぐって多様な言説がある。定まった定義はないようだが、概ねミドルシニア以上(50歳代後半から60歳代まで)で会社員として就業している男性職員を指すようだ。特に定年後再雇用で就業する人が増えており、こうしうた人々を指している場合も多い。
(株)社識学が300人対象に行った調査(22年4月実施)によると、49%の企業で“働かないおじさん”がいることが判明し、“働かないおじさん”が仕事中にしていることは、休憩49%、ボーっとする47%、無駄話47%であるとしている。一方、“働かないおじさん”が社内にいることでどのような悪影響があるか聞きいたところ、「周りの社員の士気が下がる」が59%、「働かない人の分の業務が回ってくる」49%、「会社の経営圧迫(人件費)」35%であり、「特に悪影響はない」と回答したのは9%に留まっている。
毎朝、きっちり出社するのだけれども、いつの間にか席を離れ、気がつくと会社からいなくなってしまうということから、「会社の妖精さん」との言葉もあり、仕事をしていると周囲からは見えてにくい、自分の業務との関係性が薄く、接点もあまりないことなどが考えられる。
相当な言われ方で、正直言って悪意あるレッテル張りと言われてもしょうがない。ただ、一般的にそのような受け止めが広がっていることも受け止めなければならない。
60歳代前半の働き方
このミドルシニアと呼ばれる人たちの実態に迫る調査はあまりなく、ここでは60歳代前半の男女の働き方と意識について紹介をおこなう。
「シニア層の就業実態・意識調査2021」によると、60歳代前半の男性では、何らかの仕事に従事している人が79%に達し、非就業者は19%に過ぎない。内訳は、正職員36%、契約・派遣・アルバイト職員25%、自営・経営16%となっており、雇用されて働いている人が62%に達し、多くの人が企業などに所属して給与労働者として働いている(それまでは正職員として就業していた人が90%以上である)。契約・派遣職員の多くは、一旦定年退職し、継続雇用として新たに嘱託職員などで就業している人たちである。また、正職員として働いている場合であっても、役職を離れ、一般職などの役割で就業しているのである。ちなみに、部下を持った経験のある人は、56%と半数以上である。これらのことにより、多かれ少なかれ給与水準が定年前よりも大幅ダウンになるのが一般的である。近年、退職前の仕事と同様の業務に当たりながら、身分だけ変更、つまり給与水準だけが下がってしまうことも増えている模様である。
女性の場合は、60歳代前半で非就業者が43%と男性と比して割合がとても多い。この世代では、専業主婦として60歳を迎える人たちが多いことによる。まだ共働きが当然の世代ではないということだ。また就業している場合も、パート・アルバイトの比率が22%と非常に高く、正職員・契約職員の比率は13%と低くなっており、継続雇用・再就職の割合は男性よりも顕著に少なくなっている。従って、現在のところ、全体的には職場に60歳代前半の女性自体が少なく、「働かないおばさん」も少ないとみられる。もっとも、サービス・流通関係など女性非正規雇用が多い業種では、「働かないおばさん」が存在する可能性はある。
60歳代前半の暮らし
これらの人の生活プロフィールを見ると、有配偶者の割合が64~74%(男女で比率が異なる)となっており、こどもが同居している割合も29~35%となっている、つまり夫婦かつ、こどもの同居している割合が全体としては高く、生活自体にお金がかかる世帯が多いものと推測される。なお、おひとり様も、男性15%、女性20%程度存在する。
再雇用の実態
さて、現在の勤め先で定年退職する予定の人に、定年後も現在の勤務先で働きたいかを聞くと、「ぜひ現在の勤務先で働きたい」あるいは「出来れば現在の勤務先で働きたい」という人が合計61%であり、多くの人が継続雇用を望んでいる。一方、現在の職場では(できればを含む)働きたくない人も38%存在する。それでは仕事探しを実際にしたのかを聞くと、仕事探しをしていないとする人が73%で大多数となり、実際に仕事探しをして新しい仕事が決まった人と、現在も就活中の人は18%に留まる。
つまり、それまでの職場を離れて、仕事をしていこうとすると希望する職種・収入を必ずしも実現することができる保証がないので、それまでの勤務先での就業を希望する人が多くなるということである。実際、就職活動では、ハローワークを活用した就活が主流であり、マスコミで宣伝されている転職サイトで就職を実現している割合は、ミドルシニアでは少ないのが現実である(特定職種を除く)。
これはシニア世代の就労希望の理由は、圧倒的に「生計維持(62%)」要望によるからである。これには、多くの60歳代前半の人(特に男性)の場合、公的年金の支給開始年齢まで「空白の5年」に直面せざるを得ないからである。再就職でうまくいかないとたちまち生計を圧迫しかねないことを避ける意味もあり、再雇用に動くのはある意味自然な流れであろう。
<下>に続く。
※ (株)社識学 「“働かないおじさん”に関する調査」
リクルートジョブズリサーチセンター 「シニア層の就業実態・意識調査2021」
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