goo blog サービス終了のお知らせ 

さくらの丘

福祉に強い FP(ファイナンシャルプランナー)がつづるノートです。

使うあてなく預貯金にまわったボーナス

2021年07月29日 | お金

使うあてなく預貯金にまわったボーナス

 

夏のボーナスシーズンも既にヤマ場を越えてた。コロナ禍の影響は引き続き経済に暗い影を落としており、業績悪化が継続している業種では、支給そのものがない、もしくは減少している企業も少なくない。

 

 「Ponta消費意識調査、Pontaリサーチ6月発表」によると、夏のボーナスが支給される人の使途として、最も多かったのは「貯金・預金」で他の項目を圧倒する割合になっている。この項目自体は例年同じなのだが、今年旅行・外食を使途とする使い道を選択する人が大きく減少していることが特徴的である。また、ボーナス支給額の半分以上を貯金・預金するとしている人が半数以上となっている。

 

 別の調査(finbee、2021年6月)でも、夏のボーナスの使い道として、預金・貯金を挙げる人が最も多く、20〜30歳代で預金・貯金にあてる金額を増やす人が、他の世代上に増えているとしている。そして、コロナ禍以降、若い世代ほど「お金に対する考え方の変化があった」と答える割合が多くなっていることを踏まえて、若い世代の消費や貯金に対する考え方に変化が生じていることを示唆している。

Z世代の消費のあり方

 確かに現在は、20歳代前半からのZ世代と言われる人々が社会人になりつつある。Z世代は、生まれたときからデジタル世代(Windows95が1995年、小学生からiPhone使用)である。日本ではゆとり世代の後半世代となり、基本的生活を充足する物は既に所有しており、一般的な物欲は低いともいわれる。日本におけるZ世代の研究自体はまだ著についたところで、企業のマーケティング戦略が先行している段階である。

 Z世代のお金に対する考え方自体が、従来の世代と変わってくることは予想される事態ではあるが、今年起きていることはこれと関係があるのだろうか?

実際の人の動きは

 博報堂生活総合研究所が毎月発表している「来月の消費予想」の7月の消費態度指数(6月調査)という調査がある。2021年7月の消費意欲指数は48.9点。前月比は+3.7ptと上昇するも、前年比は-2.9ptの低下となったと報告されている。特に、20〜30歳代での指数上昇が大きく、女性の指数上昇も特徴となっている。「特に買いたいモノ・利用したいカテゴリーがある」人は28.9%で、「ファッション」「旅行」「化粧品」の3カテコゴリーが上昇しているとしている。

 このように今年に入って事実上ずっと続いている自粛生活が、緊急事態宣言の解除等の動きを控えて、女性を中心に外出・消費を意識した方向に動いてきていることが分かる。他の調査でも、7月に入り20〜30歳代の女性が一気に外出に動いている状況は報告されており、実際の行動につながってきている様である(20〜30歳代男性は既に外出自粛をしていない事情は別にある)。これが現在の都会での人流の多さを説明する内容にもなっている。

要は使い道のないお金の行方

 外出は増える傾向にあるが、実際にこれによる消費の拡大は、今のところかなり限定的とみられる。コンサートに行ける訳ではなく、旅行も避ける方向に動き、近い所へ短時間でとなってしまう。こうしてボーナスの使い道は、限定されてしまい、結果的に当座使うあてのないお金が生じてしまった。これが預貯金に流れたとみるのが、適切ではないかと筆者は考える。

このひとまず預貯金が、今後どうなっていくのかはとても興味ある点だ。コロナ後に一気に消費に向いていくのか、それとも堅実に預貯金路線が残っていくのか、消費の行方を左右する。アメリカではこの間感染リスクの低下と共に、旅行需要の急拡大など消費全体が拡大傾向にあると指摘されていたが、このところ足踏み状態も伝えられる。日本は、未だに底辺を這う様な状況が続いている。日本の行く先を占う点でも重要だ。

 

 これらは、8月に入って発表される統計数値で確認できるであろうが、Z世代の消費性向の変化とは現時点では言えないと考える。Z世代の消費性向は、もう少し時間をかけて確認していく必要がありそうだ。

 


教育費ってどれだけ必要なの? (下)

2021年07月24日 | お金

教育費ってどれだけ必要なの? (下)

 子どもを育てていると、この先どれぐらいお金が必要になるのだろうとやはり気になるもの。自分の子どもには、少なくとも最善の機会は与えてあげたい、と思う人は多い。

 では実際にどの程度なのか、自分の生活レベルに応じて、どうしていくのが良いのか考えるきっかけとしていただきたい。

高校時代

 高等学校(全日制)に通う67%は公立高校の学生である。反対に言うと1/3の学生は私立高校に通っている。公立高校では、授業料が発生することになるが、その金額は年間約2.5万円であり、負担は重くはない。むしろ通学に電車・バスなどを利用することになり、通学関係費が約8万円必要になる。また、補助学習費は、年間15万円(1.2万円)で中学生時よりも少ない金額になっており、大学受験に備える学習費用は、高校受験時よりも少ない結果となっている。トータルで年間約46万円(月3.8万円)となり、ほぼ中学生の時とあまり変わらない金額となる。

 一方私立高校の場合は、年間約97万円(月8万円)となり、この間概ね100万円程度で推移している。私立中学よりも負担は少ない傾向にあり、決して少ない負担ではないが家計的には何とかやりくりできる可能性はある。

 学校教育費の内訳は、授業料(約23万円)、学校納付金(21万円)、通学関係費(11万円)となっており、通学関係費が公立に通う学生より高いのは、比較的遠い場所まで通っている実態を現していると考えられる。補助学習費は年間19万円(月1.6万円)で、公立生徒よりも多いが、中学校時よりも少なくなっている。

大学生

 文部科学省の「令和2年度学校基本調査(確定値)」によると、4年生大学の学部生約262万人の78%は私立大学に通っており、残り22%が国公立大学に通っている。ちなみに専門学校に通っている学生は約60万人で、そのほとんどが私立学校である。

 大学の学費は、大きく分けて国公立大学と私立大学によって大きく変わることになり、私立大学は、いわゆる文科系か理工学系、または医学系によって変わることになる。

 文部科学省の2020年データによると、初年度納付金は、次のようになる(公立大学の場合、域内入学かどうかで入学金が異なる場合が多い。下記数字は域内の場合)。

 

【初年度納付金平均】入学金             授業料              施設整備費    合計

国立大学               282,000円      535,800円                        817,800円

公立大学               228,404円      536,382円                        764,786円

私立大学(文系)      228,262円      793,513円     150,807円    1,172,582円

私立大学(理系)      255,566 円    1,116,880円    177,241円   1,549,688円

私立大学(医歯系)  1,073,083円   2,867,802円   862,493円  4,803,378円

 

これが大学4年もしくは6年間(医歯薬系だと6年間)トータルで見ると、下記のようになる。

国立大学                         2,425,200円

公立大学                         2,373,932円

私立大学(文系)               4,005,542円

私立大学(理系)               5,432,050円

私立大学(医歯系)          23,454,853円

 国公立大学の学費も以前よりは高くなってきたものの、それでも私立大学との関係では、依然低く抑えられてはいる。しかし4年間で240万円程度必要になると、日常の家計でのやりくりが難しくなってくる。また私立大学では1年に100~120万円の費用発生となるので、どうしても事前の準備が必要になると言える。また医歯系の場合は、相当程度の蓄えを必要としそうだ。

奨学金を使用すれば 

 日常生活のやりくりで乗り切ることが難しい場合、奨学金を受けることができる場合がある。特に住民税非課税世帯・準ずる世帯の場合は、奨学金(給付型)を受けることができ、授業料等の免除・減額を受けることもでき、毎月定額の奨学金を受け取ることができる(金額は、自宅・自宅外、国公立・私立による)。

 また、奨学金(貸与型)を受けることができるが、こちらは卒業後の返済を前提とするものになる。現在多くの学生が受給しているのは、こちらのタイプで、金額によっては金利負担も発生するので、いわば学生ローンと同じである。予め親がお金を用意しなくても済む部分もあるが、学生が卒業後に負債を背負ってスタートすることになる。仮に月10万円として卒業までに480万円の奨学金を受け取ると、毎月4万円の返済で最低10年間以上返済し続ける必要がある。若いうちは正規社員でも年収が低いので、結構な負担感になってしまう。

本当に準備が必要なお金は?

 教育費用をどのように賄っていくのかについて、あちこちのWebサイトに記述がある。保育園から大学まですべて国公立ならば800万円程度から、すべて私立ならば2500万円程度必要となる等の記述があちこちにみられる。これらは子育て期間、約18~19年間に必要とされる費用の総額なので、それぞれのライフステージの中で、毎年の収支で必要な額が確保できれば、何も別枠で用意しなくてはならない訳ではない。

ただし私立中学や高校に通わせることを前提にするのであれば、やはり事前に準備をしておいた方が良い。また、大学については何らかの準備が必要な場合が多くなると思われる。また、子どもが複数の場合は、倍数で必要な金額が変化するので、予め想定できる範囲を予想しておくことも大切だ。

 学資保険は、半ば強制的に積み立てをおこなっていく仕組みなので、ある程度有効だと思うが、積み立てる金額は、それぞれの予想に基づいて、現実的に組み立てていこう。

 


教育費ってどれだけ必要なの? (上)

2021年07月22日 | お金

教育費ってどれだけ必要なの?(上)

 子どもを育てていると、この先どれぐらいお金が必要になるのだろうとやはり気になるもの。自分の子どもには、少なくとも最善の機会は与えてあげたい、と思う人は多い。

 では実際にどの程度なのか、自分の生活レベルに応じて、どうしていくのが良いのか考えるきっかけとしていただきたい。

 なお、参考にする調査は、文部科学省の「子供の学習費調査 平成30年度」に基づく。この調査は2年に1回実施しており、平成30年度分は全国の約25,000人から回答を得ている。2020年にも調査実施しているが、結果はまだ発表されていない。おそらく新型コロナの影響が色濃く出るので、あまり参考にできる結果にならない可能性がある。

 

幼稚園・保育園時代

 未就学児童については、国の政策により「幼児教育・保育の無償化」が実施されている。これにより、幼稚園、保育所、認定こども園などを利用する3歳から5歳児クラスの子供たち、住民税非課税世帯の0歳から2歳児クラスまでの子供たちの利用料が無料になっている。ただし、「無償化」といっても、実際には通園にかかるすべての費用が無料になるわけではなく給食費など支払いが必要になる。また、施設や事業によって利用条件が異なるので注意が必要だ。

保育園の場合、認可園か認可外園かによっても必要なお金が変わってくる。個別ケースごとにかなり金額の幅が大きくなるので、ここでは詳細割愛するが、だいたい年10~20万円(月2万円以内)程度と考えておけば良い。

なお、就学前に習い事などをおこなう場合は、当然これに上積みされる。調査によると年間約6万円から12万円弱程度(月5,000円~1万円)費用が掛かっていると思われ、ネットを検索するとピアノ・水泳・体操などが上位にあり、英語や学習塾の幼児教室も人気らしい。

 

小学校時代

 小中学校は義務教育なので、公立学校では基本授業料・教科書代は無償である。しかしそれ以外にも、学校教育費(教材費や遠足・外出などの費用)と給食費は実費で必要となり、学校外活動費として、塾代や習い事費用などがあり、全体で年間約32万円(月2.6万円)程度は支払う必要がある。この程度の負担であれば、毎月の家計でやりくりできそうな金額ではある。

一方、ひとり親世帯など給食費などが負担できない事例もあり、学校教育法第19条では,経済的理由によって,就学困難と認められる学齢児童(小中学)生徒の保護者に対しては,市町村が必要な援助をすることになっている。困ることがあれば、躊躇なく行政・専門家に相談してほしい。学校のみならず、地域に様々な取り組みがあり、それらを活用していくこともありうる。様々な事情もあるだろうが、子どものことを考えればこそ、このことは躊躇してはいけない。

 一方私立学校の場合は、まず授業料で公立小学校と大きな違いが生じる。調査では平均で年間約46~48万円程度になり、例えば慶応義塾幼稚舎では何と授業料だけで94万円も必要になる。諸々の費用を合算すると年間約160万円(月13万円)程度かかることになる。小学校6年間で約960万円にもなるので、その費用を織り込んだ家計計画を立てる必要がある。

 いずれの学校でも、塾や習い事にかかる費用が大きくなり、公立小学校で平均月1.5万円、私立小学校で月4.5万円程度かかっていることになる。特に私立小学校の6年生時は、補助学習費が年間64万円(月5.3万円)とピークになる。これは中高一貫学校への入学を目指してのことと考えられる。

 

中学校時代

 公立小学校に通う児童の割合は約99%だが、公立中学校に通う学生の割合は約93%となっており、義務教育を公立学校で終える学生が圧倒的に多い。公立中学校の場合、必要な費目は小学校時代と同じで年間約49万円(月4万円)程度となる。小学校の時よりは、費用的に高くなるものの、毎月の家計に織り込めそうだ。

内訳をみると、補助学習費(塾・家庭教師代)の比率が大きく、年間約24万円(月2万円)を占めており、私立中学校に通う学生よりも費用が多くなっている。これは中学3年生時に顕著で、年間36万円(月3万円)となり、高校受験を控えての学習機会充実が図られている。

 私立中学校の場合は、年間約140万円(月11.6万)程度かかることになり、ここ数年金額が徐々に大きくなる傾向にある。3年間でおよそ420万円が必要とされる。それなりの準備と心構えが必要となる。

内訳的には学校教育費の占める割合が高く、授業料(約43万円)、学校納付金(約30万円)、通学関係費(約14万円)などとなる。電車・バスなどの交通機関を使って通学することも多く、通学交通費の割合が高くなる。補助学習費は、年間22万円(月1.8万円)となっている。

(下に続く)

 


FIREであこがれの生活を築けるか?

2021年07月14日 | お金

FIREであこがれの生活を築けるか?

 FIREという言葉が、一種の流行になっている。元々は、Financial Independence, Retire Earlyの4文字を取った言葉で、自分の財政(budget)を確立してその中で生活して、早期にリタイアしてやりたいことをやろう、ということ。

 FIREは、英語ではまさに「火、炎」だが、be Firedは「首になる、お払い箱」なので、同じ言葉でも複雑だ。

FIREとは?

 元々はアメリカのミレニアル世代(30~40歳台)が、自分たちの独自性と独立性を確立するために唱えられた活動を指す。お金に執着しないで、自由な生活を送るために、物欲にあふれた生活を捨てて、ミニマムな生活をすることを目指すために、どのような資産とそれを支える財政のあり方を考えようとするものである。

 

 これが日本では少し、というか結構歪んで伝わっているように思う。またアメリカと日本の違いも大きくあるので、単純な話ではない。

 

 良く出る言葉として、「年間生活費の25倍」とか「4%ルール」がある。前者はFIREを実現するために必要な金額であり、それを年4%で運用することで持続して生活可能になるということである。

 例えば、年間の生活費(税と社会保障費負担などを除いた可処分所得、手取り収入)を世帯あたり240万円(月20万円)とするならば6000万円を元手として、これを年間4%で運用すれば実現できる。

多少余裕のある生活として360万円(月30万円)とすると9000万円を元手として、年間4%で運用して実現できるとされている。一方、120万円(月10万円)で良ければ、元手は3000万となる。

FIRE 2つの壁

 6000万円にしろ、9000万円にしろ、こうした金額を手元に持たないと始まらないのが先ず第1の壁である。家計の金融行動に関する世論調査(2020年)によると、二人以上世帯における金融資産の保有額は、平均値は1,436万円、中央値は650万円である。3000万円以上金融資産を保有している層が13%もあり全体平均を引き上げており、実際的には700万円以下の人が約半数である。

 ここから目標を定めて貯蓄をしていく必要がある。仮に5000万円を25年かけて貯めていくには、毎年200万円(月16.6万円)を目標額にする必要があり、実際的には家庭を持っていると、かなり壁は高いと言わざるを得ない。

 

 第2の壁は、4%ルールである。総資産を4%で運用する必要があるが、銀行預金金利が1%にはるかに及ばない現状では、投資に基づいて運用することを選択せざるを得ない。それも全金融資産を総動員して、投資運用をおこなう必要があり、リスクヘッジを考えて分散投資をするとしても、年間4%を安定的に確保することはかなり難しいと言わざるを得ない。この1年間のような上げ調子の市場状況がいつも期待できる訳ではなく、厳しい下げ局面のあることも前提にしないわけにはいかない。心理的にも普通の感覚的には、全金融資産を投資案件に委ねることには、相当の覚悟がいる。

本当に大切なこと

こうした2つの壁もそうだが、FIREを実現して、何をおこなうのかが最大の課題である。一時の日本における定年退職でも良く言われたことだが、仕事を辞めて何をするのかが、人生に全体に大きな影響を与える。特にすることがないのであれば、FIREせずに働き続ける方がよっぽど良い。それは、そこでやりがいや生きがいを感じることができる可能性があるからである。

日本では、1億円以上5億円未満の金融資産を持っている世帯は124万とされている(野村総研、2020年)。こうした人々の中には、仕事もせず、気ままな暮らしをしている人もいると思うが、普通に仕事を続けている人も数多く存在する。することがない人は、多くは堕落して、人生そのものがつまらないものになってしまう。

 もちろんやりたいことが明確にあるのであれば、FIREして、そうしたことに人生を捧げるのも良いであろう。

FIREであこがれの生活を築けるか?

 つまり、FIREしてあこがれの生活を築くのではない。

むしろ、目標とするあこがれの生活を築くためにFIREするのである。目的と手段を取り違えてはいけない。

そして目標とするあこがれの生活は、FIREせずとも実現できる可能性は大いにあるし、必要なお金もその人によって大きく変わるのである。お金ありきでない人生設計を考えていきたいものだ。

 

 

 

 


老後2000万円の弊害 (下)

2021年07月09日 | お金

老後2000万円の弊害 (下)

 「老後2000万円」は、2019年に大いに話題になり、今なおこのことに言及している言説が後を絶たない。このことは、金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公表した報告書を契機としている。この報告では、総務省統計局の2017年家計調査を元に試算が行われている。この前提は、夫65歳、妻60歳の高齢者無職世帯であって、30年後まで健在であり、その間家計収支が毎月5.5万円の赤字である。月々5.5万円の赤字生活を30年間続けると、確かに約2000万円となる。

明雄さんの介護はどうなる?

 明雄さんは75歳となったので後期高齢者となり、世帯の年金受給水準からして、医療費の負担は1割負担(1ヶ月の上限14,000円、通院の場合)となることが見込まれる。しかし住民税非課税世帯にはならないので、保険料は一般区分となり月8,000円程度になると見られる(住んでいる自治体による)。入院した場合を含めて上限負担額が決まっているので、法外な医療費になることはない(入院中の食費や差額ベット代などは含まず)。

 一方介護保険は、保険料が概ね月8,500〜9,000円程度になると見込まれる。介護サービスは1割負担で受けることができる(明雄さんの場合)ので、最も重い要介護5となった時に月36,000円程度が利用額の上限となる(居宅介護サービスの場合)。実際には様々なサービス組み合わせがおこなわれ、それらの積算で利用額が決まり、上限まで目一杯使うのは要介護度が高くなってからの一部での事例となる。

 最もお金を必要とするケースとして、特別養護老人ホームへの入所を検討する。現在の特別養護老人ホームは要介護3以上が入居基準になっているが、実質的には要介護4以上での入所になる場合が多く、お部屋のタイプにもよるが、諸費用合わせて月々10〜14万円程度必要となる場合が多い(所得水準により変わる)。有料老人ホームの場合は、概ね+10万円程度を考えた方が良い。特別養護老人ホームの平均的入所期間は4年程度となっており、最大でも700万円程度の費用となることが想定される。

 要介護状態となっても、直ちに寝たきりになってしまうわけではなく、自立した生活を営むことはできる。ただし行動範囲など徐々に狭まってくることもあり、全体にひと月に実際に使用するお金は徐々に減少していく。このため、医療費・介護費用は直ちにそれまでの生活費に上乗せになるのではなく、それまでよりも若干支出が増える形に収まるのが大抵である。特に特別養護老人ホームなど入所してしまうと、生活基盤が施設に移るので、その分の生活費用は当然に減少する。

 明雄さんの場合、概ね月の収支が若干の赤字であったものが、毎月3〜4万円程度赤字になることが見込まれる。ただしこのことがずっと続くわけではなく、仮に5年間月々4万円の赤字として、その費用は240万円程度となる。特別養護老人ホーム入所の場合でも、当初1,550万円あった預貯金額との関係では、決定的な減少にはならないことが想定される。つまり、ここではお金の心配をする必要は全くないと言って良い。

 

信子さんの介護は?

 さらに、残念ながら明雄さんが先にお亡くなりにななってしまい、信子さんが残された場合は、さらに状況が変わる。

 信子さんは、明雄さんの遺族年金と信子さんの老齢基礎年金を受給することになると考えられ、遺族年金が非課税になるので、住民税非課税世帯になる可能性が大である。

 信子さんが住民税非課税世帯になることにより、後期高齢者になった段階で受け取っている年金額によるが、保険料は月額3,000〜5,000円程度になり、医療費の自己負担は1割(月額8,000円が上限、通院の場合)となる。

 一方、介護保険料は概ね月額3,000円程度になり、介護が必要な状態になると、住民税非課税世帯なので、介護保険の負担限度額認定制度を受けることが出来る可能性が高く、施設サービス関係の負担額が減少することになる(個別条件が複数ある)。仮に介護度が上がり、かなり手厚いサービスを利用しても、月25,000円を越える負担以上は発生しない見込みだ。

 そうすると、信子さんは、受け取っている年金の範囲で介護も受け続けることができる可能性もありそうだ。最終的には明雄さんの時に必要とした介護に関わる費用よりも大分抑えられた金額しか要さないと見込まれる。つまり老後のお金として考えていた金額は、実際にはそれほど必要としない可能性が高いと言うことになる。

 そして、いよいよの時には、自宅を売却して介護費用に充てるという選択肢もありうる。ただしこの手は、色々な課題も伴うので、諸条件が整った場合となる。これについては、別の機会に解説を譲りたい。

 

お金をどう有効に使うか?

 実際の介護費用がそれほど高額にならないと言うことであれば、もっと現在の生活を充実させることに使っても良い、と言うこともあり得る。海外旅行に行くとか、やってみたいことを出来るうちにご夫婦で実現させたら、どうだろうか。子孫に美田を残したいという意思が明確であれば別だが、自分の人生を充実させていくことは、人生のどの段階でもできるはず。

 住民税非課税世帯のことを挙げたが、国の施策は曲がりなりにも、セイフティネットの概念をもっており、低所得者における医療・福祉の仕組みが一応整っている(程度については様々な意見もあるが)。お金がないから、医療も福祉も受けられないという事態は、避けることができるので、困ったら行政や専門家にぜひ相談してほしい。

 

 昨今の新型コロナでも「正しく恐れる」という言葉がよく使われる。曖昧な不安に突き動かされるのではなく、正しく恐れて、それへの備えをしていくことが大切である。特に民間の介護保険などは、よっぽど必要性をよく考えて、活用するのでない限り、筆者は有用とは思わない(保険かけるお金の余裕があれば尚更)。

 そして、自分自身と家族の状態は常に変化していくので、適宜備えの見直しをしていこう。そして充実した人生を送っていければ良い。これらの点は、専門家の意見もぜひ活用しよう。

以上