渡辺浩之のブログ:魂のストラテジー

この世界に漂い、けれども、決して流されないために

零式艦上戦闘機(零銭、ゼロ戦)のビジネスモデル:特攻か、勝利か、プラットフォーム戦略を越えるためには

2012年05月22日 05時50分49秒 | ビジネス

零式艦上戦闘機、いわゆる零銭(ゼロ戦)は、
第二次世界大戦において、
日本の主力艦上戦闘機として、
日中戦争の半ばから、太平洋戦争の終戦まで前線で運用された戦闘機です。

ソロモン諸島上空を飛行する零戦二二型(A6M3)

アメリカ陸軍のP-51マスタング、
ドイツ空軍のメッサーシュミットBf109、
イギリス空軍のスピットファイアなどとともに、
第二次世界大戦期の代表的な戦闘機として知られています。

零戦は、大戦初期において、
その長い航続距離、重武装、優れた格闘性能により、
連合国の戦闘機に対し圧倒的な勝利を収めた、といいます。

このため、零戦は当時の連合国パイロットから「ゼロファイター」の名で恐れられていました。

しかし、
後継機の開発が遅れ、というか開発する余裕がなく、
大戦中期以降には、大量投入された連合国の新鋭機に対して、
ゼロ戦の優位性は失われ、
日本側のパイロット育成が間に合わず、
補給物資や燃料の不足が追い打ちをかけ、
零戦の戦闘力は劣勢に追い込まれました。

大戦末期には、特攻としても使用されたのも、
空中戦では、すでに戦えなかったからだと聞きます。

零戦の開発元は三菱重工業です。
生産は、三菱と、中島飛行機でもライセンス生産され、
総生産数の半数以上は中島製です。

父は、戦前、中島飛行機で、設計技師をしておりました。
当時の話をよく聞かされたのですが、
零戦には、もちろん、図面はあるのですが、
すべて、一台一台、リベットやビスの位置も異なり、
部品も共通ではなかった、と言います。

「これじゃあ、さ、負けると思ったよ」
と父は、つぶやくように言いました。
「修理する部品の図面もないんだ」

ですから、修理をするたびに図面を探し、
位置合わせを行い、
さらには、部品を作る作業に追われていた、といいます。

よくよく考えれば、
当時の日本に自動車を含め、機械の大量生産技術などなかったのです。

「戦前から残る小田原の商家」

 

大量に生産するには、
マニュファクチャリングを追及し、
品質管理よりも技能や匠の技を優先している姿が、
目に浮かぶようです。

一台一台が、最適化され、
まるでF1車を大量生産するかのような、
同じゼロ戦は2台とない生産現場です。

でも、だからこそ、
高性能の戦闘機を生産できた、
とも言えます。

生産技術もマネジメント方法もなく、
物資や燃料に乏しく、
ただ、知恵だけで工業製品の頂点を狙うには、
この方法しかなかったのです。

零戦は、
戦後、その生産管理を悪例として引き合いに出されますが、
実は、今の日本も同じことをしているのです。

確かに、高度なマネジメント法を取り入れ、
品質やバリューチェーンのレベル高めることに成功しました。
1990年以降、韓国、台湾、中国、ブラジルなどが、
たやすく工業国に変身できたのも、
日本の前例があったからです。

しかし、そのマネジメント手法は、張りぼてです。

消費者の欲望に応じて、
性能を突き詰めれば、
大量生産の枠組みから外れ、
大量生産可能なものは、
低価格の波に利益が消えていく・・・。

インターネット時代になり、
情報のフラット化が、さらに人間の欲望を個性的なものへと加速させ、
「個か価格か」
という、選択に企業は迫られています。

その結果、
戦略の一つ一つは、場当たり的とも言える、
いや、それは戦略でもなんでもなく、
経営者の直観と経験だけで、
事業を決めているだろう、
と言いたくなる状態が続いています。

エルピーダの破産、ルネサスの経営困難、任天堂の行き詰まりなど、
かつて、この国を謳歌した企業群は、
「少量多品種製品」の大量生産という、
ジレンマというか、パラドクスというか、そうした新しい工業時代に、
答えを持ち合わせていません。

三次元プリンターや光造形だとかでは、ダメなのです。
新しい工業プロセスとマネジメント手法が必要なのです。

「ボロボロの天使」

今、日本の企業は、高性能の零戦を、再度、求められています。
(1)一台、一台は、顧客の要望や使用環境に最適化されている
(2)しかも、メンテナンスやサービスや部品は共通化しなければならない
(3)形だけでなく、機能もデザイン指向が必要

つまり、プラットフォーム戦略を越えた生産技術の戦略が必要です。
そして、ドイツでは、すでにフォルクスワーゲンなどが、
新しい生産方法を模索し始めています。

零戦は、また、世界を飛んで、経済市場の中で戦えるでしょうか?
そして、特攻などという悲惨な戦い方ではなく、
堂々と、他国の製品を追い抜いていくことができるでしょうか?

渡辺浩之

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