日々

開設後10年超えました。細々と続けてまいります。

「治りませんように」

2018-06-17 22:10:48 | Books
「治りませんように べてるの家のいま」斉藤道雄著、みすず書房(2010)

精神障害やアルコール依存などを抱える人びとが、北海道浦河の地に共同住居と作業所“べてるの家”を営んで30年。
べてるの家のベースにあるのは「苦労を取りもどす」こと―保護され代弁される存在としてしか生きることを許されなかった患者としての生を抜けだして、
一人ひとりの悩みを、自らの抱える生きづらさを、苦労を語ることばを取りもどしていくこと。
べてるの家を世に知らしめるきっかけとなった『悩む力』から8年、浦河の仲間のなかに身をおき、数かぎりなく重ねられてきた問いかけと答えの中から生まれたドキュメント。(Amazonより)


印象的だったこと;
”なつひさお”
・・・統合失調症の当事者が分析して発見した、症状が出るタイミングを表した言葉。
な=悩んでいる、つ=疲れている、ひ=ひまである、さ=寂しい、お=お腹がすいている

アルコール依存症の患者が断酒後に気を付けることとして”HALT”というのがありますが、
Hungry:空腹. Angry:怒り. Lonely:孤独. Tired:疲労.
それに通じているし、なによりわかりやすい。


”健常者、いつもリスパダール飲んでいるようなもんなんだろうか”
・・・普段飲んでいる薬を変えてみたところ、あらゆるものごとが「はっきり、キッパリ」見えるようになり、
健常者と同じような生活ができるかも、と思った清水さん。
ところが、現実だけでなく妄想や幻聴もまた「はっきり、キッパリ」見え、聞けるようになったことで
病気と付き合いつつ仲間たちと過ごしていた穏やかな日常を失ってしまう。
紆余曲折を経て元の薬に戻し、ようやく症状がおちついた清水さんがインタビューでぽつりともらした言葉。
その言葉を聞いて、著者は自問する。

「ひょっとして私はまどろんでいるのだろうか。
まどろみから覚める力がないのだろうか。
あれほど強いエネルギーで高揚し、あるいは深い虚しさに苦悩する彼ら当事者の力が、私にはなかったということなのだろうか。
それとも自分をあざむくことに慣れきって、病気にもなれないのだろうか。病気になる力がなかったということなのか。
私にはわからない。」

「・・・感情をすりつぶして生きているのが健常者といわれる人びとであるならば、健常者とはいったいなにものなのだろうか。」