突然の彼女・エピソード2
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その55
(エピローグ)
サヨナラ愛しい人
●森田卓の視点
食卓に座ってどれくらい経ったろうか。。
泣きたい気持ちとウラハラに、なぜか1滴の涙も出ない。
泣く以上のショックで体全体が硬直してる感じだった。
でもようやく思考回路が少し回復し始めたようで、ふと置時計に目をやり時間を確認した。
午後3時20分。。。
お昼にカップ麺を食べようとしていたときから3時間以上過ぎていた。
「ハハ…ウソみたいな話だよまったく(⌒-⌒;」
僕は苦笑いをしながら大きなため息をつく。
次に固まっていた体を意識的に動かしてみた。
イスから状態を起こしたり、手を曲げたり伸ばしたり。。
…なんで僕はこんなバカみたいなことしてんだろう。。(-_-;)
僕は立ち上がった。とたんに立ちくらみが襲ってきたけど、それは短い時間でなんとか収まった。
その後、もう一度ゆりかの文面を読み返してみた。
いや。。一度というのは間違った表現だ。
僕は10回も20回もゆりかの書いた手紙を繰り返し読んでいた。
彼女が決めたことだもの。。やっぱり僕がどうこう言えるわけはない。
僕がゆりかと一緒にいたら、きっとまた迷惑ばかりかけることになるんだ。
ゆりかはその都度我慢してきた。辛抱強く僕を支えてきてくれた。
でもそれに対して僕は彼女に何ひとつお返しと言えることなどしていない。
頼もしい亭主には程遠く、ゆりかをいつも不安にさせてきた。
僕はゆりかの笑顔のおかげで、会社で嫌なことがあったときも常に救われてきたけど、逆に当の彼女はストレスを溜め込んできたんだ。
そう…僕は最初からゆりかにはふさわしくなかったんだと思う。
だいいち、こんな僕がゆりかと結婚できたことが奇蹟。同僚たちの言う通りだ。
この2年間、ゆりかがいたから幸せな家庭生活を味わえた。
いずみとも仲良くできて、夢のような2年間を経験できたんだ。
それに比べてゆりかにとっては不幸な2年だったのかもしれない。
僕と出会わなければ、もっと一流企業の人や青年実業家と結婚できたのに。。
裕福な家庭の中で毎日着飾ったり、社交界デビューも夢じゃなかったはず。
それなのに・・それなのにさっきまでヨリを戻そうなんて考えていた僕はまさにバチアタリものだ。
僕がこれからゆりかに対してできること。。それは罪を償うことだ。
ゆりかにバツイチのレッテルを貼ってしまう張本人はこの僕。
人ひとりの人生を僕は狂わせてしまった。その罪はあまりにも大きい。
正直、離婚なんて芸能人がよくするものだと思っていた。
なんという浅はかで愚かな僕だろう。救いようがない。
よし、決めた!僕はもう一生結婚しない!すべきじゃない!
僕には幸せになる資格はないし、人を幸せにできる人間ではないのがよくわかった。
万が一、そんなチャンスが訪れたとしても、再び相手を不幸にしてしまうだろう。
僕はゆりかと結婚できたことで、一生分の幸せと運を使い果たしたんだ。そうさ、そう考えればいい。
出家して僧侶になるのもひとつの手かもしれないけど、僕が寺の厳しい修行に耐えられるとは思えない。
これからはゆりかの幸せを願って過ごそう。
いずみの養育費もできるだけ援助していこう。
こう前向きに考えても正直胸が苦しい。胸が締め付けられるほど苦しくてせつない。
恋愛小説によく書かれる表現だけど、本当のことだったんだと今更ながらわかる。
きっとゆりかも同じ思いをしての決断だろうと思う。
そして円満な離婚への道を選んだ。そう望んでいるんだ。。
感情的に別れたくないのは僕も同じ。憎まれて当然な僕だけれど。。
この書類に印鑑を押せば全てが終わる。
ゆりかも相当悩んで決めたこと。ためらう時間は僕にはない。
この作業が終わったら…そう、僕もここを引っ越そう。
僕ひとりではこの部屋は広すぎる。。
ふと目の前のカップ麺を見た。麺がスープを吸い込んでなくなっている。
衝動的にあからさまな苦笑いをする僕。
あ…そういえばレンジの中にもごはん入れたままだった。。
3時間も経ったごはんなんて、すでに冷たくなっているだろう。
全く、こんなときでもドジしかできない僕。情けなくて情けなくて大笑いした。
何の前触れもなく、大声で涙を流しながら大笑いをするしかなかった。
さっきまで1滴の涙も出なかったのがウソのように。。
翌日、僕は出勤途中のポストから、自分の手紙を書類に同封して投函した。
見上げた空は秋晴れ。僕の心とは裏腹にすがすがしい朝。
顔にピチャッと何かが落ちてきた。
「あ…」
指でそれをぬぐってみる。ハトのフンだった。
ダメだこれじゃ…もっと強い男にならなきゃ…
運の悪い男から脱却しなきゃ…
そして何事にも動じない男に生まれ変わらなきゃ!!
僕は口を真一文字に結んで職場への道を駆け足で進み始めた。
●森田卓からゆりかへの返信の手紙より
“書類に判を押しましたので、確認の程よろしくお願いします。
この2年間、こんな僕をよく亭主として盛り立ててくれたことを心から感謝します。
ゆりかと夫婦であった夢のような2年間は一生忘れることはありません。
初めて人前で僕のことを“主人”と呼んでくれたときの感激は今でも忘れません。
短い間だったけど、僕を選んでくれてありがとう。
僕と結婚してくれてありがとう。
僕と一緒に過ごしてくれてありがとう。
可愛いいずみとたくさん遊ばせてもらってありがとう。
どうか、二人が新しい人生を幸せに歩んで行けるよう、心から願っています。
大好きなゆりか。僕の人生でたったひとりの彼女であり、素敵なお嫁さんでした。
今まで本当に…本当にありがとう。
森田卓
こうして僕の結婚生活が幕を閉じた。
人は一個人として生きている以上、一生何かしらの物語が生まれては消えている。
たとえそれが平凡で気にも留めない出来事であろうと、あるいは波乱に満ちた複雑な出来事であろうと。。
でも平凡で慎ましやかな生活なんて、そう長く続かないものなんだろうか?
この僕が再び激しく感情を揺さぶられることになるのは、今から1年後の話。
当然だけど、この時の僕にはまだそんなことなど予期できるはずもなかった。
(完)
※これにてこの物語は一旦完結しました。
たくさんの方々のアクセス、コメント、ご愛読誠にありがとうございました。
そう遠くない時期に続編、
『突然の彼女3・ファイナルエピソード』
をスタートする予定です。
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