ネットの恋人
第2話
チャットフレンド
水口和代(みずぐちかずよ)がロビンと知り合ったのは、音楽カテゴリのチャット部屋だった。
そこは通常カラオケルームで、参加者のほとんどはアカペラか弾き語りで歌いに来るのを楽しんでいた。
もちろん和代もこの部屋の常連で、自分のストレス発散の手段としても利用している。
だが、参加者が皆歌うというわけではない。
中には聴き専(歌わずに音楽を聴きに来るだけの専門)の者も数人いる。
そしてロビンもその中の一人で、最初に話しかけて来たのは彼女からだった。
ある日、和代がいつものようにカラオケ部屋で歌い終わると、突然パソコン画面上にPM(プレイベートメッセージ)が開いた。
robin830:はじめまして。歌すごく上手ね。うらやましい。
kazupon_v:あ、はじめまして。ありがとう。あなたは歌わないの?
robin830:ええ。聴き専で心を癒してるの。かずぽんさんの歌に感動しちゃったからついPMしちゃったw
kazupon_v:(//▽//)そんなこと言われるとすごく恥ずかしいよ。でも嬉しい。ありがとう。
robin830:もし良かったらお友達になってくれない?早いかな?
kazupon_v:ううん。いいよ。あたしも家で寂しいときあるから色々話せたら楽しいし。
robin830:ほんとに?嬉しい!これからもよろしくお願いします。
kazupon_v:こちらこそよろしくね!
これがきっかけで、和代とロビンとは急速に親しくなり、親友とも言うべき仲になった。
知り合ってまだ間もない期間にも関わらず、和代はロビンに相談も含めて何でも話せるようになっていた。まさに意気投合とはこのことだ。ロビンは親身になって受け入れてくれる。
失恋から3年、やっと立ち直りかけている和代にとって、かけがえのないネットフレンドだ。今まではこのネットの世界にいることが、現実逃避しているような後ろめたさが少しはあった。
でも今は違う。ネットって本当に素晴らしいものだと和代は実感していた。
そんなある日のことだった。
いつものように、カラオケルームがお開きになったあと、和代はロビンとPMでおしゃべりをしていた。
だがこのあと彼女はロビンから突拍子もない提案をされることになる。
robin830:かずぽん、あのね。。言いづらいんだけど・・お願いがあるの。
kazupon_v:なあに?
robin830:あたしね、ネット彼氏にリアルで会いたいって言われたの。
kazupon_v:Σ('◇'*エェッ!?例のポンスケさんて人?
robin830:うん。でも・・会う勇気がないの。
kazupon_v:でも優しい人なんでしょ?相手はもう我慢できないでいるの?
robin830:いえ、まだそんな強引に誘われてはいないんだけど・・時間の問題だと思うの。
kazupon_v:ロビンは彼に会いたくないの?
robin830:あたし、ネットだけで充分だと思ってるから。
kazupon_v:そうなの?だってロビン独身でしょ?旦那さんがいるんだったら会えない理由もわかるけど。
robin830:実はあたし・・病気で長期入院してるの。今まで隠しててごめんね。かずぽん。
kazupon_v:Σ('◇'*エェッ!?そうだったんだぁ。。体大丈夫なの?
robin830:うん。今のところはね。これ以上は言えないの。勘弁して。
kazupon_v:そんなの気にしないで。誰にだって人に言えない事情があるものよ。
robin830:こんなあたしを見たら彼もきっと気持ちが萎えるわ。
kazupon_v:そうかなぁ・・?
robin830:だって彼にはあたしが明るくて快活なイメージがあるもの。
kazupon_v:でもさ・・このままどうするつもり?
robin830:だからどうしてもお願いがあるの。
kazupon_v:??
robin830:いずれ彼は必ずあたしに会わないと気がすまなくなるわ。だからそのときは。。
kazupon_v:それってまさか・・あたしに代役になれってこと?
robin830:ダメ?
kazupon_v:ひえー!(◎0◎)ダメよ絶対!!バレるって!!無理無理無理!
robin830:一生のお願い!
kazupon_v:こんなことしてロビンに何のメリットがあるの?益々自分が苦しくなるだけじゃない?
robin830:でも絶対会うのはイヤ!
kazupon_v:優しい人なら正直に言えばきっと事情を理解してくれるはずよ?
robin830:お願い!あたしの病気が治ったら必ず彼に正直に話すから。絶対治るように頑張るから!
kazupon_v:でも・・・声でバレない?
robin830:あたし、彼とまだボイスで話してないし、写真も送ってないの。
kazupon_v:そうなんだ。。珍しいね。付き合ってるのに。てか、あたしもまだロビンの顔も声も知らなかったわw
robin830:ごめんね。でも最近マイク買ったから次はボイスで話せるよ。
kazupon_v:入院中に抜け出して買いに行けるの?
robin830:う・・いえその・・親に買って来てもらったの。
kazupon_v:あぁ、なるほどね。
robin830:とにかくもしもそんな時が来たらお願いするわね。かずぽんはあたしのたった一人の親友だもん。
kazupon_v:・・・うん。。でもロビンの彼のこと、もっと知らないとリアルデートのとき会話が成り立たないわ。
robin830:それは・・・これから色々教えてあげる。
ロビンとチャットを終えた水口和代は頭を抱えて悩んでしまった。
「人を騙すことになるのよね。。ホントにそんなことしていいのかな。。」
良心の呵責に苛まれる和代であった。
「でもロビンは重い病気に苦しみながら必死に闘ってるんだし・・このくらいのことはしてあげるべきなのかな。。」
彼女はこの日、朝まで眠れない夜を過ごすことになった。
真面目で人の良い和代は、もちろん親友のロビンの言うことも信じて疑わなかった。
ロビンが病気で入院している事実などないことも知らずに。。。
(続く)
←1日1回ワンクリック有効です。応援(=´ー`)ノ ヨロシクです。
←こちらもお願いします。