やすら木

朗読・オーディオブック制作「やすら木」のページです。
朗読ご希望作品はコメント欄にてどうぞ。

とらおとねこまるのフランス紀行ミシェルブラス編

2008-08-02 08:26:57 | Weblog
翌朝、朝食をとってから、部屋に帰りテレビをつけると、空港の様子が映ったが、すぐに天気予報に変わってしまい、フランスはきょうの午後あたりから雨らしい。我々が来る前もずっと雨模様だったがねこまるが来たとたん、お天気になったのだ。さすが天照大神の異名をとる晴れ女ねこまるである。大きな事故ならまたニュースで取り上げるだろうと思って荷物の点検をしながらテレビを見ていたが、特に大きな事件でもなさそうである。
 バゲージをころがしながら、駅に着くと、窓口は結構混んでいる。そこで券売機で乗車券を買うことにしたが、現金は使えず、クレジットカードしか受付けないので、VISAのステッカーが貼ってある機械で指示通りに操作したが、ディスプレイにはAMEXかDINERSしか使えないとでてしまう。何かの間違いかと思ってもう一度試すが結果は同じで、仕方なくとらおの持っている提携カードを探し出しAMEXで操作をするが、やはり乗車券は出てこない。機械性能が悪いのかと思い、別の券売機に行き、同じ操作をするがやはり券はでてこない。2人で冷や汗をかきながら焦っていると1人の旅行者らしき青年が近づいてきて、パリ・ディジョン間の乗車券を差し出すではないか。英語は通じず、一瞬なにがなんだか分からなかったが、どうやら我々が立ち去った後の券売機にチケットが出ていて、それを持ってきてくれたらしい。ということは・・・案の定目の前の機械の中にも乗車券が出ていて、自動券売機のスピードが日本並みではなかっただけのことだった。青年にお礼をいって、ともかくTGVのホームに向かう。フランスの乗車券は発券後2ヶ月くらい有効なので、場合によっては人に売ることもできたのに、わざわざ教えてくれて助かった。本当に最後の最後まで皆の親切に救われた、とらおとねこまるであった。
 そして無事パリ行きのTGVに乗り込むと、車内はかなり混んでいる。指定券の番号の席に行くと、若い男が2席占領して熟睡しているではないか。3度番号を確認してから声をかけると、面倒くさそうに身を起こし、一つ席を空けただけで、動こうとしない。さすがにねこまるがむっとしていると「あ、2つともなの」ととぼけながら、自分の席へ移っていった、と思ったら「ミー、アゲイン」とかいいながら網棚の荷物を取りに来た。座席のまわりは散らかしてあるし、まったく失礼な男である。途中で車掌が検札に来たが、日本の車掌が愛想良く低姿勢なのに対し、目つきは鋭くまさに「検札」という感じである。やはり乗車券を買っておいて正解だったようだ。

 パリに着くと早くも雨が降り出していた。シャトルバスでシャルル・ド・ゴール空港に到着する。混雑している空港内でしばしば目に付いたのが迷彩服に自動小銃を携えた目つきの鋭い警備員であった。これに比べると成田空港の警備はないに等しいような気もする。テロへの警戒からか前回来たときより空港の警備は厳しくなっているようだ。チェックインをして出国審査の列に並ぶが、何があったのかなかなか動かず、列は長くなるばかりである。後で知ったのだが管制官のストライキだったようだ。フランスでは公共機関においてもしばしばストライキがあるらしいが、これはストライキが労働者の権利として広く国民に理解されているからかもしれない。出発に間に合うか少し心配になってきたが、ようやく審査カウンターがみえてきた。と、1人の女性がせっぱ詰まった様子で審査官に何か訴えている。良く判らないが、あの焦りようとゼスチャーから、どうやらバゲージをすでに預けてしまっていて、列に並んでいては間に合わないということらしいが、審査官は聞き入れない。するとそのマダムは次に、列の一番先頭にいる日本人ツアーの添乗員になんとか順番を譲ってくれるよう交渉を始めたが、審査官は窓を叩いて彼女を制し、列の後ろへつくよう命令した。気の毒な感じもするがこういう状況で一つ例外を認めると大変なことになるからだろう。我々は何とか出発に間に合ったうえ、機内はとても空いていて、2人で3人分の席を使うことができ、ゆったり過ごすことができて助かった。
 それにしても気になるのは日本人ツアー客の行儀の悪さである。自分の周辺に全然気を遣わず、荷物が通行のじゃまになっていようが、座席の脇にしゃがみこんで狭い飛行機の通路をお尻でふさごうが、お構いなしに仲間内だけに気を遣い、おしゃべりに夢中になっている。同国人だけに余計腹が立つのかもしれないが、これでは海外で日本人の評判が下がるのは当たり前である。と同時に、自分の周囲に全然気を配らないのはとても危険なことであるようにも思う。

 今回は星付きのオーベルジュから、安宿までいろいろな所に泊まり、ほとんどの昼食をピクニックランチとカフェですましたが、費用は中位のホテルに泊まるツアーとほぼ同じくらいで、好みの良いワインが飲めた分だけ割安だったが、準備もかなり大変だったし、全行程をとらおが運転してくれたので結果的にはツアーの方が安上がりという感じである。しかし、ツアーとは比較にならない貴重な体験をし、とても楽しく有意義な旅行となった。

 フランスの食が文化となり得ているのは、レストランという場で食を通して楽しい時を過ごすという習慣が根付いているからだと思う。もちろんまず店側が料理を含め誠意あるサーヴィスを提供することが大前提であるが、ゲストも、お互い軽く挨拶をしあったりして周囲を気遣ったり、サーヴィスに対し感謝の意をスマートに表したりし、サーヴィスはゲストにいかに快適に食事をしてもらえるかに気を配り、お互いに、心地よい時と場所を創り出し、楽しもうという気持があるからではないかと感じた。最近、日本でも飲食に関する情報が増えたのは良いことではある。しかし、ブームと聞くやピラニアのように行列をなして群がり、評論家のまねごとをして、あげくにその店を潰したり、質を低下させたりしてしまうこともままあるようだ。
 若者が大人の真似をしたり背伸びをしたりして、そういう行動に走るのはまだ仕方ない面もあるが、少なくとも子供を持つような年齢にある人は、店を育てるくらいの気概が欲しい。自分好みの新しい店に出会ったら、料理やサーヴィスの良いところをほめながら、それとなく自分の好みやお客はどうしたら喜ぶかを、例えばカウンターのこじんまりした店に対し、ホテルのような慇懃なサーヴィスを求める的はずれな指摘ではなく、店の規模や質を見極めて適切に伝えていく。そうすれば店主はそのお客を歓待こそすれ、決して粗末にはしない。個性的な良い店は結局良いお客が育てるものだし、良いサーヴィスを受けたければ、やたらに評論家ぶった態度を取るのではなく、その場の雰囲気を心地よいものにする良いお客になることだ。最近、そのような「粋なお客」が少なくなってしまったのはとても残念なことである。この「粋」という文化をになっていたのが、壮年の殿方だったのだが、近頃この方々の食生活ほど悲惨なものはないらしい。大量生産大量消費の時代が終わった今こそ、皆で「粋」を取り戻したいものである。

 そして何といっても特筆すべきは、丁寧に道を教えてくれた紳士やマダム、駐車券を譲ってくれたマダム、ガイドまでしてくれたマドモワゼル、駅で切符が出ていることを教えてくれた青年など、多くの人々の親切である。慣れない異国を旅した我々にとって彼らの親切は何よりの温かいお土産となり、人間の本質は国によって異なる訳ではなく、単なる習慣の違いがときに摩擦を生むだけのことだと思った。また、欧州の中でもフランスは特に個人主義色の強い国であるが、真の個人主義とは、他人に無関心で、関わりを避けることではなく、公権力の介入を極力排するため、他人の行動を尊重しつつ、個々人が出来る範囲でお互い助け合うことではないかということも今回の旅を通じて教えられた。現に我々も、見知らぬ人から、しばしば時間を教えてくれ、とか、書くものを貸してくれとか、気軽に声を掛けられた。
 もちろん彼らの親切は我々が旅人であるがゆえで、隣人として利害を共有することになれば事情は変わってくるのかもしれない。しかし、もし、将来不幸にして日仏両国が争うことになっても、ねこまるは決して彼の国の人々を憎むことなく、両国政府の無能を呪うばかりだろう。

 こんなことを考えながらうつらうつらしていたら最後の機内食サーヴィスが始まった。日本そば、ご飯、チーズ、パン、ラザニア、果物、という献立に度肝を抜かれるが、日常ではなかなかできない体験ではある。
 こうして、旅の締めくくりにふさわしい「異文化の激突」、もしくは「ねこまるの頭の中(混沌)」のような食事を最後にフランス旅行は終焉を迎え、この紀行も幕引きとなった。
それでは皆様 C'est fini. Au revoir(これでおしまい。さようなら)!!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする