背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

Vergin Snow (1)

2022年01月26日 05時34分18秒 | CJ二次創作
大地を揺るがす轟音がした。
いや、それは地鳴りだった。
足場が、崩れる。身体が揺らぐ。
ジョウは震撼した。
ーー雪崩!
状況を察するより先に、彼は叫んでいた。
「逃げろ!」
そして、あまりのことにすくんで棒立ちになっているアルフィンに飛びかかる。
分厚い雪の塊が、津波のようにのたうちながら二人に襲い掛かる。
悲鳴を上げるいとまさえ与えず、容赦なく白い牙を引いた。
それは山肌を恐ろしいほどの勢いで滑り落ち、雪原に顔を出しているもの全てさらって、裾野へとまさしく一気になだれ込んでいった。
「ジョウ! アルフィン!」
ヘリの操縦桿を握り、ホバリング飛行を上空で必死に維持しながらタロスが吼えた。
拡声マイクから、怒号が吹雪の華に散る。
「ジョウ!」
悲鳴のような呼び声が山あいに潜む闇に吸い込まれ。
後には冴え冴えと高い冬の夜空と、耳を聾する静寂。ただそれだけが残されたーー。


飛び込みの依頼は人命救助だった。
ウインターリゾート地として有名な雪山で、スキー中遭難者が多数出た。何らかのアクシデントで滑走ルートを外れてしまったというのだ。
現地はパニック状態だが、悪いときに悪いことは重なるもので、目下ひどい悪天候のため地元消防やレスキュー部隊が手も足も出ない状態だという。
天気の回復を待っていては、人命に関わる。しかし、二次災害を引き起こすおそれのあるうちは、公的機関には出動命令はかけられない。
二進も三進もいかなくなったときだった。クラッシャーを雇おう、という声が上がった。
消防もだめ、レスキューもだめ。しかし彼らなら、金さえ積めばこの雪の中でも捜索に当たってくれるかもしれない。
遭難者の中に、ある政治家の御曹司が入っていたのも幸いした。その政治家がアラミスにごり押しした。圧力をかけた。
そして、そのリゾート地に一番近いポイントを航行していた、ジョウのチームに緊急出動要請(スクランブル)がかけられたのである。
人命救助のためだけに、オファーを受けたのではない。
状況の説明を受け、登山の地形を立体映像で確認し、当地の天候、風圧、本部から借りられるヘリの装備など、調べられるものはすべてチェックした。そして、
「すさまじい吹雪で視界は限りなくゼロに近いそうだ。視認はまず無理。ヘリを飛ばすとしても計器とお前の勘に頼るしかない。
どうだ、いけるか」
ジョウはタロスに訊いた。タロスは他人事のような口調で返した。
「あたしの勘は天気には左右されません。どっちかっつうと問題は、ビバークしてるはずの遭難者の体力が、吹雪の中でどこまでもつかってほうですね」
こうしている間にもどんどん彼らは過酷な状況に追い込まれている。
タロスは言外にそう含ませていた。
「やるか」
「やりましょう」
タロスは明快に領いた。ジョウは弾かれたようにリビングのソファから立ち上がる。親指をぐいと突きたてた。
「よし、今から急行する。アラミスに返答しろリッキー。【GO】だと」
「あいよ」
遭難者を一刻も早く教わねばという思いももちろん頭にあったが、それよりも彼らを衝き動かしたのは、この困難なミッションにどう挑むかという点だった。レスキューチームが手を出せないほどの悪天候。運に見放されかけている遭難者たち。彼らを無事発見、救出し、家族のもとへ連れ帰ること。自分たちに与えられた使命の重さが重いほど、より困難な状況下で高度な技術を求められれば求められるほど、ジョウをはじめとするチームのメンバーは血を滾らせるタチだった。
了承の返事をアラミスに流し、早速くミネルバ>は現地に向かった。
熱源探知機を装備した最新鋭ヘリを本部から借り受け、吹雪をかいくぐって捜索にあたること3時間。すでに時刻は23時を回り、事故が起こった山岳付近には漆黒の闇の帳を何重にも張り巡らされたかのような完璧な夜が訪れていた。


ときおり突風に煽られ、操縦桿を奪い取られて山肌にもっていかれそうになる場面はあったものの、さすがはアラミスで一、二を争うパイロットのタロス。
「こなくそ!」
半ば力業でヘリを操り、遭難地点と思われるポイントを低空飛行することに成功していた。
そして、ようやく、熱源の赤いサーモスタッドがスクリーンに現れた。
「いたわ! 百メートル下の岩場の陰、およそ十五人、ひとかたまりになってる。生死は今のところ不明」
アルフィンが告げた。
「タロス!!このポイントを維持したままで高度を下げられるだけ下げろ。リッキーは下部ハッチを開けて緊急用のワイヤーの用意だ」
「まかせて!」
「アルフィンは回収後の難者のケアの準備を。ありったけの毛布とドリンク、もしかしたら点滴と栄養剤も要るかもしれない。それと凍傷に掛かってる人のために、教急の処置ができるように医療バックも用意しておけ」
「わかった」
ジョウの指示でメンバーが動く、それぞれの仕事を迅速に、かつ正確にこなしていく。
そして数分後。
「いた! あそこだよ!」
ハッチを開け、外に身を乗り出すようにしていたリッキーが、風雪に小さな身体を振られながら叫んだ。
ヘリのサーチライトがリッキーの指し示す場所を白々と照らし出す。
ライトが強すぎて、真昼の太陽を当てられたように視界が一面光に覆い尽くされている。それでも、すさまじい風とともに間欠的に下から吹き上げ、ヘリの中まで舞い込んでくる雪のおかげで、ヘリの中もあっという間に白に染め上げられる。
機体を打つ吹雪の切れ間から、いくつかの色彩がのぞいた。
遭難者だ! ジョウは視認した。わずかに露出した岩場、そこに身を寄せ合うようにしている色とりどりのスキーウエア、見つけた!
「対象、発見。依然生死は不明、これから作業に入ると無線で本部に伝えろ、タロス」
「了解。誰が降りるんです」
「俺とアルフィンで出る。遭難者には女性も入ってる。万が一のためだ」
行くぞ。アルフィンを目で促すと、ひとつ頷いてシートから腰を上げた。
「リッキーは吊り上げ作業を頼む。ワイヤーとフックの噛み合せを再確認しろ。すごい風だ。巻き込むな、しくじるなよ」
「わかってるよ」
そしてジョウとアルフィンは命綱を腰に巻きつけ、ヘリのハッチから外へ飛び出した。


「生きてるわ! でもみんな意識を失ってる」
雪に突っ伏すように倒れている女性を抱え起こしながら、アルフィンが言った。強風のせいで近くにいるのに声が途切れ途切れにしか聞こえない。
「こっちもだ、息はある」
「凍傷を起こしかけてる・・・・・・体温も低下。早く引き揚げてあげないと」
「女性を優先させる。フックをしっかりと固定して、牽引するぞ」
予想以上に困難な作業となった。猛吹雪の中踏ん張っているだけで消耗するのに、意識を失った人間の救助活動に当たるのは予想以上の重労働だった。あっという間にジャケットの中は汗だくになった。しかしアルフィンも弱音を吐くことなく、ただ目の前の救助作業に集中した。
ふと、一瞬だけ風が止み視界がクリアになったとき、アルフィンが手を止めて上体を起こした。
「ジョウ、洞穴があるわ」
見ると、山の斜面に、高さニメートルほどのいびつな形に口を開けた天然の洞穴が穿っていた。
「どうして洞穴があるのに、この人たちはあそこで雪を凌がなかったのかしら」
目に入る雪と汗を拭いながら、アルフィンが訊いた。
「たぶん、救助隊が来るのを待ってたんだろう。洞穴の中に隠れていると、空からの捜索で見過ごされるおそれがあると思って。
そのうちに、体力と体温が低下して、意識を失ったんだ」
30分後、ようやく14名の遭難者を全てヘリに収容した。
「おつかれさんでした!  今、引き揚げてあげますからね」
ヘリの拡声マイクからタロスのバリトンが降って来る。
「みんな意識を取り戻したよ。だいじょうぶ、命に別状はない。オールクリア」
リッキーの声に取って代わる。
「あ、てめえ、よせってんだ。操報がぶれんだろ」
マイクを取り合う二人の姿を思い浮かべ、ジョウとアルフィンは目を見交わして、ふっと笑った。
「いいから早くここから上げてくれ。ひでえ寒さだ。俺たちも凍えちまう」
クロノメーターに向かってジョウがそう返したとき、いきなり爆弾が投下された。
「でも兄貴、もうちょっとそのままそこにアルフィンと二人でいたほうがいいんじゃない?で、きちんとごめんって言って、仲直りしないとだめだよ」
ジョウは硬直した。アルフィンも。
「アルフィンもあんまし意地になってちゃだめだってば!! 折れるところは折れないとね」
「な、なんですってえ」
「リッキー!」
二人が肩を怒らせて、何かを言い返そうとヘリを仰いだそのときのことだった。
雪崩が起こったのは。

「2」につづく
⇒pixiv安達 薫


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2 コメント

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おはようございます (ゆうきママ)
2022-01-26 08:46:46
おはようございます。
新作始まりましたね。
言い合いをしてる暇があったら、ヘリに引き揚げれば、事なきだったかも(タロスとリッキーは、反省するよね)洞穴に逃げ込めればいいけど。
映画にもなった八甲田山の遭難(「天は我々を見放した」)は、この時期なので、ピッタリです。
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八甲田山 怖いですね~ (あだち)
2022-01-26 14:01:00
>ゆうきママさん
前回レスできずにすみません、ようやくこちら取り掛かることが出来ました。実はバレンタインSSになっております。ゆったり進める予定ですのでお付き合いのほどよろしくお願いします。
しかし、怖い映画です。八甲田山。。。
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