背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

Vergin Snow (2)

2022年01月28日 02時20分34秒 | CJ二次創作
いきなりだった。まったく唐突に白い塊が視界を塞いだと思ったら、次の瞬間わずかなタイムラグを伴って、地鳴りが耳をつんざいた。
雪崩だ、巻き込まれる!
と思考する前に、ジョウは動いていた。身体の方がコンマ数秒先に反応した。
とっさにアルフィンを抱きかかえ、近くに見えていた洞穴に飛び込んだ。
後のことはよく憶えていない。気がつくと二人は真っ暗な空間に閉じ込められていた。
「参ったな……」
完全に雪に封じ込められ、手も足も出なくなった。外部と遮断された。
いっときは雪を手や銃で掻いて脱出しようと試みた。が、入り口を覆っている雪壁の厚さが数メートルにも達することが密度測定した結果分かり、それもすぐに諦めた。幸い、翌朝までなら洞穴の中の酸素はもつようだと判明したのが救いだ。
雪隠詰めの状態でも今のところ外部との交信は取れている。こちらの場所もクロノメーターを通じてくミネルバ>でおおよそ捕捉出来ていた。
あの後、タロスは断腸の思いで救出した難難者たちを本部まで輸送した。とって返してジョウたちを救いだそうとしたが、天候は更に悪化。とてもではないが、いま一度ヘリを飛ばせる状態ではなくなった。
そこへジョウから無線が入り、洞穴に逃げ込みひとまず無事だということで、ほっと胸を撫で下ろした。それから本部のお偉方にかけあって、最短で明日の朝、救助チームを洞穴に派遣する手はずを整えた。
「そういうわけです。あたしとしては一刻も早く助けに行きたいとこなんですが、ヘリを押さえられてしまって手も足も出ません。朝方天候が回復したら急いで駆けつけますんで、なんとか今夜だけピピバークして凌いでくだせえ」
「わかった」
しきりに謝るタロスに、ジョウはそう答えることしかできなかった。
リッキーが声をしょんぼり落として「ごめん、兄貴」と通信に割って入った。
「俺らがあんなこと言ったから……山で、不吉なこというんじゃなかった。ごめんよ」
お前のせいじゃない、気にするな、とは言わず、ジョウは冷酷にこう告げた。
「俺たちに何かあったら、死んでも恨むからな、リッキー」
「えええっ、そ、そんなあ~」
ジョウは舌を出して通話をぶちっと切った。これぐらいの仕返しはいいだろう。
さて、と。
あすの朝まで、教助隊は来ない、か・・・・・・。
心の中で確認するように呟きながら、背後を肩越しに見送る。
心細そうに両手を胸元で握っているアルフィンと目が合った。
ジョウは閉じ込められた洞穴を見渡す。高さは二メートル、奥行きは3メートルちょっとというところか。さほど広くはない。上背があるジョウの頭が、上の壁にくっつきそうだ。
問題は冷えだ。露出した岩肌からじっとりと冷気がにじみ出てくる。
でかい冷凍車の中にいるようだ。歯の根が合わず、カタカタと音を立てるほど寒い。真冬の雪山だ。日中でも0度を越すかどうかという気温なのに、こんな猛吹雪の夜なら氷点下に達しているのは間違いない。
火を起こして暖を取ろうにも入り口が雪で塞がれている為、ヘタをすると一酸化炭素中毒を引き起こすおそれがあってどうしようもない。
「寒いわ」
アルフィンが呟いた。吐く息が空気に溶けこまず白く視界に残る。そして無意識に自分で自分の肩を抱いた。じっとしていられない。がたがたと身体が震える。それを押しとどめるように、アルフィンはきゅっと手に力を込めた。
ジョウは手元に残ったクラッシュパックを開けた。それなりの重さはあったが、救助のときも下ろさず背負っていてよかった。脇に置いていたら雪崩に流されていただろう。
「アルフィンはこれを使え。耐熱シートも」
そう言ってジョウは圧縮型の寝袋と耐熱シートを手渡した。どちらも薄手だが、特殊加工してあるおかげで性能は抜群だった。耐熱シートは熱を遮断するだけでなく、くるまると体温を外に逃がさないようにできている。
しかしどちらも一組しかない。
アルフィンは訊いた。
「.....ジョウは? どうするの?」
「俺はいい」
ジョウはクラッシュバックを閉じながら首を振った。アルフィンの眉間が翳る。
「いいって……。だって」
「俺は頑丈だから大丈夫だ」
説明になっていない説明に、アルフィンは呆れた。
「いくらあなたが頑丈だからって、氷点下よ、寒すぎでしょ」
「いいから早くそれに入って寝ろ。凍えるぞ」
そういってジョウは壁際にどかりと腰を下ろす。胸の前で腕を組んだ。
アルフィンは手の中、銀色に鈍い光を放つシートに目を落とした。
しばらく何か考えていた様子だったが、ややあって顔を上げジョウに向き直った。
「じゃああたしもいらない」
そう言って、足元に二つ、急場しのぎの防寒具を置く。
「アルフィン」
非難するようにジョウが呼ぶ、でもアルフィンはあえて聞こえないふりで反対側の壁際に座り込んだ。
ジョウはアルフィンを睨みつけた。全く臆する風もなく、アルフィンもジョウを睨み返した。
「・・・・・・」
ますます、周囲の気温が下がっていく気がした。
リッキーにからかわれたとおり、ふたりは目下冷戦中だった。
仕事に私情を持ち込むほど見境を失ってはいなかったが(却って私語なくてきぱきと仕事をこなし、普段よりも効率よく片付けられたとも言える)、ここ数日はろくに口も利いていない。
関係が最悪の時に、まるでそこを狙ったかのように不測の事態に巻き込まれたのだ。
雪山に閉じ込められて、一晩のビバーク。
ふたりきりで。
「何意地を張ってるんだよ。風邪引くだろ。さっさと入れよ」
久しぶりに交わす言葉が、こんなに寒々しいものだとは。内心舌打ちしながらそれでもジョウはそう言うしかできない。さっきの作業でかいた汗が冷え始めていた。じっとしているだけで体温がじわじわと奪われていくのが分かった。
「意地なんて張ってないわ」
「張ってるだろ」
アルフィンがじろっと上目で睨みつける。寒さのせいか、顔が蒼白だ。唇にも血の気がない。
「それはあなたでしょ」
ジョウよりも氷の刃を忍ばせた声でアルフィンが返した。
「俺が?」
「そうよ。頑丈だからなんて。ばっかみたい、無理しちゃって。
明日の朝まで一晩凌げるか凌げないかってときに、そんな風に突っ張ったってどうしようもないでしょう」
「俺が無理しないでどうすんだ。君に無理させろって言うのか」
あさってのほうを向いたまま、ジョウが不満げに呟く。
アルフィンは空を仰いだ。
「だーかーらー、かっこつけないのって言ってるのよ。あなたってばいっつもそう。折角間一髪雪崩に巻き込まれないで助かったのに、凍死しちゃなんにもならないでしょ」
「それはそうだが、でも寝袋は一つしかないんだぜ」
「見れば分かるわ」
「だから君が使えって」
ジョウがうんざりした気持ちを声にんじませて言った。
「なんでよ。一緒に使いましょう」
あっさりと、当たり前のことを口にするような口調で言った。
「ああそうか、なるほど一緒にな、そりゃあいい」
また減らず口が返ってくると予想していたジョウは、そうぞんざいに言ってから硬直した。
ーーえ?
アルフィンをぽかんと見る。
「あたしだけなんていやよ、寒いところでそうやって意地張ってないで、あなただって入ったらいいじゃないの」

「3」につづく
⇒pixiv安達 薫

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2 コメント

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おはようございます (ゆうきママ)
2022-01-28 09:38:11
この二人が、なんで喧嘩しているのか分からないけど、二人で入ればいいじゃん。相手が、タロスなら、無理かもしれないけどさ笑)
まぁ、ジョウの忍耐が逆に試される!?
返信する
なんで喧嘩してるんでしょうねえ・笑い (あだち)
2022-01-30 06:18:45
この先、種明かししていきますが。喧嘩に関すると、ジョウの方が折れそうですね、なんとなく。仕事では引かないでしょうけれど。
返信する

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