背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

深夜の相談ごと

2022年01月05日 22時32分30秒 | CJ二次創作
「こんばんは」
ジョウは、モニター画面に向かって挨拶した。いつもより少し硬い声で。
画面の向こうの女性は、「こんにちは」と美しい笑みを浮かべて彼に返した。
ジョウは、「あ、」とそこで気づく。時差があるのだった。
すぐに「すみません。そっちは今、昼でしたか」と言い直す。
「いいのよ。どちらでも、そちらは夜なのね?」
「はい」
「あの子はもう眠りました?」
「ええ」
ふふっと口許に笑みを蓄えたまま、彼女は言った。
「寝付きがいいの、とても。知ってるでしょ」
「はあ・・・・・・」
どうも、調子が狂う。
ジョウは、この年代の女性とサシであまり話した経験がない。自分の母親は早くに他界した。顔は、写真でしか見たことがない。
写真で見ただけでも、きれいな人だと思う。でも、どこか映画女優のブロマイドを見ているような感じで、自分と血が繋がっている人だと実感がわかなかった。
仕切り直しのつもりで、ジョウは再度モニターに向き直って居住まいを正す。
「わざわざすみません。ハイパーウエイブ通信で呼び出すなんて」
公務で多忙なのを知っているのに、無理を言って時間を割いてもらった。ジョウは申し訳なく思った。
女性はゆっくりと瞬きをした。それだけで、いいえ、と伝わる優雅な仕草だった。
「いいんです。あなたが私に連絡を寄越すなんて、よっぽどのことですもの。前もってそちらで時間を決めてくれたからよかったわ」
で、どうなさったの、と改めて尋ねられる。
「ええと、そのう、実は」
改めて訊かれると、まごつく。
どうやって切り出そうかと思っていると、
「アルフィンのことね?」
ずばり、言い当てられる。
ジョウは「う」と詰まった。
モニターに映る女性は、エリアナ王妃だった。アルフィンに似た面差しで、穏やかな目でジョウを見つめている。――母親なので当たり前だが、金髪に碧い瞳、白い頰、すべてアルフィンに通じるものがある。
おそらく、数十年経ったらアルフィンもこのような女性になるのだろうなと思わせる。血のつながりというものの不思議さ。
ジョウは、そんなことを考えながら、「あの、実は」とようやく切り出す。
「今度の水曜日、1月12日、アルフィンの誕生日なんですけど。その・・・・・・何をプレゼントすればいいのか、アドバイスをくれませんか」
お願いしますと頭を下げた。


アクセサリー、洋服、化粧品? それとも、形に残らない思い出のようなもの? 旅行とか、体験型のアクティビティ?
何がいいだろう。何がほしいだろう。
アルフィンが好きなこと、好きな物はいっしょに暮らしているからなんとなくわかる。でも、いざ誕生日プレゼントとなると、話は別だ。一年に一回の大切な日。それにふさわしい物を贈るとなると・・・・・・悩む。
「本人に直接訊くってのもありじゃない?」
あまりジョウが何日もうーむと悩んでいるので、見かねたリッキーが声を掛けた。
「本人って、アルフィンにか」
「そうだよ、他に誰がいるんだよ」
少しあきれ顔で、リッキーの方が年上のような口調で言う。
「アルフィンに訊けばいいじゃん。そうすりゃ、一発で解決。違う?」
言われたジョウはむすりとして腕を組んだ
「それができたら、とっくにしてる」
「なんでしないんだよ?」
「そりゃお前・・・・・・。かっこ悪いだろ。サプライズだからいいんだよ、こういうのは」
「――」
リッキーは目を丸くしてジョウをまじまじと見返した。
ほんのりと頰が赤い。照れくさいのか、リッキーと目を合わそうとしない。
リッキーは声を上げて笑った。
「サプライズかあ、そっか、そっか。兄貴はアルフィンがプレゼントもらってびっくり仰天して、その後めちゃくちゃ喜ぶ顔が見たいんだな」
だからそんな渋い顔して何日も考え込んでいるんだー。にやにやとからかいの色を目に浮かべて見やる。
「ほっとけ」
ぶすっとしながらそっぽを向いてジョウは言う。リッキーは、
「兄貴はかっこつけだな。――あ、そうだ。俺らいいこと思いついたぜ」
ぱちんと指を鳴らす。
「アルフィンのことなら、アルフィンに一番詳しい人に訊けばいいじゃん。ね、そうしなよ」
「アルフィンに一番詳しい人?」
ジョウは首を傾げる。
リッキーはにやあ、っと口角をつり上げて見せた。


・・・・・・そして、冒頭に戻る。



エリアナ王妃はにこにこと満面の笑みをジョウに向けている。
真っ赤になったジョウは、ばつが悪そうに視線を逸らした。
「なんです」
「いいえ、ごめんなさいね。――ふふ」
ちょっと、と口許を指で押さえる。上品な仕草。
「なんだか嬉しくって。つい、ね」
「・・・・・・」
ジョウは押し黙るしかない。
王妃は続けた。
「あなたが、あの子への贈り物をあれこれと悩んで、決めかねて、悩んだ末に私にこんな夜更けにハイパーウエイブ通信を使ってまで尋ねてくれたことが、なんだかとっても嬉しいの」
「・・・・・・夜更けはこっちだけで、そっちは昼なんですよね」
ぶすっと言い返して、あ、と舌打ちしたい気になった。
しまった、何を俺は、子どもみたいに拗ねたことを言ってるんだ。絡む相手が違うだろ。
いや、自分からお願いしておいて、からかわれた気になってふて腐れるなんて、俺はあほか。いくつだよ、いったい。
ジョウはぐしゃっと髪をかき上げて画面の前、突っ伏した。
急にジョウのつむじがアップになったので、王妃は驚いた様子で「ジョウ? どうしました」と身を乗り出す。
「いえ、――すいません。何でもないです」
ほんと、申し訳ない、と前髪をごしごしを拳でしごく。
「・・・・・・だめだなあ、俺、全然ですね」
我ながら情けない声が出た。
甘えてしまってるんだな。この人がまるで自分の母親みたいな年齢で、包む込むようなあったかさがあるから。
「こんなつもりじゃなかったんですけど。取り繕えないですね。
王妃も心配でしょう。こんな男のところでアルフィンは暮らしてるのかって」
知らず、自嘲気味の口ぶりになる。
「・・・・・・ジョウ」
王妃は、変わらず優しい微笑を目元に浮かべたまま彼に言った。
「全然心配などないわ。あの子がいま、とても幸せで充実しているのだということがわかる。伝わってくるの」
あなたを見ているだけで、そう結んだ。
「俺を?」
「ええ。わかりますよ。アルフィンが一番喜ぶプレゼントが知りたいのね、ジョウは。
いいわ、とっておきのを教えてあげる」
気持ち、内緒話をするように王妃は画面に顔を寄せた。
どき、っとジョウの胸が鳴る。その仕草があまりにアルフィンに似ていて。
「いいこと? 一度しか言わないからしっかり聞いてね。ジョウ」
「はい」
ジョウは緊張した面持ちで、顎をわずかに引く。
「それはね、――あなたが私に、深夜ハイパーウエイブ通信で誕生日プレゼントを何にしたらいいかナイショで相談してきたってことを、あの子に教えてあげることよ」
アルフィン、とっても、とっても喜ぶはずよ、王妃はそう言って笑った。
彼女の娘とそっくりの花がほころんだような笑顔で。



1月12日。ジョウがアルフィンの誕生日に何をプレゼントをしたのかは、内密に。
でも、とびきりの笑顔を見せ、飛び上がって喜んでジョウに抱きついたところをリッキー、そしてタロスがばっちり目撃している。


END

少し早いですが、お誕生日おめでとうございます。姫君。
姫のバースデイのお話なのに、彼女が全く出てこない話を書きました。割と気にいっています。笑

⇒pixiv安達 薫

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1 コメント

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おはようございます (ゆうきママ)
2022-01-06 08:56:33
まさかの王妃に相談(笑)
アルフィンが、一番喜ぶプレゼントは、
プロポーズの言葉だと思うけど。
何はともあれ、姫のご機嫌が麗しくて、よかった。
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