背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

a Happy New Year! 【前編】

2021年12月28日 01時15分25秒 | CJ二次創作
「稼動再開まで約60分程度かかります。それまでなんとかその場でしのいで下さい。
できるだけ速やかに出られるように手を尽くしますので」
エレヴェータ会社の技術スタッフは電話越しにそう言った。
まだ若い男の声だった。話しぶりから、縁のないファッション性の高い眼鏡をかけているような、そんなイメージの男の姿が浮かんだ。
「60分か。……結構かかるな」
ジョウがハイカラーのシャツの襟元に指先を突っ込んでぐいと緩めた。スーツの上着から袖を抜く。
アルフィンが壁にもたれながら口を尖らす。
「ああ、パーティが始まっちゃう」
「仕方がないさ。アクシデントだ」
「アートフラッシュがあったら、壁をぶち抜いて外に出られるのにね」
可愛い顔をしてしれっとすごいことを口にする。ジョウは「物騒だなあ」と肩を竦めた。
今日は12月31日。一年の締めくくりの日。
2×××年のニューイヤーカウントダウンパーティにジョウのチームは繰り出した。
普段ならパーティなどにはなるべく足を向けないように努めているジョウだったが、ド・テオギュール銀河連合主席じきじきの招待とあっては無下にもできない。暗殺未遂事件以来、懇意にしてもらっている義理もある。
しっかりとブラックタイ着用で、ジョウたちは指定されたホテルまで出かけた。タロスとリッキーがリザーブしていた部屋を現いてくるというのでフロントで別れ、アルフィンとパーティ会場に先乗りしようとしたところだった。
乗っていたエレベータが30階を過ぎたあたりでいきなり停止した。
ガタン、という音ともに大きく箱が揺れて照明が消えた。
ふっと間に閉ざされる視界。電力ダウン。
「な、なに?」
思わず、アルフィンが声を上げた。それを追いかけるように、予備電源が作動した。
LEDライトが点灯し、アルフィンの不安そうな顔が、青白く浮かび上がる。
今宵、アルフィンは肩をむき出しにしたデザインの白のロングドレスに身を包んでいた。金髪もアップにしていつもより大人っぽい。かたちのいい鎖骨に陰が生じた。
「ジョウ」
「静かに」
身構えながらジョウは様子を窺う。かすかな揺れはあるものの、エレベータはとりあえず静止している。予備を除いて電気系統は完全にストップしているようだが、不穏な物音もしない。ジョウは適当にフロア表示のボタンを押してみたが、うんともすんとも言わない。沈黙を守ったままだった。
息を詰めて自分を見ているアルフィンに目で領いた。
「停電かもしれない。外に繋がるかやってみよう」
ジョウは扉の脇についている緊急時用のインターフォンを取り上げた。


幸い、管理センターにはすぐに繋がった。担当者は、ホテルそのものは停電にはなっておらず、エレベータになんらかのトラブルが発生したらしいと口早に言った。マニュアル本をめくるページの音が電話越しに聞こえてきそうだった。
「テロややばい組織の襲撃とかじゃないんだな? 主席を狙った」
「はい。その形跡は今のところないとのことです。ですが、主席の護衛担当に連絡は入れました」
「レスキューや、SWATみたいな緊急チームへの出動依頼は?」
「手配済みです」
ジョウはひとまず安心した。純粋なエレベータの故障ならいい。
高層階に宙ぶらりんとは、あまり居心地がよいとは言えないが。
「そっちから俺たちが見えるか」
頭上についているカメラに向かって手をかざしてみる。が、返事ははしかばかしくなかった。
「フォンは生きているんですが、カメラは動いていないようです。
こちらからは中の様子が見えません。ブラックアウト状態です」
「そうか」
「そこにいらっしゃる方のお名前と性別、年齢をお聞きしたいのですが」
「閉じ込められているのは二人だ。俺はクラッシャージョウ、はたちだ。もう一人はクラッシャーのアルフィン。18才。どちらも連合主席の主催するパーティに向かう途中だ」
「それは誠に申し訳ありません」
担当者は恐縮した。
「謝るより先に技術者にスクランブルをかけてくれ」
ジョウが言った。


駆けつけたエレベータ会社の技術スタッフは、制御装置に異状が生じたらしいと突き止め、復旧までの見通しを言った。
「60分です」と。
一時間の缶詰状態は長い。が、待つより他にない。
ジョウは諦めて床に腰を下ろした。
今、自分たちにできることは作業が終わるのを待つことだけだ。
ブラックタイ着用ということで、今夜ジョウはクロノメーターを身に着けてこなかった。携帯は、いつものように忘れて不携帯。タロスたちに連絡を取りたくても、手段がない。
アルフィンも、小さなパースに化粧品とハンカチ程度しか入らず、携帯電話は<ミネルバ>に置いてきた。
運が悪い。
仕方がなくさきほどの管理センターの担当者に、メンバー宛にメッセージを頼むことにした。
「アルフィンとエレベータに閉じ込められたからパーティに遅れる」
この上なくシンプルな伝言だ、と自虐的に思うジョウ。
ほのぐらい非常灯の光は、やや緑がかっていてそれにさらされているだけで気が滅入ってくる。
これからパーティだとうきうきしていたアルフィンはなおさらしょげていた。
座ったまま、ヒールをするりと脱ぐ。
「あーあ、一年の最後の最後に、こんな目に遭うなんてついてないわ」
素足になって、しなやかな脚を伸ばす。
ドレスのスリットは深々と太ももの付け根まで切れ込んでいる。そのせいで、布地の狭間から艶めかしい生脚がのぞいた。
ドレスの衣際れの音にジョウの心が騒いだ。目が、自然にスリットの間に吸い寄せられてしまう。
「普段の心がけがいいからさ」
そう返すと、
「何よ、あたしのせいだっていうの?」
アルフィンはふくれ、ヒールの片方を掴んでショウに投げつけた。もちろんふざけて。
彼はなんなくそれをキャッチして笑った。
「高かったんだろ、投げるな」
「靴だけじゃないわよ、この日のためにドレスだって宝石だって新調したの。
あーあ、なのになんでこんなことになるの?  カミサマって意地悪」
拗ねた様子で膝を抱える。と、完全に太ももが露わになった。
「・・・・・・そんなにふて腐れることでもない」
ジョウはアルフィンの靴を置いた。コトリ、と音がする。
「?」
「新年を迎える瞬間に、エレベータに二人きりってのも、案外オツかもしれない」
きょとんとしているアルフィンに言って、ジョウは彼女との間を詰めた。
「え」
足音なく獲物に忍び寄る肉食獣の目。ジョウの目は今それになっている。
どきっとアルフィンの胸が騒いだ。思わず身を引いた。背中が壁に当たる。
「60分、ここから出られないんだったら時間は有効に使おうぜ」
ジョウは屈んでアルフィンに目の高さを合わせ、じっと見詰めた。
もの言いたげな顔つき。でも、わざと言わない。
「有効って?」
背中を壁にぴたりとくっつけて、アルフィンは訊く。なぜか、声が震える。
ジョウは口の端に笑みを浮かべた。
「年が変わる瞬間に、君を抱いているのも悪くない。だろ?」

(後編へ)

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2 コメント

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Unknown (おすぎーな)
2022-01-01 21:26:57
遅ればせながら、明けましておめでとうございます~🎵
投稿ありがとうございます😆
わぉ😍
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新年明けましておめでとうございます (あだち)
2022-01-02 07:28:13
おすぎーな様にお会いできたのも 昨年は私にとって嬉しい出来事でした。ことしもよしなによろしくお願いします。二月の新刊も楽しみですね♪
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