背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

愛の告白

2024年01月06日 20時49分35秒 | CJ二次創作
「兄貴、前に言ってたBRディスク、貸してあげる。はいこれ~」
リッキーがアルフィンがいないことを確かめて、パッケージを手渡す。
前に言ってた?なんだっけ。と首をひねりながら受け取ったジョウが、表を見てぎょっと目を剥く。
とっさに左右に目をやって、
「リッキー、お前なあ。リビングで不用意に出すなよ、こんなもの」
気持ち声を潜めて言う。誰かに見られたらどーすんだと。
うちで見られて都合悪い誰かって、一人に特定されるじゃんとリッキーは思いつつ、
「いいじゃん。男同士だけなんだからさ。アルフィンは部屋だし」
うししと笑って見せる。ジョウは苦り顔を作った。
リッキーが渡したのは、いわゆるAV--アダルトビデオだった。どぎついキャッチコピーと肌色の面積が多い女体。俳優とからんでいる直截的なシーンもいくつかコラージュのように貼りあわされている。
「つうかな、俺、べつに貸してくれとかひとことも言ってないからな」
誰にともなく弁解口調のジョウ。
「でも、俺らがいいの手に入ったぜってこないだ話した時、興味ありそうだったじゃん」
「そりゃ、俺も男だから興味ぐらいは湧くさ。でもそれと、実際に借りたいってのは話が別だ」
「あ、そ。ーーじゃこれ、兄貴には貸さなくていいんだね」
ジョウから、AVのパッケージを取り返そうと手を伸ばす。と、それをさっと躱すジョウ。
「お」
「べつに、借りないとは言ってないだろ」
真面目な顔を取り繕うのが面白くて、リッキーは吹き出した。
「へへーーむっつりじゃん、兄貴。アルフィン、知らないんだろうなあ、兄貴のこういう一面」
「知られてたまるか」
「まあねえ」
共犯の笑みを互いに交わして、んじゃ、とそれぞれ私室に引き取ろうとする二人。
すると、そこへ、血相を変えてアルフィンがリビングに飛び込んできた。
「リッキー!」
自動ドアが開ききらぬ間に身体をねじ込んで、リッキーに目を留めるなり掴みかかる。首っ玉をぎりぎりとねじ上げた。
「なななな、なに、何だい?」
爪先立ちになって、リッキーが目を白黒させた。唐突な展開にジョウは呆気に取られている。
彼には目もくれず、アルフィンは真っ赤になって怒鳴った。
「何だい?じゃない!何なの、これ。あ、あんたから借りたBR、な、中身、っ」
「中身?」
アルフィンがリッキーをつるし上げる手を緩め、投げつけるみたいに押し当てたBRのパッケージ、一見するといま話題のアクション映画のものだった。
「中身って、なんだってんだよ」
怪訝そうな顔でリッキーがおもむろに中を開いて見てーー「あ」と顔面蒼白になった。
リッキーの手元を覗いたジョウも「あ」ぱかっと口を開く。
アクション映画のBRの中身、ディスク入れに収まっていたのは、ーーさっき、ジョウが彼から借りた「どぎついキャッチコピーに肌色の男女がもつれ合っている」AVだった。
え?え?
何でアルフィンの手元にこれが? 理解が追いつかない。リッキーとジョウの頭がバグを引き起こす。そんな二人にアルフィンが畳みかけた。
「ね、眠る前にアンタから借りたやつ見て寝ようっとって思って開けたら、こ、こんなディスクが入ってるんだもん。眠気が吹っ飛んじゃったわよ。こんな、《むっちり濡れ濡れナース、白衣の下に熟れた身体を押し隠し。潜入!拘束24時淫乱病棟》なんて、なんて破廉恥なのーっ」
「うわあ、そんな大声で高らかにタイトルコールしなくても、アルフィン」
「したくてしてるわけじゃないわよっ。こ、このアクション映画の中身はど、どこにいったのよう」
てかなんでこのAVが入ってんのよっとヒステリックに喚く。
ジョウはとっさに部屋に持ち込もうとしていたBRのパッケージを開いた。アルフィンに背を向けて。
すると、中には「全宇宙が泣いた☆シューティングスター・メタモルフォーゼ」と流行のアクションもののディスクがしっかり収まっている。
こ、これは……。
「ジョウ」
ぎく。背後からおそろしく低い、唸るような声が聞こえた。ぞぞぞぞ、ジョウは震えあがった。
「ジョウ、それ、なあに? どっかで見たBRのパッケージねえ」
「あーーアルフィン……ちょ、ちょっとタンマ」
じり、とアルフィンがジョウに迫る。一歩。逆にジョウは一歩、後ずさる。
鬼の形相。金髪がぐわわわわっと逆立っているように見える。メヂューサ……。
「タンマじゃないわよ。なんであなたがそのパッケージを持ってるの?それ、誰の?何で中が入れ替わってるの?」
「わ、分からん。俺は無実だ。これはリッキーのディスクで。さっき借りたばかりで」
「借りたア?」
美しいソプラノの語尾が上ずった。ひえええええ。
ジョウは壁際に追い詰められた。退路を断たれる。
「借りたってことは、観ようとしてたってこと?これから部屋でじっくりお楽しみになろうとしてたってこと?」
「い、いやそんな。俺が貸してって頼んだわけじゃない。リッキーが勝手に押し付けただけで」
すまん。リッキー。ジョウは天を仰ぐ。被害を最小限に留めるため、犠牲は少ない方がいい。
と思いきや、リッキーの姿は既にリビングにはない。脱兎のごとく逃げた後だった。
あ、き、きったねえ。ずりいぞ、お前。逃げやがったな~。
と呪詛の言葉が喉まで出かかったが、アルフィンがジョウの機先を制した。
「でも全く興味がなかったわけではないわよね?エッチな気持ちがあったから断らなかったんでしょ。そーいうことよね」
「う、ーーそ、それは……」
そこまで言い募られると、ジョウも完全否定するのは難しい。彼はトーンダウンする。
「ごめん……」
「こ、こういうのが好きなの?タイプなの、ジョウ」
え?
アルフィンがためらいをにじませ、視線を泳がせながら訊いた。
「ナースが好きなの? 看護師さんがいいの?それともむちむちの、むっちりが性癖?それとも……こ、拘束プレイ?」
「うわあ。止めろよ」
ジョウは焦って彼女の口を手でふさいだ。なんというはしたないことを口にするんだ。アルフィンからは到底聞きたくない。断じて。
「ふが」
「べ、別にナースとかが性癖に刺さったわけじゃない。信じてくれ。リッキーに話を向けられて、何気なく借りただけだ。その、男にはどうしてもそういう媒体が必要な時もあるんだよ、生理として、--ああ俺は一体何を口走ってるんだ」
ジョウはアルフィンの口を押えたまま恐ろしい速さで言葉を吐き出す。
アルフィンは目を信じられないくらい大きく見開いている。
無理に、彼の手を引き離してアルフィンはようやく呼吸が楽になる。
ぷは。
「じゃあどんなのが好きなの。タイプなのよ、言って、ジョウ」
アルフィンがすごい気迫でジョウに詰め寄る。
ジョウは負けじと声を張った。
「君だよ、俺のタイプはまんまアルフィンだ! この女優が金髪で碧眼で、少しだけ君に似てるなって思ったから、観たいなって思ったんだ。いやらしいと蔑むなら蔑んでくれ。俺は、このエロビデオが観たかった!これで満足か」
絶叫。
AVのディスクの入ったパッケージーー中身を取り違えられたーーを手にしながら、ジョウは尋常とは言えない愛の告白を当の本人にした。仁王立ちになって。

え?
ーーえ?

「「~~ええええ……」」
どちらからともなく、嘆息とも溜息ともつかぬ声が漏れる。風船から音を立てて空気が抜けるみたいに。
後にはただ、言葉なくただ陸揚げされた魚のようにぱくぱくと口を開閉させるジョウとアルフィンが取り残されたとさ。

END



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2 コメント

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Unknown (Yuki)
2024-01-10 20:58:27
hahahaha~
あださん、最高(笑)!
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おひさしぶりです (あだち)
2024-01-11 17:44:25
YUKIさん
今年もよろしくお願いしますv
たまにはコメディもいいですよね、ということでご笑覧ください。
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