背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

hug

2024年01月03日 17時37分15秒 | CJ二次創作
「眠れないのか」
ジョウが、リビングに居るアルフィンに声をかけた。そっと。
時計は23:45を過ぎている。
とっくにタロスとリッキーはそれぞれの部屋に引き取っている。
「うん……何となくね」
ジョウに言われてバツの悪そうな顔をする。なんだか今日1日元気がなかった。普段通りに振舞おうとしているが、どうしても口数が少ない。
ずっと気にかかってはいたのだが、今の今まで切り出すタイミングがなかった。
思い切って、ジョウは「少し飲むか」と誘ってみる。
アルフィンは驚いた。
「え?いいの?」
「一杯だけな。それくらいならいいだろう。年も明けたし。ナイトキャップだ」
ジョウがあたしにアルコールを勧めるなんて珍しい。そんな顔をしている。気が変わらないうちに
「嬉しい。飲みたいわ」
と微笑む。
このまま部屋に向かってベッドに入っても、きっと寝付けずにうつうつとして寝返りばかりのような気がしていた。
じゃ用意してくるよと彼がキッチンへ向かう。至れり尽くせりだ。
元気がないの、そんなに顔に出てたかなあ、あたし。……アルフィンは少し、反省する。でも、ジョウがそれをちゃんと見ていてくれて、気にかけてくれるのは、どうしようもなく嬉しい。心がほっこりした。
しばらくして、ワインとグラスを持ってジョウが戻ってくる。
「あ、それタロスのとっておき。いいの?飲んじゃって」
「いいさ。一杯ずつくらいなら飲んだってわかりゃしない。ただし、一杯だけだぞ」
酒乱の気のある彼女に釘を刺す。
「やった」
アルフィンが手を打って笑う。笑顔が見られたというだけで、ジョウはほっとする。
グラスにとろりと赤い液体を半分ずつ注いで、縁をかちんと打ち付ける。頂きますと言って、アルフィンが口にワインを運んだ。ジョウもそれに倣う。
しばし、雑談をしながら緩く会話を続けた。
「さっきより少し顔色が良くなった。リラックスした?」
ジョウは元よりあまり酔いが顔に出ないほう。肌が浅黒いし、今夜はアルフィンが飲むペースや彼女の様子に気を配っているから尚更。逆にアルフィンは色白で色素も薄いので酔いがすぐに出るタイプだった。
「うん。ありがとう」
「……」
「ジョウは訊かないのね。何があったのか」
問いかけないのはきっと彼の優しさだ。眠れない夜、ただ一緒に居てくれる。側に居てくれる。他愛ない話を相槌を打ちながら聞いてくれる。
そんな思いやりがどれだけありがたいか。救われるか。きっと彼が思っている以上だ。
アルフィンはグラスを両手で包み込むように持ちながら、ソファの隣に座る彼を見た。
「……」
ジョウはうんともいやとも答えず、ただグラスの底にわだかまるワインを見下ろした。
ややあって、
「そういう時も、あるよな。元気でない時、何となく調子悪い時。……漠然と不安だったり、気落ちするとき」
「ジョウでも、あるの」
思わず言葉を被せた。ジョウはうっすら笑った。
「あるさ。俺だって人間だぜ」
「うん……でも。ジョウは強いから、そういう気分に左右されないのかなって、なんだか勝手に思っちゃってたわ」
ごめんなさいと囁く。彼は首を横に振った。
「謝ることはないさ。俺がふさいだ時は君が明るく振舞って掬い上げてくれるだろう。お互い様だよ」
「そうかな」
「うん。無意識かもしれないけど、そういう君を見てると元気になる。楽になってるんだ」
アルフィンは言葉に詰まった。そんな風に思ってくれているなんて、知らなかった。そして、ジョウがそう言葉にしてくれるなんて、思ってもいなかった。
あたし、今日落ち込んでいるの、そんなに見え見えだったのかな。
恥ずかしいのと嬉しいのとしんどいのがよみがえるのと、色々な気持ちがごっちゃになって、上手く表現できない。
だから沈黙するしかなかった。
ジョウはまだ残りが入っているグラスをローテーブルに置いた。ことりと乾いた音がした。
「いいんだよ。辛いときは無理しないで、そのままでいていいんだ。時間に任せてゆっくり浮上すればいい」
元気いっぱいだけじゃない。落ちこむときがあるのも、アルフィンだろ。
そう言って側に居てくれる。
彼の横顔を、アルフィンは息を詰めて見つめた。
「ジョウ……」
「うん?」
「お願いがあるの。いい?」
彼女もグラスをそっと置く。彼のグラスの隣に。
並べて、アルフィンは彼に向き直る。
「ちょっとハグしてほしい。ちょっとの間でいいから」
「……おいで」
ジョウが腕を開いた。アルフィンが座る側を。
アルフィンはジョウの胸に頭を凭せ掛ける。ジョウは懐に彼女を抱き寄せた。
頭を、顎の下に挟むように迎え入れた。肩を抱いて、
「大丈夫だよ。大丈夫」
ただ、それだけ呟いた。
何の根拠もない、慰めの言葉。アルフィンの肩をあやすようにその手で擦って、また言葉を口に載せる。
「元気出せなんて言わないから。元気が出ない時は、そのままでいていいんだ」
側に居るから。そう言った。
「ーー」
アルフィンはつい涙ぐんだ。視界が透明なもので滲む。
ん……。
彼女はそっと目を閉じた。そのタイミングで滴がこぼれ頬を伝う。
まるで上質な紺色のびろうどにすっぽりと包まれているみたいに安心できた。夜みたい。ジョウ自体が深くてあったかい夜の暗がりみたい。
ジョウは夜が更け、日にちが変わるまでずっとそこでそうしてあげた。
彼のハグとナイトキャップのおかげもあってか、その夜アルフィンは安らかな気持ちでベッドに入り、深い眠りに就くことができた。

END

少しでも穏やかな時間が訪れますことを……。

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