背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

マスク越しの(手塚×柴崎)

2021年05月09日 07時24分33秒 | 【別冊図書館戦争Ⅱ】以降
ステイホームが推奨されてから久しく、図書館の利用客数は右肩上がりになっていた。
生活様式が変わりおうち時間が増えたことで、以前よりも本を手に取って読む人が増えたのは嬉しいことだが、新型感染症は猛威をふるい一向に収まる気配が見えない。なんとも矛盾した状況の中、緊張をはらんだ毎日の勤務は続いている。

「おつかれ」
「うん」
ランチタイム。開放された職員共有のスぺースで手塚と柴崎が落ち合う。
昼休憩にめっきり外食に行くのも減った。というか自粛の御触れが出ている。
今まで通っていた店からテイクアウトしてきてなんとかサポートを、という職員が多い。今日は手塚が早めに午前切り上げられたので、外に出て柴崎の分もカレーとサラダを買い込んできていた。
もう彼女のカレーの辛さの好みも分かっている。
柴崎は手塚の前の席に座り、マスクを外しケースに収めた。両手を合わせる。
「美味しそう。いただきます」
「ん」
手塚は正面からじっと柴崎の顔を見つめ、手をつけない。
「……なあに?」
髪が前に流れないように利き手と反対の手でそっと抑えながら柴崎は上目ですくった。
「ん。いつもマスク着けてるから、素顔見るの新鮮だなって思って」
ようやく大きな手でスプーンを動かし始める。手塚は柴崎よりも若干甘めが好み。
がぶりと食らいつき、健全な食欲を見せつける。
「……素顔って、化粧、してるんだけど一応」
照れ隠しのためか柴崎もぱくつく。
「そういう意味じゃない」
「わかってる。ーーあんたの前じゃ、マスク、外してるじゃない」
二人きりのとき、個室のとき限定だが、いつも。
「そうだな。不謹慎だけど、お前が外でいつもマスクを着けるようになってから、大分男たちに見られたりモーションかけられたりしなくなったのは俺にとっては行幸だな」
「ぎょうこう、って大げさな」
ほのかに頬が赤らむ。手塚は気づいているのにいないふりで、さらりと言う。
「大げさじゃない。不幸中の幸いってとこだ。
お前のきれいな顔、独占できるのは」
「……あんたは訓練中もマスクつけて大変ね。息苦しいし、汗も籠るし」
「そんなにやわに鍛えてない。平気だ」
「……」
今日はどうにも分が悪い。柴崎は黙ってカレーを口に運んだ。
言われてみれば、マスクじゃない手塚の顔を外でこうやって改めて見ると新鮮に感じる。まるで初めて知らない男と対面しているような。
ーーあたしも行幸かも。この人の素顔を独占できるのは。
でも、ちょっとだけ不満もある。あたしが付き合ってるのはこんなカッコいい男なんですよ、ってみんなに見せつけたい思いもあるのよあたしには。
あたしは手塚よりちょっとだけ心が黒い。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした。美味しかった」
手塚と柴崎はマスクを着けて席を立ち、次の職員に譲る。混みあわないようにランチタイムの調整も入るようになってはいるものの、次第に人が多くなってきた。
開放スペースを出て、ついと柴崎が手塚の腕を引いて物陰に誘導した。ちょっと、と言いながら。
「?」
人目がないのを確認して、柴崎が手塚のマスクをひょいと顎にずらす。
自分のも手早く外して、彼にキス。
背伸びして、唇をかすめとる。
「ーーっ」
眼を白黒させた手塚のマスクを元に戻してやって、素知らぬ顔で柴崎もまたマスク装着。
手塚はマスク越しに自分の口を押えた。真っ赤に茹で上がっている。
「お前……いきなり外でこんな、誰かに見られたら、」
「そんなへましないもーん。カレーのお礼よ、美味しかった」
素知らぬ風に柴崎は耳当ての部分の髪の毛を直した。手塚はくしゃっと頭を掻いた。
「お礼、ってな」
「今晩、会える? 寮で少しでも」
虚を突かれたが、すぐに手塚は頷く。
「……ああ。風呂の後、ロビーで。いつもの時間に」
「わかった」
楽しみにしてる。そう言って戻ろうとする柴崎の腕を把って、今度は手塚がかがんでキス。
マスク越しの。
面食らった柴崎が声を失っていると、
「じかにすんの、反則だぞ、今は。外では」
顔を赤らめたまま、生真面目に言った。だいぶん照れ隠しも上乗せして。
「はあい」
花がほころぶように柴崎が笑った。マスクに隠れていたが、それが手塚には分かった。
「外じゃないところではじかにしてね」
あでやかにウインク。
「ばか」
「じゃあ夜に」
約束して別れた。

その夜、寮で二人の約束はかなえられた。ーー何度も、何度も。



リハビリの小話です。ま、まだ書けた……ことが信じられません。五年ぶり?くらい?
手塚と柴崎は、やはりいい。力説
今の、このような状況下で少しでも読んでくださった方のお気持ちが和らいだり、ほっと緩んだりしてくださればこの上ない喜びです。
不在の間もお越しくださってありがとうございました。

安達 薫








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